第三十話 おいとまさせていただきます
「というわけで、再来週のソニヤ姫の国外出張へとお付き合いせねばなりませんので、申し訳ありませんが、しばらくはこちらにまいることができません」
白鷺亭にて、ラーメン定食(遺憾ながらメニューにあった)を食しながら、俺は箸を魔王へと突きつける。
目をしばたかせながら、魔王は、きょとんと、こちらを見ている。
「む、そうか?」
「はい。ですので、マオールさまも、しばらくは、ご実家などに戻られたらいかがですか?」
魔王を王都に一人残すのは、なんとも危険な感じだ。
どうにか、自分の巣に潔く戻っていただきたい。
「では、俺も、その国外出張とやらについて行こう」
え? なんでそうなるの。
俺は手をバタバタさせながら、必死の抗弁を開始する。
「で、ですが、マオール様にもご用事というものがあるのではないですか? 出張は、行き帰りの移動を含めて一ヶ月ほどにもなりますよ。良いんですか?」
「いや、特に予定はないぞ俺には」
朗らかな笑顔を浮かべて魔王様が断言なさった。
さすが、ゲーム中でもソニヤ姫とナカヨクしているだけのダメ魔王。
王としての自覚なし!
俺はこの暇人魔王をどうにかして撒いてやろうと、いろいろと説得したものの、首を縦には振ってくれなかった。
そのとき、ふと魔王が、思い出した、と呟いた。
「ところで、アインスよ。今日の昼からここの中央公園だったかな? そこで、『感謝祭』とやらがあると、聞き及んだのだが。感謝祭とはいかようなものだ?」
え? こいつ感謝祭知らねーの?
「え、えーと。おっしゃっている意味がわかりかねますが、一般的には感謝祭とは、自然の恵みなどに対して、神様に感謝をするイベントですかね。多くの人が集まって、わいわいと騒ぐものです。元々は神前にて、神に感謝をする儀式から始まったと、聞き及びますが」
「うむ。なるほど。神前の儀式ならば、俺にもわかる。あれだろ? 二人一組になって、どちらか片方が動かなくなるまで、戦い続けるとか」
おいおい、どこの世界の剣闘士だよ。物騒すぎるだろ魔王軍。
「い、今はその形も形骸化し、残っているのはわいわい人が集まっている、という部分だけですよ? まかり間違ってもその辺の一般人捕まえて戦っちゃダメですよ」
一応、念を押しておく。
わかっている、なんて殊勝な事を言ってそっぽを向いてしまった。
おや、魔王様も拗ねるなんて、かわいいところがあるじゃないか。
「よし。ではいくぞ」
おいおい、だから、なんで俺の予定を聞かないのかね。
まぁ、こんな展開になるんじゃないかと、事前に予定は空けてきたわけだが。
最近は、なんだかんだと、魔王に予定を合わせている自分がいることに驚く。




