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空白だった時間

 新学期が始まる。

 その言葉だけで「物事に対するモチベーション」つまりは「やる気」というものが

失われる気がした。

 メガネをかけた一見冴えない見た目をした赤坂透の「私立岩崎高校」に通いつめて2年目の高校生活がスタートしようとしていた。

 この学校は1年の時に基本課程、つまり「世の中に出て恥じない知識。」を身に付け、2年から卒業にかけては自分のやりたいことに没頭できるような仕組みになっている。なんでも出来るというわけではないが、大抵の希望は通るはずだ。

このシステムをうまく活用すれば社会に出て苦しむことはないが、棒に振れば一生後悔することになるだろう。

しかしそこまでにこの「高校3年間」は重いと自覚しながらも、俺は1歩を踏み出せないまま進級してしまった。

学校へは歩いて20分。しかしその距離を歩くのさえ疲れてしまい、最近では学校に着いた瞬間、自分の机に突っ伏して朝のホームルームが始まるまではその体制でいることが多かった。

例によって今日も俺は机に突っ伏して、浅い眠りに落ちる予定だった。

だんだん意識が夢の世界に溶けていってる中、男性の声が耳元に響いた。

「やぁやぁ(とおる)。久しいな。」

 彼の声は男にしては少し高めの声で、俺の意識は夢の世界から現実に戻されてしまった。

「なんだよ。人が気持ちよく寝てたのに。」

「相変わらず、やる気の無さは変わらんねぇ。」

「うるせえ。」

 背がすらっと伸びてガタイがよく、なのに爽やかな空気が漂う「美男子」という言葉がぴったりなこの男の名前は谷垣護(たにがきまもる)という。

中学生からの付き合いで俺の数少ない俺の理解者だ。

「そんなシケたツラしてると笑われるぞ。」

「余計なお世話だ。」

 こうやってたわいもない平和な日常が今日もまた始まったのである。


放課後

帰りのホームルームが終わり、すぐ帰ろうとすると「チャリリン」と独特のSNSアプリの通知音がした。

幼馴染みの露葉からだった。

「少し話がしたい。屋上の広場までこれるか?」

 普段は立ち入ることができない屋上広場。

しかし学校中どこの鍵も解錠することができる彼女の鍵開けスキルの前では意味をなさない。

俺はそのメッセージに対して

「わかった今から行く。」

 と、返信した。


屋上へ着くと、まるで天空の城にでもいるような感覚、北風が激しくふきかつものすごい冷たい。

そんな冷たいイメージとは裏腹に、に沈みゆく綺麗な赤い夕日に照らされながらもだんだんと黒く闇に染まっていく空

そして目の前には俺が良く知る女性の姿。

輝かしいその肩甲骨のあたりまで伸びた艶やかな銀色っぽい髪の毛。こちらをまっすぐ見つめる宝石のエメラルドにも似たような煌めく緑色の瞳。

紛れもなく、俺の幼馴染。「白月露葉(しらつきつゆは)」の姿だった

「来たぞ。露葉」

 とそっけなく彼女に言い放った。

「……。」

彼女は何も言わずに俯く。

呼び出された理由はわかっていた。しかし俺はそれに答えることはできない。


少し昔話をしよう

中学生の時の話だ。

簡単に言うと俺は荒れていた。

と言っても悪い不良や胸糞悪いことをしている奴らとは違う。

各地で迷惑沙汰を起こしている同じ不良組織を潰す。

いわば治安維持活動、かっこよくいえばヒーローだ。

俺たちの組織は「JOKER's」といい、俺を筆頭に護や直接関与はあまりしなかったものの露葉が組織の中心になって活動していた。

夜中出歩いてそこらにいるチンピラを懲らしめたり、喧嘩吹っかけてきた奴らを返り討ちにしたりと大変な日々ではあったがそれはそれで楽しかったのだ。

しかしある事件をきっかけにこの活動は終わることになる。

「JOKER's」も次第にかなり大きな組織になった。

その中でも仲のいいやつや頭のキレる奴を集めて1ヶ月に1度集まる機会を設けていた。とある廃工場の跡地だ。

比較的に人目にはつかないが、その気になれば特定されるのはあっという間だ。

案の定その場所はかなり早く特定された。

3回目の集会の時に敵の組織が奇襲してきたのだ。

仲間は10人、敵は少なく見積もって20人はいたがこちらの戦闘力を考えれば余裕を持てる感じだった。

あっさり迎撃できればよかったのだが、運悪く、そこには露葉が一緒にいたため露葉をその場から逃がすことが最優先だった。

一旦その場を護にまかせて、俺は露葉を逃がすことに集中した。

離脱できると思った時、俺は少し隙を見せてしまいうっかり敵の仲間の攻撃に気づかなかった。

それに気づいた露葉がその攻撃を腕で防いだ。しかし腕に受けたのは鉄の棒。腕は骨折し、後遺症まで残ってしまった。

そのせいで露葉は大好きだったバドミントンを続けられなくなってしまった。その出来事がきっかけで俺は気づいてしまった。

「何を馬鹿なことをやっているんだ」と。

自分の自己満足で友人を連れ回して、その上かなり大きな怪我まで追わせて、俺の元に残ったのはなんだ?

《強さか?》

《確かに腕っ節の強さはあった。だが精神面では何も成長してない。費やしただけの時間に対する対価は何もない》

《仲間か?》

《あぁ仲間はたくさんいる。でもそれは親友と呼べるだけの、心から信頼できる仲間じゃない。》

この通りだ。

空白の時間、何も意味をなさなかった、ただ通り過ぎていっただけの時間の経過だけがそこにあった。

その後は「JOKER's」を解散。突如として大規模な不良集団は消え去った。

俺はというと気が狂ったように、今までの時間を取り戻すように勉強し、護と露葉が行く高校「私立岩崎高校」に進学した。

露葉とはあれ以来、どんな顔をしていいのか分からなくなり、少し距離ができてしまっていた。

高校に入ったものの、その時点で俺のやる気は燃え尽き、何を目標にしていいのかすら曖昧になり、わからなくなり考えてるうちに1年がたった。

そしてそんな迷った元不良少年に露葉からこんな話を持ちかけられた。

「バド部に入らないか?」

いま彼女はバドミントン部、通称バド部のマネージャーをしているらしい。

バドミントンはできなくても、スポーツにかける熱意は変わらないようだ。

今から入ったとしても、小さい頃から「スポーツなんでもできる系男子」だった俺なら追いつけないことはないだろう。

しかし俺は断った。

動く事が嫌いなわけではない。むしろ好きなほうだ。

それなのになぜ断ったのか。

誘いを受けたとき心に真っ先に「俺が一緒にいたらまたあいつの大切なものを壊してしまうのではないか」そう思ったからだ。

要はあの出来事以来露葉と一緒にいることがトラウマになっている。

彼女にはおそらく「なにか目的を見つけて欲しい」と言う気持ちと、「なぜ避けられているのか教えて欲しい」という気持ちがあるのだろう。

でもそんな彼女のお願いを俺のお願いで断ち切ってしまった。

そしてまたこうして諦めずに、決意を新たに彼女は目の前にたっている。

「昔みたいに仲良くは……なれないのかな。」

と、沈黙を破ったのは彼女だった。

「わからない。」

 本当はわかっていた。「今のままでは仲良くはできない」と、俺の気持ちが嫌でもそうさせてくれないと。

「……。」

 彼女は俯いてまた沈黙が訪れる。

しかし彼女の目からは、とても小さな雫が1粒、また一粒と落ちていく。

目元を腕で拭ったあと、少しづつこちらに歩み寄りすれ違いざまに、囁くほどの小さな声でこういった。

「嘘つき……。」

 そういったあと彼女はダッシュでその場をあとにした。

追うこともせず、俺は俯きながら立ち尽くししばらくしてその場を去った。

屋上の扉を開けると、そこには見覚えのある一人の男子生徒の姿があった。

「よお護。こんなとこで何して…。」

 声をかけようとした最中、胸ぐらを掴まれた。

「てめぇは…あいつの気持ちがわからないのかよ。

 お前はあいつがこれまでどんな思いで過ごしてきたか、これっぽっちもわかってねぇのか?」

 鬼のような形相、今まで彼のこんな顔は見たことがなかった。

「黙れよ。お前に俺の何がわかるっていうんだ。」

「そんなもの知らねぇよ。ただこれだけはわかる。

 お前がとてつもなく未熟だってことはな。」

「うるせぇ。そんなのわかってるよ。」

「ならなんで目をそむけるんだ!なぜ向き合おうとしない。

 逃げようとするんだ!それが露葉を傷つけていることもわからねぇのか?」

「そんなんわかってるに決まってんだろ!!」

 耐えきれずにありったけを叫んだ。

胸ぐらを掴んでいた手が振りほどかれる。

「なら逃げんじゃねぇ。向き合えよ。露葉とも、自分とも。」

 彼は去り際、俺にそう告げた。


帰り道、俺は途方に暮れていた。

何をどうしたらいいかもわからず、考えようとすればするほど追い詰められていく。

そんなもどかしい気持ちの中「プルルルルル」と電話がかかってきた。護からだ。

「もしもし」

『もしもし!?お前今どこにいる!』

彼はものすごく焦っていた。

「落ち着け!何があった!」

『露葉がどこにもいねぇんだ。それだけじゃない。

 俺に「さよなら。ばいばい」ってゆうメールだけ残して連絡もつかない。

 どこにいるか知らねぇか?』

「はぁ!?俺は見てない!一緒に探すぞ!」

『わかった!俺は路地裏とか暗いところ探してみる!そっちはそっちなりに頼んだ!』

 と、だけ伝えられ電話は切れた。


 とりあえず、露葉が行きそうなところは全て探してみたがどこにもいない。

途中護と連絡を取りながらも未だに見つからない。

現段階で時刻は19時。あたりはもう真っ暗である。

さすがに長時間走り続けるのは無理があった。

家の近くの公園のベンチに座り少し休憩していた。

「となり……空いてるかな?」

 上を見上げると、制服姿の露葉の姿がそこにあった。

俺は疲労など忘れ立ち上がった。

「お前どこ言ってたんだ!ずっと探して。」

 露葉が抱きついてきたことで言葉はそこで遮られた。

彼女はただひらすらに泣いていた。

「何泣いてるんだよ。らしくねぇぞ。」

「うるさい……。このままでいさせろ……。」

 そのまま数分程、涙が収まるまでその状態でいた。


「で?なんでこんなことしたんだ?」

 率直に話を切り出した。

「あぁ…まぁ最近気づいたことがあってさ。

 もしかしたらあたしのせいで、何もかもやめちゃったのかなと思ってさ。

 距離ができたのも一人で抱え込んで自分せいだと思ってるんじゃないかってさ。」

「お前…エスパーかよ。」

「子供の頃から今までの付き合った長さ故だなー」

「それでまぁこのまま避けられてるのも気にくわないし、

 あの頃みたいに馬鹿やっててもいいから立ち直って欲しくてさ。

 私なりに頑張ってみようとしたわけ。」

「それでまずは目的さえ見つけられれば少しは変わるんじゃないかと思ったんだ。

 でも案の定バド部には入ってくれないし、それどころかさらに避けられるし、」

「そんなことを思ってたら、もしかしたら私自体が透を苦しめてるのかなって

 思っちゃって、

 屋上でわからないって言われたとき、本当は仲良くできないって思ってるんだなってわかっちゃって、そしたらどうしたらいいかわからなくなっちゃった…。」

 最後は少し嗚咽混じりに、自分の正直な気持ちを打ち明けた。

普段は強気でいつも堂々とした姿なのにこんなにしおらしくなった露葉を見るのは初めてだった。

「お前……すげぇよ。」

「ふぇ?」

「俺はいつも人のためになにかしたことはなかった。

 露葉とも自分とも人が傷つくのは見たくないとか言って結局は逃げて、傷ついてることに気づきもしなかった。」

 そのままその華奢で小さくも小刻みに震えた露葉の体を抱き寄せる。

「こんなどうしようもない奴のために心配してくれてありがとう。

 少し抱え込みすぎだけどな。」

「うるせーなぁ…お互い様だろ…馬鹿野郎…。」

いい親友を持てた。あの時間は無駄じゃなかった。心から俺はそう思った。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

これからこちらを頑張って執筆していきたいと思います!

感想、レビューなど、どんどん下さると嬉しいです!

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