過去へ紡ぐ言葉
この度、初めてこのサイトを利用して自作小説を投稿したポルポンです。
本当に拙い文章で、読者の方には見苦しいことかと思いますが、最後までお付き合いください。
色々アドバイスをくれた方々や、作品を見てくださった全ての人に感謝です。
雪を包み運ぶ冷たい風が、僕の頬を撫でる。
「あぁ、もう朝か」
まだ重い瞼をゆっくりと開く。ぼんやりした意識のなか、昨夜の記憶を辿る。
「そうか、昨日は久しぶりに室内で寝たんだったな」
黒いすすがついた淡い黄色の天井を仰ぐ。
「風…?」
頬に触れると、わずかながらに冷気が感じられた。
昨夜とてもさ寒い夜だったため、窓も扉も全て閉めたはずだった。それに天井についたすす。ここまで汚い部屋ではなかった。パステルカラーで統一した、かわいらしい部屋だったはずだ。
「あぁ、やっぱり。今日もか」
薄々気付きながらも、周りを見渡す。
寝ていた場所の左側に、大穴が空いている 。壁の内装である鉄筋が見えているという不可思議な状況に、僕は驚く様子もなくため息をついた。
何年、何十年、いや、何百年前かもしれない。
ー僕が“普通”だったのは。
僕は、病弱だった。
それは、僕が高校生くらいだったころの話だ。
生まれつき体が弱い僕は、年のほとんどを消毒液の匂いと無機質な文字列の並ぶ病院で過ごした。
親に迷惑をかけ、満足に遊ぶことも、外の世界に出ることもできなかった。
つまらない日々を作業のように終わらせていく日々、そんな僕の転機は、17の夏だった。
「我々の実験に協力しないか」
そんな一言で、あの時の僕の非日常は異日常へと変わった。
提案は、〈人間の寿命をのばす〉というものだった。
この実験が成功すれば、僕はもう自由な体になれるらしい。
今の僕から言わせてもらえば、モルモットと同義語だ。
だが、そんな怪しい実験に対して、僕は首を縦にふった。
僕は外の世界を知りたかったのだ、みんなと遊びたい、もっと、もっと、世界を楽しみたかったのだ。
そして、僕はその組織の運営する施設へと送られたのだった。
僕は、いつぶりか分からない朝食をとりながら、過去を思い出していた。
実験を受けてからは、全てが流れるように進んでいった。
僕は、今でいう不老不死になったらしい。
何をしても死なない。いや、死ねない。
研究者たちは、実験が成功したと喜んでいたが、その研究者たちももうこの世にいない。
僕の真実を知っている人は、みな寿命や病気、不慮の事故で死んだ。
残された僕は、社会から異端と判断された。
今朝も僕を殺そうと、どこかの軍隊がミサイルでも打ち込んだのだろう。
こうして、僕は生きているがね。
いつものように、散歩をしたり、本を読んだりしていると、いつの間にか夜になっていた。
黒くなった空の下を、僕は一人で歩いている。
僕の隣には、とても昔のことだが、一人の女性がいた。
彼女とは、どこで出会ったのだろうか、どんな名前だったからもう忘れてしまった。
ただひとつ、目をつぶると思い出せるのは、優しい顔と、暖かい声だ。
異端とな僕を、受け入れてくれた。
いや、当たり前かのように接してくれた。
頭の片隅に残っている思い出が、次々と…
「……っ!」
とうの昔に錆びた心がけ、溢れでる涙によって潤っていく。
彼女は、最期まで笑顔だった。
僕は、その笑顔に甘えるばかりで、何も彼女に与えることができなかった。
簡単なことだった。一言伝えれば彼女は報われたのではないだろうか。
そんなことを、毎日考えている。
「…………」
言葉がこぼれた。
涙声のせいで、にをい言っているかは聞き取れないだろう。だが、彼女はここにはいないのだ。
音にならなくてもいい、言葉として粗末なものでもいい。
彼女に届け。
ありがとう。大好きだ。と
時間にしてどれくらいの時が経ったか分からない。
どれくらい泣いていたのだろう。
想いが止まらない。
涙が止まらない。
僕は静かに目を閉じた。
どうせ時間はあるのだ。
ゆっくりと、ゆっくりと生きていこう。
世界はこんなにも美しいのだ。
意識がなくなるその直前に、はっきりとした言葉が口からもれる。
「ごめんね」と。
時間は進む。万物は流転する。
たしかな過去を実感しながら、僕は今日も異日常を、未来を楽しむのだ。
最後まで付き合っていただきありがとうこざいます。
いかがだったでしょうか。この物語。
面白いと思ってくれた方が一人でも多いと嬉しいです。
また、何かご意見がありましたら、コメントをお願いします。
楽しく書くことができました。
次回作もよろしくお願いします。