第二十八話:半スケ系美少女在住?
青木が話す場所として指定してきたのは俺の借りている部屋だった。
奴の狙いは間違いなく家捜しだ。
「ここに啓輔さんが住んでいるんですね」
「静かな場所よね。あ、この前来た時はバイクが無かったのに置いてある」
そういえばリルマは俺がバイクに乗っていることは知ってたな。あの時はリルマが怖くて逃げだしたんだっけ。なんだかものすごく前の事のようで懐かしいよ。
「うっわ、啓輔ってこんなところに住んでるんだ。しょぼ」
「青木、そんなに帰りたいのか」
相変わらず失礼な奴だ。
「ちょっとした冗談だってば。それに、帰していいの? 用事があるんでしょ?」
「ぐぬぬ……」
三者三様の言葉をいただき、俺は三人を中へと案内する。
「部屋、思ったよりも狭いわね」
リルマが室内を見てそんなことを言った
「一人暮らしだからな」
蛍ちゃんはトイレのドアを開けている。
「トイレも一人用ですね」
「一人暮らしだからね」
青木は押入れの近くを眺めている。
「あ、部屋の片隅に黒髪で半透明の女が笑ってる……」
「一人暮らしだからなっ!」
そんな瑕疵物件に住んでいるわけがない。女の幽霊憑き……これで夜も寂しくない、おかずにもいいってね、ってなるわけがない。
幽霊をおかずには出来ない。俺はそこまで上級者じゃない。
「じゃあ早速家捜し」
目を輝かせ、俺の部屋を見渡す青木。相変わらず仕方のない奴だ。
「していい?」
「勝手にしろよ」
そこは許可取るんだとリルマと蛍ちゃんが驚いていた。
「あれ? いいの?」
「やりたいって言ったのはおまえだろ」
今はデジタルの時代だ。見られて困るものはパソコンの中にある。昔ながらの紙媒体も悪くないが、かさばるし、母ちゃんの不意の来訪もありえる。
リスクは背負うものじゃない、極力減らすものだ。もちろん、パソコンのパスワードにも隙はない。一か月に一度、変更している。
「これはブラフっ。圧倒的ブラフ……奴の、奴の心の中は、実は、荒波っ。台風、まさしく台風の海っ! 本当は荒れ狂って、怯え縮こまっているっ」
「そういうのはいいから、探すんなら早く探せ」
「はーい」
心にゆとりがあるって大切なことだ。今なら誰にだって優しく出来る気がする。最初からないものを見つけるなんて、不可能だからな。
「これ……ねぇ、啓輔」
「なんだ? って、リルマたちも家探ししてるのか」
お茶の準備をしているとリルマに話しかけられた。
「あんた、こんなゲームやってるの?」
美少女ゲームのパッケージを渡されて俺はなんだったっけと考える。
「ああ、それな。宗……蛍ちゃんの兄貴からもらったもんだよ」
「え、そうなんですか?」
蛍ちゃんがそういってゲームのタイトルを見る。青木も覗き込んできた。
「宗也君が彼女に振られた啓輔を慰めようとして渡したものだね。イラストはかわいいなぁ。うっわ、登場人物全部巨乳って最高だねぇ、浪漫だねぇ」
状況を把握していたようで、青木は冷静だった。宗也の奴はどれだけ情報をリークしているんだ。しかし、ここにいるメンツも一般的より巨乳寄りだけどな。なんだろう、その割には全然わくわくしてこないんだ。
「ふーん? 蛍の兄貴からもらって、それに没頭してるってわけ?」
リルマは何とも言えない表情を向けてきている。お兄ちゃんのグラビア本を見つけた妹みたいな顔だった。
「最近してないな……というか、ちょっとプレイしてそれっきりだ」
俺、ゲームに求めるものは冒険なのよね。綺麗な景色を拝んだり、人が行けないような極限の環境に行ったりするのが好きだ。幻想的なものも意外と好きだから、最近は血しぶきと発砲するゲームをやっていた。
「それってさ、本当の事言ってる?」
リルマは露骨に怪しがっている。これは俺のグラビア本じゃなくて、友達が忘れて行ったんだと言う見苦しい言い訳に対する返答みたいだ。
「実際に起動させてみればわかるよ、リルマちゃん。そういうゲームってCG集があるから」
「CG集? 何それ蛍ちゃん」
青木は首をかしげていた。知っていて聞いているのか、本当に知らないのかこいつの場合はわからないな。
「イベントのときに表示されるちょっとしたご褒美みたいなものです。一度でも見れば表示されますから」
やけに詳しいのな、蛍ちゃん。さすが、宗也の妹だけはある。
「蛍ちゃんもそういうゲームするのな。でも、男が女の子を攻略するゲームして楽しい物なのか?」
「甘いなぁ、啓輔。逆もあるんだよ。ゲームの中で、あたしイケメンたちにモテモテ。うは、最高すぎる世界っ」
青木がそういってしたり顔。お前もやってるのか。知らないふりして聞くなんて、何が狙いなんだか。
「なるほどね、女性向けか。蛍ちゃんはそう言ったところからCG集という単語を覚えたわけか」
「あ、いえ。私は男と、男を……いや、やっぱりなんでもないです」
「やるねぇ、レベルが高い」
青木がにやにやしている。蛍ちゃんは何を言いたかったのだろうか。俺にはよくわからなかった。わかりたくもなかった。
「ともかく、これ、起動させますね」
「じゃ、ゆっくりしてろよ。俺はお茶を準備するから」
ゲーム機を引っ張り出して起動させている三人を尻目に、俺はお茶の準備を始めるのであった。
結局、俺がろくにしていないことが皆に知れ渡り(俺が一度やった時の終わり方はバッドエンドということも発覚した)、興味はそれっきりになった。
「これ、借りてもいいですか?」
「ごめんね、それは友達からもらった大切なもんだから」
「そう、ですよね」
ああ、そんな表情をしないでほしいなぁ。
「まぁ……宗也の妹さんだしいいか」
「甘いよねぇ。ちょっとおとなしい女の子に対してはこれだ」
「え、そうなの?」
リルマが驚いている。青木の奴、俺の事を危ない先輩だと刷り込ませる気か。そうはさせんぞ。
「おい、青木、黙れ」
「ほら、こんな感じ。乱暴な言葉も使っちゃうんだよね」
くっ、舐められたものだ。
「相手によって態度を変えるのが本当、最低」
吐き捨てるように言いやがった。
「いいか、青木。お前もお利口にしてればリルマや蛍ちゃんと同じ態度を取ってやるぜ?」
「おりこー? 何それ、ボーノ?」
人差し指でなぜかこめかみをぐりぐり押していた。
「あれ? 私は真面目枠なんだ?」
自分を指さしてリルマが首をかしげている。
「おう。実は青木みたいだった、なら態度を改めるけどな」
「大丈夫。私は私だから」
意味わからないけどそれならいいさ。
それっきり青木とリルマはゲームに興味を失くしていた。ただ、約一名はいまだに興味を抱いているようだ。宗也からもらったものは、蛍ちゃんへと渡っていった。まぁ、貸すだけだ。
他人からもらったものは大切にしたいが、今は美空美紀の事を調べたり、白い女の事もある。ゆっくりできるようになってから返してもらおう。
「それで、何の話だっけ?」
青木の言葉でどうして呼んだのか思い出した。もし、このままの空気だったら適当に話して帰していただろう。
「そうそう、美空美紀って知ってるか?」
「美空、美紀?」
しばらく考え首をかしげた。
「だぁれ、それ? 新しい彼女?」
「違う」
「あーごめん、言い方悪かったね」
悪い悪いと頭をかきながら言って、下衆の顔になった。
「新しい人形の名前?」
「お前、お下劣すぎ。違う。そんなわけあるかよ」
「人形? どういう意味だろ」
「さぁ」
当然、リルマと蛍ちゃんがわかるわけもなく、それを見て青木は昏く笑っていた。
「いやぁ、まだまだ若いねぇ。これはね、二人の間でしか通じない秘密の言葉」
「おい、思考を平常運転にしろよ。たたき出すぞ」
「あぁ、はいはい。そんな怖い顔しないでよ。じゃ、さっきのゲームの登場人物とか? ぐへへ、啓輔ぇ、現実とゲームの違いがつかなくなったりしてない?」
境界がわからなくなるのは、ゲームをやった事が無く、批判に忙しい人たちだと思うよ。
似たような話で、宗也がモニターの壁を突破したいって言ってたっけな。僕が勉強しているのはあちらの世界に行きたいからだとも言っていた。
いつか本当にあっちに行っちまいそうで、そうなったら寂しいもんがあるなぁ。
「おい、美空美紀は遊園地に来ていただろ。ゲームの人物なわけあるか」
「ぐへへはスルーか」
当たり前だろう、面倒くさい。
この後もくだらないやり取りを何度かして満足したのか、ふと真面目な表情を見せた。
「そうねぇ、知らない。裕二君か宗也君が連れてきたんじゃないの」
「宗也はあの場所に来てないから連れて来られないだろ」
「そうだった。ま、どっちにせよ私は知らない」
「……そうか」
言われてみればそうである。青木が知っていることももう無さそうだ。
「まさか、それだけ聞いて帰れはないよね?」
「……別に、追い返さねぇよ」
青木は帰っていいよ。他の二人は残っていていいよと言おうとはしたよ。
「ふーん?」
そして思いっきり疑われていたりする。
「ま、いいや。よーし、せっかくだからお姉さんは頭がいいって事、この落ち物ゲームで二人にお披露目しちゃおう」
なんというか結局それ以降はくだらないことで盛り上がって解散した。
残念というか、当然、青木は蛍ちゃんとリルマに落ち物パズルゲームで返り討ちにあっていた。
「……ちくしょぉ、お姉さんには接待しろよぉ、ぐすん」
部屋の隅っこで、膝を抱えて腐っていた。しかし、構っていられるほど余裕はない。
「啓輔ぇ、そんなにため込んで早死にしたいの?」
「バカ言え、リルマ。ここに入れ込んだらお前なんか……」
「えいっ」
「あ、黒いお邪魔がっ。そこはいやんっ」
俺はあれだよ、策士、策におぼれたってやつだ。
久しぶりに遊ばないメンツと遊んだから楽しかった。それはいいとして、美空美紀の事だ。
やはり、裕二がキーパーソンか。青い鳥ってのはいつも近くにいるらしい。




