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六月の花嫁~June bride~

作者: 冷暖房完備

大きくなったら、お兄ちゃんの お嫁さんになる


女の子なら一度は言うセリフだよね、きっと。

誰かのお嫁さんになるって…。

そんな事を ぼんやり思いながら二階から垣間見える隣の庭に目をやる。

そこには一人娘を優しく見守る一人の青年がいた。

青年?いやいや、初老かな?

アタシの記憶が正しければ10こ上だから今年40だ。

小さい時も童話から飛び出してきたんじゃないかってくらいのイケメンだったけど、年を重ねる毎に男の色気なんか かもし出しちゃって ホントよだれが出るくらいのイイ男になったもんだ。


そりゃ結婚したい言いたくなるわな〜。


なぁんて昔の自分に思いを馳せていると、ふいに顔を上げた隣人と目があった。

わ、わ〜(泣)

アタシはワタワタと軽く右手を上げた。

するとイケメンは爽やかに笑い、愛娘を抱っこして手を振らせた。

「お姉ちゃん!!一緒に遊ぼうよ〜!!」

「う、うん。ちょっと待っててね」

アタシは慌ててキャミソールの上にレースのカーディガンを羽織った。


玄関を出ると門の所に二人がいた。

「桜ちゃん、暇なら一緒に公園行かない?」

「佑樹さんのご迷惑じゃなきゃ ご一緒させてください」

「迷惑じゃないよ。結愛も一緒がイイって言ってるもんな」

「うん!!結愛、桜ちゃん大好きだもん」

満面の笑みでアタシを見る。

「じゃあ行こうかな」

そう言うと結愛ちゃんは嬉しそうにアタシの手を握った。

そのまま佑樹さんとも手をつなぎ、地面には仲良く繋がった三人の影が並ぶ。

それが なんだか嬉しくてニヤニヤしてしまう。


アタシだって三十路 突入のアラサー女子だ。

恋の一つや二つしてきた。

プロポーズだって一度されてる。

家事だって それなりに出来るし、専業主婦がイイなんてワガママも言わない。

見た目も中の中くらいだと思うし、それが一番 男が狙いやすい女のポイントじゃね?

花嫁候補ドンピシャじゃね?

と思ってたのに、今だに一人でいる。



公園で ひとしきり一緒に遊ぶと、結愛ちゃんはそこにいた保育園の友達と仲良く遊びだした。

「ふう」

ベンチに腰かけると、息をついた。

どんなに若作りしても しょせんアラサーか…。

疲れたわ〜(泣)

「桜ちゃん、お疲れ様」

そう言うと冷たい缶ジュースをくれた。

そして無言で隣に座る。

アタシもジュースを飲みながら黙っていた。

「こっちに帰ってきて もう二年になるんだな…」

ポツリと佑樹さんが呟く。

「もう、そんなになりますか?」

「ああ、来年は結愛も小学生だからな…」

砂場で遊ぶ結愛ちゃを見る。

あんなに小さいのに もう小学生なんだ…。

感慨深く見つめていると、ふっと笑う声がした。

「今の結愛くらいの時かな?桜ちゃんにプロポーズされたの」


ぎゃ、ぎゃ〜!!


「わ、わ、わ、忘れてください!!」

それはアタシの人生の黒歴史っすよ!!

「なんで?桜ちゃん可愛かったよ?」

「か、か、可愛いとか可愛くないとかって問題じゃなくてですね!!」

穴があったら入りたい〜(泣)

「今も可愛いけどね」

どっか〜ん!!

こんな真っ昼間の公園でフェロモン出しながら微笑まないでくださ〜い(泣)

「ゆ、佑樹さん、からかって遊んでるでしょ?」

「からかってはいないけど、桜ちゃんで遊ぶのは楽しいなと最近気づいたけどね」

いたずらっ子のようにニカッと笑った。

も、も、もう!!

その笑顔も反則です〜(泣)

「鼻たらしてた頃から知ってる10も年下の女の子なんて恋愛対象にならないと思ってたけど、実際こうやって一緒にいると今まで付き合ってた事って何だったんだと思うくらい穏やかに過ごせるんだよね」

恋愛対象……

その言葉にドキッとした。

「元嫁はブランド思考が高くて、いつまでも女を捨てきれない人だったから結愛も随分寂しい思いをして来たと思う。でも桜ちゃんと一緒にいると よく笑うんだよな」

「…アタシも結愛ちゃんと遊ぶの楽しいし大好きです」

元々子供好きではあったけど、結愛ちゃんとはウマがあうと言うか姉妹のような気がしてきてる。

「…もし、再婚するなら結愛と仲良くしてくれる人がいいと思ってるんだ」

ドキッ

胸が大きく跳ねた。

「でも、俺自身が本当に好きな人と結婚したいとも思ってる。そういう人は、なかなかいない」

「そ、そうですよね〜」

なんなんだ!?

だから、アタシじゃ無理だと遠回しに言ってるのか!?

告白する前から振られてんのか!?

つうか、アタシだってイケメンでイイ人だと思ってるけど、それだけで惚れるほど若くね〜よ!!

心の中で やさぐれてると、ふいに手を握られた。

「そういう訳で、今から口説いてもイイかな?」

「!?」

「バツ一子持ちのオッサンだけど、君を人生かけて幸せにしたいと思ってる」

な、な、な、な……

「結婚を前提に付き合ってください」

それは、長い付き合いの中で初めて見る男の顔をした佑樹さんだった。


「は、はい…」

熱に浮かされたように返事をした。

この顔で こんなセリフ言われて、断れる女は絶対いない!!

真っ赤になる顔を上げる事ができず下を向くと、佑樹さんが握っていたアタシの手を高々と上げた。

「結愛〜!!パパやったぞ〜!!桜ちゃんOKしてくれたぞ〜!!」

大きな声に振り向いた結愛ちゃんが満面の笑みで駆け寄ってきた。

「パパほんと!?桜ちゃん、結愛のママになってくれるの!?」

ええ!?

「そうなるようにパパ頑張るから結愛も協力してくれよ?」

「はい!!結愛すっごく頑張ります!!」

アタシにムギュと抱きつきながら、結愛ちゃんはイイ返事をしていた。

「結愛の誕生日に結婚式をしてね?結愛の誕生日プレゼントは桜ちゃんとパパの結婚式がイイ!!」

え、え〜!?

「なら、来年だな。今年のはもう終わってしまったから」

執行猶予は1年ですか?て、いやいや(泣)

アタシの気持ちを無視して、どんどん話が進んでゆく。

ウェディングケーキは手作りがイイだの、挙式はハワイねだの、なんだか猛スピードで駆け抜けてゆくけども、ちょっと待たんか!!

「あ、あの、アタシの意見も聞いてください、ね?」

お付き合いOKであって、結婚はまだまだ未定なんですよ?

「ああ、大丈夫!!結愛の誕生日は6月だから君の夢だったJunebrideにちゃんとなるよ!!」

……………………………ん?

「子供のころ言ってたよね?6月の花嫁は幸せになるから その月がいいって」

……知らんがな。

サ〜と血の気が引いてくのがわかる。

あんなに素敵だと心引かれた笑顔がぐにゃぐにゃっと揺れる。

佑樹さん、まさか、まさかの残念イケメンだったのか……。

後悔先に立たずとは、まさにこの事。


どうしよっかな〜(泣)

思いながらも 一年後に ちゃっかりウェディングドレスを着てるんだろうな、アタシは…………。



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