第二章
華南共和国領事館・神戸支局
「崔局長、遅くなりました。」
「まあ、かけたまえ。少佐。冷たいお茶でもどうかね。」
「日本は、湿度が高くて、実に不快ですな。」
「呂君、そのうち慣れてくるよ。」
「この国には、長居するつもりはありませんので、早く本国に帰れるように計らっていただきますように。」
「ならば、ちょうどいい事案があるので、果遂して、功績を挙げたまえ。」
「局長、ご命令を承ります。」
「オスプレイの飛行ルートだが、ニュースで知っているだろう。」
「四国ルートですね。」
「そうだ、四国に渡って、兵を配備し、ビデオを撮ること、それと、万一、墜落したら部品を回収するのだ。」
「四国は、死国ですから、縁起が悪いですな。万一ではなく、いっそのこと、鉄嘴ミサイルで、撃墜してしまえばよろしいでしょう。ハハハ。」
「その万一が、起こるかも知れんのだ。」
「どういうことでしょうか。」
「今は、話せる時期ではないので、口を慎ませてもらうよ。」
「そうですか、本国からの指示ということですな。」
「兵を何人出せるのかね。」
「50~60です。」
「では、さっそく、四国に赴いて、現地人の服装や、飛行ルートの確認をしたまえ。」
「了解しました。」
「メルセデスベンツを乗って行くなよ。田舎では不自然に見えるからな。ワッハッハ。」
「国に帰れるなら、我慢しましょう。ハッハッハ。」
公安局
「大阪から電話がありまして、昨日のNシステムの記録ですが、華南共和国の車両が、ヒットしたそうです。」
「記録を見せろ。どこだ?」
「瀬戸大橋に、5台です。」
「5台まとまってるから、領事ご一行様で、うどんでも食いに行くんじゃないのか?」
「大阪には、どのように返事しましょう。」
「そういえば、オスプレイのこともあるしな・・・。よし、調査案件にして、すぐに、動かせ。」
「わかりました。」
防衛省
「幕僚長。官邸から緊急呼集です。」
「そうか、車を出せ。それと、オスプレイの資料を出しておけ。」
「はっ。」
華南共和国領事館・神戸支局
「局長。呂少佐から電話です。」
「よし、つなげ。」
「兄さん元気ですか。」
「弟よ、元気でやっているかね。」
「四国は、暑いですよ。」
「そうか。何か、欲しいものはあるかね?」
「軽自動車が、いいですね。」
「軽自動車だな。」
「それと、作業服が、50着欲しいのですが。」
「作業服だな。用意するよ。」
「大仙の道の駅は、何でも売っていますよ。よろしくおねがいします。兄さん。」
「大変だが、まあ、がんばってくれ。」
「欲しい物があったら、また電話します。」
「何でも言ってくれ。元気でな。」
「じゃあ、失礼します。」
「補佐官。」
「はい。」
「軽自動車のレンタカーを用意して、兵士に作業服を着せて、出発させるのだ。集合場所は、大仙の道の駅だ。」
「はい、わかりました。」
官邸
各省庁より総勢12名の危機管理担当者が、集められていた。
「これまでに、入っている情報を精査しますと、華南共和国の神戸支局が、何らかの動きがあるということ。おそらく、数名が、四国に渡ったということです。目的等は、判明しておりません。」
「それのどこが、大事なんだね。」
「いままで、華南共和国の職員が、四国に渡ったことはありません。」
「うどんか、そばでも食いに行ったんじゃないのかね。」
「オスプレイの件もありますので、念のためです。」
「そのような情報では、何の対策も立てられんではないか。」
「本日、お集まりいただいたのは、各省において、連絡担当を決めることと。各省からの情報を官邸に一元化していただきたいということです。」
「では、官邸が、指示を出すということでしょうか。」
「現時点ではそうですが、指示系統は、首相に諮ったうえでご回答申し上げます。」
「オスプレイといえば、もしかすると、一刻を争う事案かも知れんのですよ。」
「おっしゃる通りですが、国会も夏休みなので。」
「そんな悠長なことを。」
「閣僚のどなたが、対応するのですか。そうだ、防衛大臣でいいじゃないか。」
「一応、現時点では、首相ということになります。」
「いや、補佐官クラスでよいので専従の任官を選んでいただきたい。」
「では、それも首相に諮った上でご回答申し上げます。」
「我々、独自に動くことは、構いませんか。」
「動くというと。」
「例えば、現地調査とかですな。」
「それは、具体的にどのようなことですか?」
「いちいち説明しなければ動けないということなのですか。」
「各省庁におかれましては、現時点で、華南共和国の様子を見ていただくとしか申し上げられません。」
「防衛省にお尋ねするが、米国国防総省から、情報はありませんか。」
「すいません。それも、省庁間で直接お聞きにならずに、官邸を通じてお尋ねいただき、官邸を通じて回答するようにお願いします。」
「ばかも休み休み言いたまえ。犯罪行為があった場合、外務省にことわりなく、現行犯逮捕してよいのですか。」
「それは、民法上問題ないかと思います。」
「外務省は、それで、よろしいな。」
「一応、そういう事態になる前に、ご連絡いただきたいのですが。」
「すいません、それも、直接電話の連絡はまずいです。」
「もう、いいよ。今日は、これまでということで、いいですか。早く帰って対応を図らなければ。」
「では、みなさんよろしくお願いいたします。」
「なにをよろしくするんだバカもんが・・・。」