第七話 こけつにいらずんばこじをえず
馬車の中で、急に顔色が真っ青になり、がたがたと震えだした俺の異変に気づいた親父が、気をきかせて、今日の夜の晩餐会を欠席にしてくれた。
「きっと、陛下の顔を見て、安堵のあまり、緊張の糸が切れたのでしょう。しばらく休めば良くなりますよ」
担ぎ込まれた俺の部屋で、お腹を触診した主治医が満面の笑みを浮かべていった。
馬鹿め! 全然ちがうわ!
俺は弱々しい笑みを浮かべながら、心の中でどついた。
自室のベッドに潜り込み、シーツを頭から被りながら、一人思案に耽る。
・・・しかし、なぜ魔王はあんなところにいたんだ?
俺のなかで猜疑心という名の心の蛇が鎌首をもたげる。
あれの目的はなんだ?
敵情視察か?
物見湯山か?
それとも・・・、俺(ソニヤ姫)が目当てか?
様々な疑惑が心の中に浮かんでは消える。
そんな状況が続くことは精神衛生上、とってもよろしくない。
しかも、仮に目的が俺ならば、城に籠っていても万全とは言えない。
なにしろ相手は、魔法では並ぶものがいない妖精王と、怪力や特殊能力のかたまりである真祖の吸血姫との息子という、チート魔王だ。
曰く、一人で一軍に匹敵する戦略兵器。
曰く、無限大のヒットポイントと、マジックポイント。
・・・俺は意を決した。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
こんなところでぐずぐずしていても、なんにも解決しない。
魔王が、その気になれば、城へと一人で攻め込んでくることもできるのだ。
そう考えると、部屋でシーツを頭から被っていても安全とは言えない。
俺は腹をくくって、魔王と接触することにした。
俺は頭からかぶっていたシーツを放り投げ、ベッドから起き上がると、いつもの脱け出しセットを身につける。
王室付きの商人から購入した、白いブラウスと紺色のスカートのセット。
しかも、黒タイツも履いて、絶対領域も確保する。
髪の毛はポニーテールにして、ピンクのリボンで結び、帽子を被る。
なんとなく、『童貞を殺す服』みたいにみえる。
そして、極めつけはこれ、ぐるぐるメガネ。
まさか、こんなアニメでしか見たことがないようなメガネが本当にあるとは思わなかった。さすがゲーム。
鏡で隅々まで確認して、コーデがばっちりなのを確認する。
そして、城内の警備の隙をついて、外へと抜け出す。
俺は夕暮れの街へと一歩を踏み出した。
こんな時間に今まで外出したことはないが、へその下あたりに力を込めて、萎えそうになる心を鼓舞する。
不退転の決意を秘めながら、魔王を探すために街中へと視線を向ける。