表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
穢人  作者: デラパゴス
3/10

1ー1

何が起きたのか、分からなかった。


母親と買い物をするために外出し、街を歩いていた。

たくさんの人が歩き、目的の場所へと向かう。

たくさんの人とすれ違い、見上げると隣に母親がいる。

よくある風景。いつも母親と買い物をする時に見る光景。


だが、初めて見るモノが現れた。

すれ違った男。虚ろな目をしていて、歩調も安定していない。何かブツブツと言葉を発しているが聞き取れず、その口端からはヨダレを垂らしている。


「ねえ、ママ」

「なあに、シノ?」


男の事が奇妙で、シノは母親に話しかけた。


「あの人....」


男を指差し、その方向を母親と一緒に向いたその瞬間。


「アアアアアアアアアア!!!!!!!!」


その男が頭を抱えながら叫び、暴れだした。

背中からは黒い粒子が絶えず出続け、人間ではないような雰囲気を漂わせる。


周りにいた人たちは一瞬何が起こったのか理解しかねていたが、理解した瞬間に空気が変わった。

その場にいた人が顔色を変え、悲鳴を上げ、我先にと逃げ出す。


「シノ、逃げるよ!早く!」


シノは状況が飲み込めず、その場で立ち止まって男の人をジッと見てしまった。


「アアア、アア、アアア!!」


その男は逃げ出す人を殺していく。

動きも人間離れしていて迅く、腕を一突きしただけで人の体が貫かれる。


シノは人の体から吹き出る鮮血を間近で見てしまい、足が震え動くことが出来なくなってしまった。

恐怖、畏れ、畏怖。恐れの感情しか出てこない。


「シノ!シノ!」


母親が慌てた声で名前を呼んでいるのに反応できない。身体が石のように固まってしまい動かすことも出来ない。


そして、その男は首を回してシノを視界に捉える。

全身が縮み上がった。次は自分なのだと理解した。心なしか呼吸が早くなる。心臓が早鐘を打ち、警鐘を鳴らす。額から汗が噴き出る。逃げたいのに逃げられない。動きたいのに動けない。


その男はゆっくり、ゆっくりとシノに近付く。

シノは早い呼吸をしながら男の顔を見る。

するとニタァと笑い、一瞬で距離が詰まった。


何が起こったのか、理解出来なかった。

急に眼前に現れた顔。その腕は既に上にあげられ、振り下ろすだけだった。

シノは感じた。『死』というものを。

目から涙が溢れる。数秒後に訪れる『死』が怖かった。


「シノ!」


シノに当たる寸前、母親がシノを思いっきり引っ張った。

後ろへ急激に引っ張られ、シノは何が起こったのか理解出来ずにいる。

振り下ろされた腕が地面に当たった。


大きな音が響き、衝撃で地面が抉れた。余波で母娘も吹き飛ばされ、その衝撃の大きさを物語る。

周囲にも大小の石が飛び、建物に損害を与えた。


「ウッ...!」


大きな石が不幸にもシノの母親の頭に当たり、小さい呻き声を上げて倒れた。


「お母さん!」


母親は頭から多量の血を流し、気を失ってしまった。

どんどん流れる血を見て、シノの目から更に涙が溢れる。

母親が死んでしまうかもしれないという恐怖。自分では何も出来ない無力感。

ただただ泣き叫ぶことしか出来なかった。


「お母さん!お母さん!」


それでも男は止まらない。仕留め損なった標的に歩いて近づく。

今度はゆっくり、ゆっくりと。


「お母さん!お母さん!」


しかしシノは気付かない。母親へ呼びかけるのに必死だからだ。


「.....!!」


そして近付いていることに影で気付いた。

恐る恐る見上げると男はまたニタァと笑い、腕を上げた。

シノは母親だけでもと全身を母親に被せる。


「アアアアアアア!!!!!」


男の腕が振り下ろされる時、風が吹いた。

シノは全身に衝撃を受け、直後包まれる。

それは温かく、昔を思い起こされる。


「え....」


目をゆっくり開けると、空を飛んでいた。

頭での理解が追いつかず、そして気付いた。誰かに抱かれていると。滑り込んで来た人に助けられたのだと。


抱いている筋肉は密度が高く、腕も丸太みたいな太さではないのに力強さを感じる。

シノは自分を抱く人物の顔を見ようと見上げた。


男の人だった。髪は黒く、短く揃えられた髪の毛は逆立っていた。

男を見据える瞳もまた黒く、睨んでいるようにも見える。

でも、その瞳は綺麗で澄んでいた。


瞳をずっと見ていたら気付いたのか、2人の目が合う。


「.....大丈夫?」


その男は気遣うように声をかける。その左肩には母親が乗っていた。

シノは1度頷くと、その男・シュンは安心するように優しく微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ