表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠い記憶  作者: 文音
8/23

「テッドのとこも林に出てるって、どういうこった?」


 琥珀亭の客間で、レニーは女店主に詰め寄る。

 その日、サラのいるパーティーに移動後初の仕事で林に行ったレニーは、もう少しでテッドのいるパーティーと鉢合わせしそうになった。


(護衛って、いったいナニからのガードだよ?)


「森より林の方が深刻だからね。……それと、テッドに森へ行かせたくない、というのもある」

 女店主はいつになく、歯切れが悪い。

「未遂だろ? 今ならまだ森へ行ったって大丈夫だろ? それより、二人が林でまた会うチャンスがあるかもって方が問題だ。何のために、あんだけ異例尽くしのマズイ手うったんだよ? 二人を引き離すためだろうが!」


「……だから、あんたに頼んだんだよ。カンのいいあんたならわかるだろ? レニー」

 女店主は殊勝にも胸の前で両手を合わせて頼んできた。

(俺でなくともわかるわ! それくらい!)

 レニーは心中で悪態をつきつつ、付き合いの長い女店主のわざとらしいポーズに、これ以上何を言っても無駄だと悟った。




 あくる朝、テッドはリーダーに、林の安全地帯になっている開けた場所に一人で留まる様に言われた。

 メンバーが林へ戻っていって間もなく、レニーが現れた。

 彼はこの間会った時とは様子が違う。剣のある顔つきでテッドを睨みすえている。


「単刀直入に言う。サラが林に来てるってのは知ってるな?」

「……ああ」

 予想通りの問いに、テッドは素っ気なく答えた。レニーの顔が険しさを増す。

「あわよくば、ここでサラと会おうなんて、考えてねえだろうな?」


 テッドもまた苛立っていた。魔物を追っていて仲間もいて、そうそう都合よくいくはずがない。

 そんなわかりきったことを訊いてくるレニーに対し、テッドは皮肉をこめて言い返した。

「……魔物を追っていれば、たまたまそういうこともあるだろう?」


 昨日がそうだった。林に入る時には、事前に活動範囲が指定されるが必ず出てはならないというものでもない。追っている魔物が逃げ込めば、他のパーティーの担当区域に踏み入ることもある。

 テッドの存在に気付いたレニーが魔物退治に加わらなければ、間違いなく両者は出会っていた。


「まさかとは思うが、実力だけで今のパーティーに引き抜かれた、と勘違いしてねえだろうな?」

 テッドの今属しているパーティーは、本来なら森へ入ることもできるのだ。それをギルドは林で活動させている。

(――それもこれも、こいつのせいだ)



「ここの魔物を相手にしたくらいで自惚れるなよ? そんなうわついた気持ちでいたら、いつか命取りになる。あんたの仲間にとってもいい迷惑だ!」


「仕事はちゃんとこなしている。油断もしていないし、私情を優先させるつもりもない」

 ここまではよかった。だがテッドの腹立ちまぎれの最後の一言がよけいだった。

「きみには前にも言ったはずだ。俺はサラと結婚する。誰にも邪魔はさせない!」


「――邪魔はさせないって? ……てめえごときが自惚れるなって言ったろう?」

 レニーの目が剣呑な光をおびて眇められた。低く押し殺した声音に怒気がこもる。

「森にも行かせてもらえねえ未熟者が! 元騎士だそうだが、あちらの世界の身分なんてこっちでは関係ねえ。力がなきゃ何もできねえし、始まらねえんだよ!」

 レニーはそう言って、腰の短剣を抜き放った。

(――さて、これでのってくるか?)


「証明してみせろ、ということか?」

 テッドはレニーの戦士としての評判を知っている。剣を交えれば、恐らくかなわないだろう。

 だが、レニーは自分を挑発して試すつもりなのではないか、という気がした。

(……だとしたら、ここで引くわけにはいかない!)

 テッドは腹を括った。そしてゆっくりと長剣を抜いた。



 勝敗はテッドの予想以上に、あっけなくついた。

 テッドの一撃は簡単にレニーに弾かれ、返す剣で喉元に切っ先を突きつけられた。

 下からレニーの目に見据えられる。

「――俺の目を盗んで、サラに近付けると思うなよ!」



 レニーは思いっきり不機嫌だった。

(ここまでしてわからなければ、あとはもう本人の責任だろう。――――ったく……なんでこんなに、腹がたつんだ?)




 林の入口でレニーはパーティーと合流した。


「話はすんだのか?」

「……ん~、まぁ……」

 リーダーの問いかけにレニーが曖昧な返事をしたのは、テッドがあれで引き下がる様な気がしないからだ。


「ところで、あんたも元騎士様なのか?」

「……」

 レニーが目を丸くしてリーダーの方を見ると、男は頭をかきながら

「いや、第一印象なんだが……人種が同じだと雰囲気が似るものなのかと思ってね」

と言った。


(こっちに来て、こんな生活してもう三十年以上も経つってのに……)

 確かにやたら礼儀作法は徹底して叩き込まれた。――が、今の自分を客観的にどう見ても、往時の面影はないと思うのだが……

(……雰囲気、ねぇ。根っから貴族ってか? なんだ、そりゃ……)


 レニーは苦笑した。

「……昔のことなんか、今の俺には関係ねえよ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ