第四話 だっしゅつしまーす
「シロット殿下は、リードがお上手ですね」
俺は小声で王子の耳元にささやきかけた。
人生はじめてのダンスをうまく踊れるか心配していた俺だが、王子がうまいことリードしてくれており、醜態をさらさずにすんでいる。
一応、俺にも武術の心得があるが、やはり、身体が違うので、上手く動かしがたい。
それでも、ソニヤ姫の身体は、柔軟なので、動くのに支障はない。
しかしこの王子、ダンスはうまいな。
だが、ゲーム中での戦闘はからきし素人だった。
当たり前と言えば当たり前か。
「ふー、少し疲れましたので、少々、下がらせていただきます」
俺は計画を始動するために王子にお別れを告げる。
昨晩一日考えて、思い出せるだけの描写を全て、思い出して立案した計画だ。
ゲーム内での描写を利用して、脱出に使う。
乾坤一擲の作戦だ。
「では、私もご一緒「あ、もうしわけございません。こちらの控えの間は男子禁制でございますので、ホールにてお待ちいただければ幸いに存じます」
そういって、俺は控えの間に下がった。
ドレスを脱ぐや、トイレと偽って小部屋へと隠れた。
そして事前に用意しておいたメイド服に着替えた。これで遠目にはソニヤ姫だとは気づかれないだろう。
そして、小部屋を出て、ダンスホールを抜ける。
まぁ、途中で仮に見つけられても、ゲストを驚かせるためのサプライズだ、とでも言ってごまかそう。
また、カミーナあたりに白い目で見られそうだが。
しばらくすると、ソニヤ姫が見当たらない、ということで、少々騒ぎになった。
俺は、顔を臥せながら、ワイン庫で空き瓶を片付けたりしてやり過ごした。
空き瓶を取りにホールへと戻る。
そろそろばれるかな、と思った矢先、ホールの入り口に兵士が駆け込んできた。
「ま、魔王軍の襲撃です! 皆様、この城は長くはもちません! お逃げください!」
皆、我先にと地下道の脱出路へと殺到する。
衛兵たちは、一部はVIPを護衛し、一部は城の護りへと向かった。
その中で、ソニヤ姫に仕える、カミーナたち召し使いの一団は、危険を省みずホールに残って、ソニヤ姫を探していた。
「私はここです、カミーナ」
俺は、名乗り出た。
「ソ、ソニヤ様! 探しましたよ! しかも、その格好は・・・。そ、それよりも魔王軍です! ここは危険です、早く地下道へ」
「いえ、地下道は、すでに魔王軍におさえられています。そちらにはむかいません」
「で、ではどうするのです!」
カミーナの顔に困惑が広がる。
「衛兵たちに、魔王軍を城内に引き入れた後、各所に火を放つように指示をなさい!」
「え!?」
「そして、その混乱に乗じて、南の城門を強行突破して、林に逃げ込みます。うまくすれば、近隣の城まで逃げられます!」
そう。これしかない。
ゲーム内で一部の敵兵士と召し使いが南の林へと逃走した、という記述があった。
俺(魔王)は捨て置けと部下に命じて、姫とお楽しみを繰り広げるわけだが、俺の今の格好は召し使いと同じ。
ゲームで成功した脱出行に、俺も混ぜてもらうことにした。
魔王軍や内通者も、まさかこんな形で姫が逃げ出すとは思っていないだろう。
「衛兵たちよ! ここが、あなたたちの忠誠を示す好機です! 私に従いなさい!」
俺は力の限り、兵士たちを鼓舞した。