第四十一話:一区切り感
十二月一日、俺は青空を眺めていた。
「いい天気だ」
絶好のバーベキュー日和で休日でもある。風が吹くと少しだけ寒いが、今日は暖かい方なのでラッキーだと思う。日ごろの行いがいい人間が多いようだな。
裕二がやりたいと言い出して、宗也が道具を出した。参加メンバーが各々好きな食べ物を持ってくるというちょっと頼りない考えの下で今日を迎えた。
知識や経験は中途半端なときが一番危ない。計画だって、きっちりさせるべきなんだ。
「啓輔、空なんて眺めてないで手伝ってくれよ」
「おうよ」
あれから、病院での崩壊から少し経った。
病院の崩壊は元から囁かれていたらしく、当然の結果だろうと言われた。ただ、現場を目撃した数人は黒い影のようなものが吹き出したと、やはり病院には悪霊が住んでいたのだと言われたりもする。
まぁ、そんな感じで影響が出ていないようなのでよかった。いくら取り壊すとはいえ、建物をぶっ壊したのだ。それなりの罪悪感がある。ばれたら警察行きだろうな。
のちに聞いた話だが、そこらへんは誰かがうまくやってくれたらしい。その誰かさんに感謝しておかなくてはいけない。
「それで、集まった面子が持って来た食材は肉だけだよなぁ?」
「はい。豚肉、牛肉、鶏肉、羊にダチョウに山羊……おにいちゃんが今、おいしいたれを買いに行ってます」
「よし、じゃあ宗也に野菜を買ってくるよう連絡しといてくれ」
白井に関しては短いながらも共闘したからか、リルマとがっちり握手をした。俺を影食いし、とあるタイミングで手を放したところ俺の目から白井が出てきたときには本当に驚いたもんだ。
そのときの会話は今でも覚えている。
「あのさ」
「何でしょう?」
衰弱していたカゲノイ白井を連行するのだろうかと見守っているとリルマは難しい顔をしていた。
「……カゲノイって保護対象なの?」
成敗っ、というのかと思ったら首を傾げてそんな事を聞いていたのだった。
「ええ。ですが、一部の影食いは私達を殺す勢いで襲ってきますが」
リルマに対しての皮肉というわけでもなさそうだ。
「そ、そうなんだ。私はおじいちゃんからそういうものだと教えられたまま育ったからそうだと思っちゃった。いきなり蹴ってごめんなさい」
素直に頭を下げて、リルマは謝罪していた。
「私の方も多少、強引でしたから。おあいこです。何か困ったときは連絡してください。力になりますよ」
「ありがとう」
そのあと、俺の方にやってきた。
「なんだ?」
「お別れの挨拶を。あと、啓輔さんも私に連絡してくださいね」
「どういうときに?」
そう言うとさらに顔を近づけられ、耳元でささやくように言うのだった。
「一人で眠るのが嫌になった時です。後、困ったとき。どこに居ても、駆けつけますから、ね?」
俺は連絡しないことにした。連絡しなくても絶対に来ると言う予感があった。
「ではお二人とも、またいつか」
そんな感じで、白井とは別れたのだ。なお、別れたその日の晩に向こうから連絡があったりする。
「おーい、なにぼうっとしてるんだよ」
裕二に小突かれた。
「悪い。さぁ、焼こうか」
「火っていいよねぇ。あたしってば、火を見ると心がうずうずしてくる。腹の底から湧き出てくる着火衝動にかられちゃうんだ」
「……おい、ライター類は隠しとけよ。やべぇ奴がいるから」
そして、迷惑極まりなかった美空美紀だが、脱出時には結果的にリルマに助けられた。まぁ、喧嘩を吹っかけられたからかごねたんだけどな。
「えー、助けるの? 影食いなんだから放置していても大丈夫だって」
「何かあったらどうするんだよ」
「……そうだけどさー」
背負ったのは結局俺だった。
寒くなってきたこの時期、脱出後に気絶した美空美紀に工事現場においてあったバケツに水を汲み、ぶっ掛けて意識を取り戻させた。多少、手荒な感じではあったものの、一発で目が覚めたのでリルマの憂さも晴れて一石二鳥だろう。
「私の勝ちは、勝ちだからね」
「……認めないから。そっちはその愚図も入れて複数だった」
「はぁ? 当然でしょ。啓輔は私の相棒だもん。私達に、喧嘩を売ったのが間違いよ」
まぁ、危険な目にあったものの、相棒認定してもらえたので結果オーライと考えよう。
「啓輔、お疲れ。お肉焼けたわよ」
「おう、さんきゅ」
テーブル設置やら肉焼きやらしていたら食べるのを忘れていた。今では歓談タイムだ。
「この前は助けてくれてありがとね」
「この前? ああ、病院の一件か。あれはリルマが助けに来てくれたんだろ」
「まぁ、そうだけど。事実助かったからね……ありがと、啓輔」
はにかんでいるリルマは可愛いもんだ。
素直なところは長所だな。俺は感謝を受け取っておくことにした。
「ところで、美空には罰則とか影食い側からないのか?」
「そのことなんだけれど、気になってちょっと調べたのね」
「リルマが興味を持つのはいいことだな」
誰に聞いたのかちょっと気になるけど。
「ああいう性格みたい。色々な場所で影食いとその関係者にちょっかいだして、果し合いしたりしているそうよ。日本全国を旅してまわっているんじゃないかな」
なんともはた迷惑な存在である。狂犬とまでは言わないが、闘犬ってところか?
「あれ? でも俺、あいつの母ちゃんこの町で見たことあるぜ?」
「へぇ、じゃあここがあいつの拠点なのかもね。ということは、何かまたあるのかもね」
「……不吉なことを言わないでくれよ」
ふと、美空美紀と目があった。軽くにらまれた。俺はほほ笑んでおいたが、更に睨まれた。
またちょっかいを出されそうある。
「色々あったなぁ」
いまだにいくつか疑問は残るものの、白井はいなくなったし美空美紀の事もきっかけはどうであれ気になることはなくなったのだ。
「まぁ、一つの区切りってことで今日は楽しみましょ」
「そうだな」
リルマの言葉に俺は頷き、肉を頬張った。寒空ながら外で楽しい時間を過ごし、今年一年を振り返る余裕があった。




