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2-2 十月と五月の関係

「…………こんにちは。コウ」

 ルウラは静かにコウに語りかけた。

「きっと駄目なんだろうな。私はどうしようもなくお前たちとは違う存在で、恐らく、きっと、今ここで手を出すのは間違いなんだと、私はそう思っていた。そういうのはきっとフェアじゃない。しかし、これはやりすぎだ」

 コウはルウラの言うことがちっとも理解できない。ルウラもそれはもちろんわかっている、それでもルウラは続けた。

「私はな。ハヅキの言うことを友人として聞いてもいいと思ったし、今でもそのつもりだ。そして、それは今実行されなくてはならない。ロウアーまでいるんだ。見ているんだろう!十二神!」

 ルウラの声にこたえるかのように、空間が歪む。それはビジターが現れる歪みとはまるで別物だ。光り輝き、神々しさを伴っている。

「よりにもよってお前か。ダンク」

 空間の波が消え、現れた青年は全身を緑で統一し、放つ雰囲気は人間のものとはまるで違っていた。

 見れば目が潰れるような威圧感。

 そして絶対なる死の空気。

 腰が膝から落ちかけた。コウに服従因子は働かない。ならば何がそうさせたのか?

 恐怖だ。

 蛇に睨まれた蛙の気持ちが一瞬で理解できた。あれと対峙するなんてまともじゃない。絶望的な力の差を目にした瞬間理解できる。

 姿かたちが一緒でも、あれはまるで別の存在だ。なまじ姿かたちが一緒であるだけなおさら恐怖が倍増する。

 コウは足を踏ん張り何とかその雰囲気に堪える。

「十二神が五月席。メイ・ダンク」

 青年は名乗るとルウラに向き合った。

「久しぶりだね。オクトバー。どうにも人間界というのは肌に合わなくていけない」

「他の神は?」

 ルウラは他の神が居ることを願わずにはいられなかった。よりにもよってルウラにとっては最悪の神が顕現していたのだ。

こいつとは絶対的に話が成立しない。

「いないよ。君が最初で次が僕。この順番だけはランダムだからね。どうにも困ったものだ」

 言っている事とは裏腹にダンクは低く笑った。

「さて、オクトバー。愛しいオクトバー。君は何をしているのかな?この世界に顕現した順に人間共を片っ端から支配していくと、そう決めたはずだ」

 ダンクの言葉にルウラは俯き、そして意を決したようにダンクを見据えた。

「もうやめよう」

「なに?」

 ルウラの言葉にダンクは顔をしかめる。

「私には人間を支配していいように思えないんだ。人間達はいい奴がいっぱいいるよ。支配しなくても解り合うことができるって、私にはわかったんだ。支配なんて必要ないんだよ。私は人間達と戦いたくない。それにこんな生物兵器を採用するなんて一体どういうつもりなんだ?」

 ルウラは人間を内蔵していたビジターを指差した。

「私はあんな残虐な行いを初めてみた。戦争をするのだってルールがあるのは天界でも人間界でも一緒だろう。そんな行為を行う戦争に、私は加担出来ない」

 ルウラの言葉を黙って聞いていたダンクはそこまで聞いて心底失望を表した視線をルウラに投げてよこした。

「なにいってんの?」

「…………」

 予想出来ていた返答にルウラは唇を噛む。

「あれほど素晴らしい化け物もいないだろう。なまじ人間が上等な意識を有しているせいでその支配には色々と面倒なものがあったんだ。あれはそれを一気に解決する。人間という動力を自分で調達してくれるし、なにより人間達にはいい見せしめになるだろう?どうにも楽園を自主的に築いたと思いこむ連中はタチが悪い。こういうものでしっかりと支配する者とされるものを明確にしないと」

 ダンクはそこまでいって言葉を切り、当たり前のようにルウラに告げた。

「管理しにくいだろう?」

「ダンク!」

「眼を覚ましなって。今のも見ただろう。そこにいる人間は極めつけのイレギュラーだとしても、他の人間はとるに取らない存在だよ。単なる労働力。帳簿に人×個数って付けていいくらいな存在なんだって。実際、僕たちが手をひねるまでもなく死んじゃうんだからさぁ。戻っておいでよ。家畜に同情したってしょうがないでしょ?」

「私は、お前たちの戦争に参加できないと言った!」

「ああもう。わかったからさ。だったら後ろでおとなしくしときなよ。後は僕がやっとくからさぁ。君は疲れてんだよ。僕の所に来なよ。精一杯愛してあげるからさ。そうすりゃルウラも元に戻るって」

 ダンクは心底鬱陶しそうに手をブンブンと振った。

 コウは今の会話が心底おぞましいものだと理解はしていたが足が動かなかった。

 この二人の間に立てば、死ぬ。

 それほどの威圧感が二人の間に火花となってひしめいていた。

 しかしコウの恐怖心は次のダンクの言葉で一瞬にして消え去ることになる。

「せっかくオクトバーに人間とは儚いものなんだよって教えるためにこいつらを転送したのにさ」

 聞き逃さなかった。

 先の言葉は震えを止めるのには最適だ。

「お前がっ!」

 一瞬でコウはキレた。

 ファクターが起動せずともコウに内包された命はしっかりと運動能力に反映されている。コウは膨大な殺意をもってダンクに突撃した。ルウラの制止の声など届いていない。

 恐怖心などすでにはるか後方だ。

「お前が、お前が!死ねええええええええええええええええええ!」

「うざったいなぁ」

 ダンクがコウを見たその瞬間、爆発。コウの体が宙を舞い、地面にたたきつけられる。

「がっ!」

 あまりの激痛のコウは動けなくなった。まるで全身が引き裂かれるような痛みに苦悶するが、先ほど喰らった命が急速にコウの傷を癒していく。

「あれあれ?おかしいな。体がバラバラになるはずだったんだけど…………それっ!」

 ダンクがコウに意識を向けると、ダンクの周りから巨大な竜巻が発生し、コウに殺到した。それは無情な破壊の奔流。ひとたび巻き困ればただでは済まない。大自然の驚異的な力をいともたやすくダンクは発生させ、意のままに操って見せた。

 コウは死を覚悟し、目をつぶった。

 しかし、死を伴う痛みはいつまでたってもコウに向かってはこなかった。

 コウが恐る恐る眼を開けるとそこに有ったはずの破壊の奔流は嘘のように消えうせていた。

「…………なんのつもりかなぁ?」

 ダンクがルウラを睨みつける。ルウラのファクターがダンクのファクターを打ち消した結果だった。

「止めてもらいたい。私はその男が気に入っている」

 その言葉をルウラがダンクに投げつけた瞬間、起こったのは破壊の嵐だ。辺りの地面がルウラとコウ、気絶している隊員たちがいる場所を除いて球体状にえぐり取られていく。それは何の前触れもなく、完全な気まぐれを持って辺りをえぐる。ルウラは必死にダンクが起こしている破壊衝動を防いでいた。

 ルウラのファクター。

『流転世界』《ワールド・ムーバー》

 あらゆる流れを掌握し、移動するものであれば問答無用でその流れを支配下に置く。

ルウラはそのファクターを使用し、ダンクが行う無差別な爆撃を何とかそらしていた。

校庭に平らな場所を見つけることが難しくなった時、ようやくダンクの癇癪じみた破壊は終わった。

「オクトバー…………なんて言ったの?」

 ダンクが先ほどとの攻撃とは嘘の様なすがりつく声を出しているのがコウに取って意外だった。

「オクトバーはそんな男が気に入ったっていうの?そんな取るに足らない人間が!」

「そんなんだから私はお前が嫌いなんだ!」

 ルウラの絶対的な拒絶にダンクは嘆きの叫びをあげた。

「なんで?なんで!なんでそんなこと言うのさ!殺しちゃうよ?僕はその人間を殺しちゃう!」

「ああ、そうかい!だったら私は!私の戦争をさせてもらう!人間の側に立ち、お前たちを止める!」

 ルウラが敵意を向ける行為をダンクは必死に否定したいのかブツブツと手を顔に押し当て、俯きながら何かをつぶやき、そして顔をあげたころには先ほどの狂態が嘘のように涼やかな顔をしていた。

「やめておこう。僕の『絶対空間』《エリア・マスター》と君の『流転世界』《ワールド・ムーバー》では決着がつかない」

 その言葉にもルウラは油断を示さない。

「僕は、君が大好きだ。だからね。君が好きなものは僕の好きなもの。君が好きな奴は僕の殺す奴だ」

 ダンクは憎悪の眼差しをコウに向けた。

「ただでは殺さない。二週間後、お前を殺しに来る。お前が見つからなければあらゆる破壊を行ってやる。それまでせいぜい、自身の日常は二度と戻らない様を噛みしめろ!」

 圧倒的な憎悪にコウは持ちこたえ、なおかつ立ち上がって見せた。

「上等だ。俺はお前がどうしようもなく気に食わない!」

 コウの啖呵にダンクは邪悪にほほ笑み、空間を歪ませて姿を消した。

 去った後には何も残らなかった。ロウアーの姿が見えないあたり、空間跳躍で一緒に飛んだらしい。

 険しい表情を消さないコウにおずおずとルウラは近寄った。

「コウ……すまない。私は………………」

「戦い方を教えてくれ」

「え?」

「あいつは俺の日常を完膚ないまでにぶっ壊してくれた。俺はあいつが許せない。しかもあいつはこれから俺を殺すという。あんなにコケにされたのは初めてだ」

 コウの怒りはルウラに不安を与えるには十分だった。

「コウはなにもしなくていい!私が何とかする!」

「駄目なんだよ」

「え?」

「おかしいんだ。体の中が、熱くて、あいつを許すなって言っている」

「コウでは勝てない」

 ルウラは嘘をついた。ルウラが校庭にたどりついたのはちょうどコウがロウアーと交戦している真っ最中だ。

 ルウラはコウのファクターをしっかりと見た。時間制限はあるものの、コウのファクターならば――神を喰らえる可能性がある。

「私はハヅキの友人だ。友人の恋人を死地に引きずり込むわけにはいかない」

「ずれてんぜ。ルウラ。もう引きずり込まれている」

「コウ」

「それにな。俺は、また殺しちまった」

「え?」

「殺しちまったんだよ。自分を好いてくれていた女の子だけじゃない。あのビジターの中には人間が居たっていうのに!」

 コウ自身の身を裂く叫びはルウラを激しく動揺させる。

「コウ、違う!それは……ッ!」

 コウがルウラの肩を掴み、ルウラの言葉をさえぎった。

「なのに、俺に何もするなというのか!それはあんまりだ!俺は立ち止まれない!立ち止まってしまえば……俺は………………もう耐えられない」

 はじめは勢いよく放たれていた声が終わりになるにつれ小さくなっていき、最後には消え入りそうな声になっていた。

「…………たのむよ。ルウラ。俺を………………助けてくれ」

「私は……」

 まるで自分が消えてしまうかのような恐怖をたたえた目がルウラを逃がさない。それは懇願と形容するにも軽く思えるほどの切実な願い。

頼むからこの手に武器を。

生き残るための武器を。

死者に追いつかれないための武器を。

 長い葛藤の末、ルウラは首を縦に振った。

 かくして契約は結ばれた。

 その契約が良いものなのか?

 少なくとも今のルウラには不吉なものにしか思えなかった。


別に残酷描写って言うほどでもなかったかなぁ……

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