原田亮平の場合。
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第2弾
亮平の場合。
達也の目が見えなくなった。
通り魔に殴られて、視神経に異常が起きてしまったらしい。
命が無事でよかったと警察は言った。
医者もそう言った。
たしかにそうだ。
達也が死んだら俺は生きていけない。
だけど、目が見えなくなっただけ。とは言えない。
まだ19歳。
これからだって時に視力を失うなんて…。
もう達也は何も見ることができないんだ。
そんなの、良かったねなんていえるわけがない。
生きていればそれだけで本当に幸せなんだろうか……。
少なくとも、俺は、幸せじゃない。
もちろんタツに生きて欲しくないわけじゃない。
ずっとそばにいてほしい。近くにいて欲しい。
だけど。
こんな苦しむタツを、見ていられない。
最初、目が覚めた時、自分の目が見えていないことに気づいていなかった。
開いた目は虚ろに宙を見つめていた。
「ここ、どこだ……なんでこんな真っ暗で……」
そうつぶやいたタツの言葉で、本当になにも見えていないと実感させられた。
俺が手を握ると、タツは酷く怯えた。
そりゃあそうだ。
真っ暗闇で迷うことなく手を握られたら怖いだろう。
まっくらで何も見えず怯える中タツはすぐにその手が俺だと気づいてくれた。
俺は涙が止まらなかった。
そして、今。
俺の手には小さな小瓶が握られている。
親父の病院を継ぐことを条件に、この薬を手に入れた。
俺が手に入れた薬は、全盲ですら治すことのできる薬。
副作用はないはずだった。
はずだった。というのも、マウス実験での成功例になんの異常もないことがわかり、極秘で人間にも使用したらしい。
その服用者は視力が回復したが、自分の大切な人が見えなくなったらしい。
そんなことが科学的に有り得るのだろうか。
でも本当に見えていないようだった。
そして改良してできたくすりにも、とんでもない副作用があった。
服用者の大切な人の視界から、服用者が消えたというのだ。
その後もこの薬は研究を続けているらしいが、もう手詰まりらしい。
親父は俺に『達也の視界から俺が映らなくなる薬』か、『俺の視界から達也が映らなくなる薬』を選ばせた。
そして俺は、『達也の視界から俺が映らなくなる薬』を選んだ。
だって、達也が見えなくなったら、お前が誰とどこでなにをしているかわからなくなる。
お前の心が俺から離れても、引き留められなくなる。
だから、お前が俺のこと見えなくなったって、俺がお前を離さない。
タツのことが見えなくなるなんて、耐えられない。
死んだのとおなじじゃんか。
「達也、これ飲みな。」
「……?なに、これ。」
俺から渡された小瓶の形を確かめるように、両手でびんを握ったり撫でたりしている。
「達也が俺のそばにずっと居られる薬。」
頭をなでると気持ちよさそうに目を細める。
だけどその目は、俺を見ていない。
宙を見つめるだけ。
「なにそれー。薬なきゃいられないのかよ!」
クスクスと笑いながらも、手探りで小瓶の蓋を開けて、そのまま飲み干した。
「…………なにこ…っ!!!?まぶ、し……」
視界は急激に光を取り戻したらしく、タツは眩しそうに目を瞑った。
そして何度か瞬きをしたあと、うっすらと涙を浮かべてこっちを見て、
涙を零した。
「りょう、へい……?」
その瞳は、俺を映していなかった。
「これで、ずっと一緒。絶対離さない……。」
「……えっ?」
達也の困惑した言葉を、唇でかき消した。
原田良平闇堕ちヤンデレエンディング。