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影食いリルマ  作者: 雨月
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第四十八話:ふざけた占い師

 駅前を歩いていて、声をかけられた。

「もし」

「え、俺?」

「いえ、違います」

 なんだ、人間違いか。恥ずかしいな。

「いや、やっぱりあなたです」

 どっちだよ。

「俺ですか? 本当に俺であっているんですね?」

「そうです。ちょっと、座ってください」

 ちょっとした机に紫色の布がかけられて、手相占いと書かれた布がたらされている。机の上には食事処にある割り箸立てのようなものが置いてあった。

「ちょっと毛先が気になったので声をかけました」

「毛先?」

「少し痛んでますね。トリートメントを見直してみては?」

 まさか、占い師からナンパされる日が来るとは。白井の事もあって多少警戒したが、見た感じ普通の占い師。俺の杞憂のようだ……ちょっと変な人だが。

「ふーむ、ふむふむ」

 次に俺の右手を手にとって、おばさんはなにやら呟いている。怪しげな器具を出してチェックを続けていた。

 数分後、占い師はいきなり顔をあげた。ちょっと怖かった。

「わかりました」

「えっと、何が?」

「あなたの顔には、受難と女難とジョナサンの相がいずれ出ます」

「……え? どういうことです?」

 手相を見ていたのに、俺の顔に出る、だと。これがこの人のやり方ならすげぇパンチがきいているよ。

 内容は未来形か。しかも、何だよ、ジョナサンって。外国人の知り合いにそんな奴はいねぇ。

「この先を聞くには、三千円になります」

「……え、お金、取るんですか」

「これも商売ですから。大抵の人は座らずに素通りしますよ」

 まぁ、この人の言う通り嫌ならほいほい座らなければいいんだよな。しかしよ、あんな出鼻をくじかれるような声のかけられかたなら普通の人間は絶対に捕まる。﨑が気になってしまった俺は見事にいい鴨だよ。

「……わかりました」

 占いなんてこれまでしたことないし、いい機会かもしれない。話のタネに一度くらいはいいだろう。

 俺は三千円をおばさんに手渡す。

「このお札……」

「え、何か?」

「いえ、実は……やはりやめておきましょう。聞かなければよかったと後悔します」

「そこまで言われると気になるんで教えてください」

「そうですか? わかりました。このお札を触った方はこれまで十七名の方は命を落としています」

「……」

 聞くんじゃなかった。こんなことを言うのはこのおばさんが初めてだろうなぁ。

「はい、確かに三千円。では、これを」

 そういって何かを渡してくる。

「お守り?」

 怪訝そうな顔で俺が見ると占い師は笑った。

「こちらの御代は結構です。サービスします」

「はぁ、どうも」

 せっかくだからもらっておこう。

「一度きりですが、あなたの身に降りかかる災厄から守ってくれます」

「えーと、具体的にはどんな感じに守ってくれるんでしょう?」

 お金払ったんだから詳しく突っ込んでもいいよな。

 お守りっていろいろある。安産とか交通安全、恋愛成就と言った具合に。

「効果が発揮されると、衛生砲が起動し、半径三メートルに攻撃を開始します」

「え」

 アクティブすぎるお守りである。お守り(軍用)って名前がつきそうだ。しかも、よく考えると守れてねぇ。俺も駄目になるじゃん、それ。

「というのは冗談で」

 よかった、冗談で。

「役目を果たすとそれなりに破裂するだけです。風船が破裂する程度でしょうか。あくまで一度限りなので、破裂したままだと不良品だと思うかもしれません」

 そりゃそうなると思う。そもそも、危険だ。

「事前に身を守ってくれているので持っていても効果を実感しにくいでしょう。お守りが破裂した場合は回避できたと思ってください」

 まぁ、プロがそういうのならそうなんだろうなぁ。

 変な占いをされて、変なお守りをただでもらった。これで三千円は高いのか安いのか、占いなんて受けた事ないからよくわからないな。

 ただ、まだ続きがあるらしい。

「さて、では恋愛運について知りたいですか?」

 女難がと言われた時点でお察しである。聞きたくはないが、それから行こうか。

「お願いします」

 よく分からないがこのおばさんには変な能力が備わっているのかもしれない。

「あなた、ここ一年以内に彼女と別れましたね」

 すげぇ、もう当ててきた。

「正確に言うと、九月ごろですね」

「は、はい」

「名前には、すとみとれが入っていますねぇ」

 もう黙り込むしかない。ここまでくると普通に怖い。名前を言い当て……言い当てたのかね、これは。

「そして、頭の悪そうな金髪だとか、癖の強い白い女の影がちらほら、あとはつんつんしている年下の子ももしかしたらワンチャンスあるかも……どれもこれも厄介ごとを持ってきますね」

 あと、知り合いなのかわからない連中がすげぇ馬鹿にされている気がする。

「もし付き合いだしたら頭の悪い金髪は一途に、というより圧倒してくるほどあなたの事を想ってきます。白い女は取り扱いを間違えるとやばいタイプですが、おおむね問題はありません。つまらないツンツンが一番常識的ですね、ちょっと変わった趣味を除けば」

 他にも何枠かチャンスがあるとはやりますねお客さんと言われた。素直に褒められているとは思えない。

「おばさんが凄いのは十分わかりましたが……それで、最初に三つ上げてもらった中で一番気をつけるのはどれですか?」

 恋愛運を気にするよりも、これから先に起こりそうな面倒事だ。

「そうですね……」

 占い師は悩んだ風に顎に手を当てる。

 俺が頭に浮かんだのは女難だ。リルマはともかく、白井海、美空美紀という問題が起こっていたからな。ああ、ついでに言うのならすみれからフラれたのも入るかも。もう一個おまけで目の前の占い師に話しかけられた事も入れていい。

 やはり、恋愛運は聞く必要がなさそうだ。聞かなくても無理やり言われた気がするけどさ。

「気を付けるのはジョナサン、でしょうか」

「何故そのチョイスなんでしょう」

「受難と女難は気をつけていれば占い聞かなくてもどうにかなります」

 自分の存在を否定しながらまっとうな事を言われた。

「女性関係ならあなたが常に女性に誠実で、余計に相手の気持ちを引かず、ふらふらしないように特定の人物に対してしっかり心を向けていれば一切問題は起きません」

 そりゃそうだけどさ、なんだかぐさぐさぐさっと未来の俺に突き刺さりそうなのはなぜだろう。いや、誠実だよね、未来の俺よ。

 しかし、気を付けていればどうにかなるって占いとしてどうなんだ。そう上手くいくものでもないだろ。

 実際、すみれはともかく、白井海と美空美紀はどうしようもなかった気がするんだ。

 回避方法を知った状態で過去に戻ることが出来るのならそりゃ上手くいくんだろうけどさ。それこそ、すみれにフラれないような立ち回りをするか、俺の方からすみれをふってあの時間、あの場所にいないといけないわけで。

「頭の悪い金髪と出会わないようにするにはフラれた時点で泣きながら逃走ですね。金髪と出会った状態で白い女に出会わない方法は昼の時間帯につんつん女に接触し正体を暴くと言う難しい事をする必要があります」

 人間の一生は一度しかないのでそんな二週目プレイ推奨みたいなことを言われても困る。

「……ただ、どれだけ回避しようとジョナサンだけはどうしようもありません。先ほど渡したお守りでも無理です。ちなみに、駄目な時は俺じゃ無理だわ、うぎゃあといって破裂します」

「そ、そうですか」

 そんなお守り嫌だ。あと、受難と女難より一番避けられそうな事柄なんですけど。

「ええ、しかし、このジョナサン専用のお守りを買えば、ジョナサンの被害を防ぐことが出来ます。ただ、あまりに想像を超えるジョナサンが来ればお守りも破裂してしまいますが」

 あまりに想像を超えるジョナサンってなんだよ。そんなやつがいるのか。逆に見てみたい気もする。

 しかし、影食いとかカゲノイとか、そんな能力を持った人たちと出会ってきたことを考えると、占いを頭っから否定することもできないんだよな。何か人外の力が作用しているかもしれないし、さっきこのおばさん、当てたもんなぁ。

 保険をかけておきたい。俺は懐から財布を取り出した。相手の思うつぼだが、気休め程度にはなるだろう。

「そのお守り、いくらですか?」

 改めて取り出されたお守りを見る。

 ふっかけられるかもしれない。あまりに高かったらやめておこう。年末だって近づいているし、余計な出費は減らしたい。この前のファミレス代もバカにならなかった。

「百円です」

「やっす」

 思った以上に安かった。この価格で、大丈夫だろうか。

「値段がお守りの効力に関係しているわけではありませんよ」

「では、何が?」

「時の運です」

 お守り関係ねぇじゃん。

「買いますか、買わないんですか?」

「じゃあ、買います」

「まいど」

 不思議な気分である。占い屋さんがまいどなんて言葉を使っていいのだろうか。

 もっとも、家に帰ってそのお守りを改めて見た時点で俺は無駄な買い物をしてしまった。本当にそう思えた。


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