3 護衛
「――――俺が、サラのいるパーティーに?」
いつもの様に昼食をとりに琥珀亭を訪れたレニーは、珍しく案内された琥珀亭の客間で女店主から思いもかけない話を聞かされていた。
(なんかあるとは思ったが、……にしても、なんで俺がここまで面倒に巻き込まれなけりゃならねえんだ?)
ギルドはまず、テッドとサラを引き離すことを最優先した。その為、二人の所属するパーティーがギルドから与えられた任務の遂行中であるにも関わらず次々と対応策がうたれることとなり、結果例外に例外を重ねるという不味い事態に陥ってしまった。
すなわち。
待機期間中以外は原則禁止されている、テッドのパーティーの移動。
傷病者や他にそれらしい理由が見当たらないのにパーティーが休止状態にある。これは本来であれば規約違反に当たる。
通常待機期間中に行われる、サラの再訓練と、異例の訓練場所。そもそも再訓練じたい稀である。
テッドとサラのことは関係者には一応箝口令がしかれている
しかしこれらのギルドがとった措置はそうそう隠し通せるものではない。訝しむ声が出始める様になり、しかもこれらをギルドが容認しているらしい――――という噂が一部で囁かれるようになっていた。
この噂はレニーも耳にしたことがある。
「このうえ俺がパーティーを移ったら、不審に思ってる連中の疑惑を裏付けることになりはしないか? サラんとこのリーダー、まだヴェロニカから出たことねえんだろ?」
この街のギルドに登録している戦士や魔導士は、所属するパーティーが主に活動する場所でおおまかに格付けされている。
そのランクはヴェロニカの林を経てヴェロニカの森、そしてヴェロニカの外の世界へと進むにしたがって上がっていく。
サラのいるパーティーは林で主に魔物を狩っていたのに対し、ヴェロニカの外から帰ってきたパーティーにレニーは加入している。両者の力量の差は歴然としていた。
さらに、外から来たパーティーは交代制で一定期間ヴェロニカの街に滞在した後また外へ出ていく為、この期間に格下のパーティーにメンバーが移動した例はこれまでない。
パーティーリーダーがメンバーの中で一番の実力者でなければならないというわけではない。
――――が、過去に例のない自身の移動の話に、レニーは暗に不満を述べたのであった。
「あんたにも思うところはいろいろあるだろうけど……。実はね、サラのところの代わりに林に出ていたパーティーに怪我人が出たんだよ。けっこうひどくて、あれじゃしばらくは日常生活も不便だろうね……」
女店主は深刻な面持ちでレニーに告げる。
「休養中だった他のパーティーに負担がいってしまってる。なんで、サラのところが出ないんだ? って不満と憶測とがくすぶってる。……だが、出したくても今の戦力じゃムリなんだよ。サラを抱えたままではね」
(それだけ、テッドの抜けた穴は大きいってことか……)
レニーは顔をしかめた。
「……サラを外して、他のメンバーだけではだめなのか?」
無駄と知りつつ、とりあえずレニ―は店主に聞いてみた。返ってきたのは予想通りの答え。
「これ以上、あの娘を特別扱いはできない。実力が伴わないから戦いに出なくていいっていうのがまかり通るようになったら、やっていけなくなってしまう。戦わなくてすむのならって怠けるヤツが出て来たら、どういうことになったかは、あんただって知ってるだろう? レニー」
林や森に棲む魔物は一定数を超えると凶暴化する。生息域を出て、街道や街を襲う様にもなる。一定数を超えない様に、常に退治していなくてはならないのだ。
「あんたに頼みたいのは、サラの護衛だ。あんただったら林の魔物程度なら場合によっては一人でもいけるだろうけど、それじゃあ他の連中の為にならない。できる限り手は出さないでいてもらいたいんだよ」
(…………やっぱ、なぁ。よけい面倒じゃんかよ)
レニーはぬるくなった珈琲のカップに手を伸ばした。酒じゃないがヤケ飲みしたい気分だ。
「俺んとこのリーダーにも、もう話は通ってんの?」
レニーはふと思いついて、聞いてみた。
「ああ。ふたつ返事でOKもらったよ。漢気のある人だねえ、ほれぼれしたよ」
店主は畳みかけるようにそう言った。
(…………あの野郎!)
レニーは心の裡で思い切り悪態をついた後、深々とため息をもらした。
(……あの時、ギルドからの指導の依頼を断ってなかったら、――――今頃こんなことになってなかったのだろうか……?)