第五話 えすけーぷ!
「ありがとうございます。では、ここからは徒歩にてまいりましょう」
俺たちは、城門を馬に乗って強行突破して、なんとか林までたどり着いた。
途中、俺たちに向けて次々に矢が射かけられる。
周囲を矢が飛び交う光景は、さすがに肝が冷えた。
俺は同乗させてくれた衛兵に感謝を述べた後、馬から降りる。
さすがに、足腰が強ばっていた。
ここからは、徒歩で林を抜けなければならない。
林に詳しい兵士を道案内に、思いきって中に分けいる。
「姫様、足元にお気をつけください」
「ありがとう」
隣の兵士が気遣ってくれる。
林とはいえ、起伏は激しく、舗装もされていない獣道だ。メイド服だと歩きにくいが、この際文句は言っていられない。
だが、まぁ、さすがに馬なんかでは、林の中まで追いかけてこれないらしく、今のところは、追っ手がくる気配はない。
今は、何名かのグループに別れて、別々に林を抜けている。
大勢で移動するとそれだけ目立つし、別々に移動をすれば、一グループを追える敵兵士を分散できる。
「ソニヤ様、水をどうぞ」
カミーナが近くの湧き水を汲んで、俺にくれた。
ありがたくて涙が出る。
「ありがとう、カミーナ。あなたの忠義には、いつも感謝をしているわ」
「そんな水くさいこと言わないでください」
なぜか、プイッと顔を背けてしまった。
もしかして、ツンデレさん?
「静かに皆さん!」
突然、兵士の一人が緊張した声をかけてきた。
俺たちは、息を潜め、木陰に身を潜めた。
俺たちの歩いていた道を、何人かの人影がやってきた。
あの姿には見覚えがある。
ゴブリンだ。
たしか、ゲーム内では要領が悪いという設定だったので、とりあえず様子を見る。
ゴブリンの一行は、俺たちの近くまで来たものの、特に気づくことなく姿を消した。
あまり熱心に調べている様子もない。
はぁー、緊張した。
俺はあまりにも力強く拳を握りしめていたので、手のひらの中は汗でぐっしょりだ。
ゴブリンたちの一団をやり過ごした俺たちは、また行軍を開始した。
結局、俺たちはその後、追手に出会うことなく林を無事に抜けることができた。
林を抜けるのに、尖った葉っぱなどで浅い切り傷なんかを負っているが、全然平気だ。
ただ、メイド服はあちらこちらが破れ、ちょっと嗜虐心をくすぐられる格好になってはいるが。
エロゲーならば、良い感じのイベントCGが出来上がっているだろう。
林を抜けて民家に転がり込み、少し休憩した後、近くに偵察に来ていた近隣の砦の兵士たちと合流できた。
護送されて砦の中に入ったとき、安堵のあまり、腰が抜けた。
怖かったことは事実だが、それよりも、俺の中では無事に逃げ切れた、という安心感の方が上回った。
そして緊張の糸が切れたので、さすがに立っていられなかった。
俺は心の中で喝采をあげていた。
やったぞ! 俺は運命に打ち勝ったんだ!
まぁ、そんな感動は、長続きはしなかったが。