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幕間

最終章のその前に

 ハヅキは破壊の跡地を見聞していた。地面には球状の陥没がいくつも見られ、元は更地だったのでは?と思うほどに建物の形は消えていた。

 ハヅキはダンクが空間障壁を創って『地に』立っていた場所を中心に注意深く眼を凝らした。

その場は完全に平らであり、ルウラの攻撃が放たれたであろう所と境界線のような形となっている。

(障壁の形、攻撃の形は全て球状…………あっておかしくないものがないってことは)

 ルウラはダンクのファクターを分析した。

 そして一つの結論を導いた。

 あの神には致命的な隙がある。

「ハヅキちゃん」

 一緒に実地調査に来ていたタダトがハヅキに歩み寄る。

「やはりあの神の防御で地面に何かしらの影響はなかった」

 これで裏もとれた。

 後はその攻撃を創れる隙をコウ達がつくれるか、だ。

「あとな、お偉いさんがコウに会わせろとせっついてきている。断っといたけどよ」

「ありがとうございます。おじさま」

 コウには伝えていないが、コウ達が負けるということは人類が屈服するということなのだ。

 服従因子により、人がダンクに攻撃をすることもかなわない。

 機械による攻撃もあの神の力の前には無力だろう。そしてあの神は戦力を無尽蔵に送ってくる。コウのようなファクターを有した人間がまだ見つかっていない上に、ファクター使いがコウのように服従因子が働いていないということは考えづらい。

 コウのような人間が出たのは奇跡的な確率なのだ。

「今、コウに余計なプレッシャーかけても良いことは何もない」

 コウは自分の身近なものに対して力を発揮する人間だ。いきなり世界を救え、などと言われても戸惑うだけだろう。いらぬプレッシャーは勝率を下げる。コウにはテレビを見ないようにいっている。コウ自身、それどころではないからあっさり納得したが、世間では世界が滅びると大騒ぎだ。今、俗世を離れた修行僧のような生活をしているコウにそのような話は毒になる。

「次の神が現れるのが十年後なのか次の瞬間なのかわからない。世界の崩壊も同様。それでも、一週間後を勝ち抜かない限り、一週間後には人類に未来はない」

 必ず勝たせる。

 ハヅキの瞳は強い意志に満ちていた。

「所で例のものはできそうかい?」

「ええ、今は刀身にマテリアルを定着させているところです」

 ハヅキの言葉にタダトは満足げに頷く。

 かなり無茶なスケジュールではあったが、彼女はそれらすべてをこなしている。

「ハヅキちゃんにはすまないと思っている」

「?」

「対話を望むハヅキちゃんに、武器を作り続けさせていることが……申し訳なく思う」

 タダトの謝罪にハヅキは首を横に振って、薄く微笑んだ。

 どうしようもない。

 自信が持つ技術を示してきたからこそ彼女は今の立場に居る。

 そうしていなければならなかった。

 諦めはそれでも、納得を伴わないわけではない。むしろ、そうでなければ自分の預かり知らぬところで世界が決定づけられてしまう。それだけはいやだった。

 苦労ばかりだ。

 二人の間にそんな共通認識が流れ、互いに苦笑する。

 その時、ハヅキの通信機に緊急のコールが鳴り響く。

「なに?」

 コウと話していたオペレーターが焦った口ぶりで最悪の内容を伝えてくる。

「日本政府が軍隊を五月の神に差し向けました!」

「あれほど手を出すなと言ったのに!」

 この破壊をみれば必死になる気持ちもわかる。

 しかし、彼らは服従因子のことを軽く考えすぎている。

 これはただの自殺だ。




 誰もいない平野にダンクとロウアーは歩いていた。

 耳に上空を高速で飛ぶジェットエンジンの音が鳴り響く。

 目に写るはミサイルを満載した戦闘機が三機。

「ロウアー。あれはなんだ?」

「あれは人間の武器で戦闘機と呼ばれるものです。あの形状はF-15と呼ばれるものですね」

「ふぅん」

 ダンクはすでに興味を失ったように迫りくる人間が送った破壊の権化に背を向けた。

「いかがしますか?」

「ほっときなよ。自殺したくて来ているんだから邪魔してやるのもかわいそうだろう?」

「そうですね」

 そういってロウアーも背を向ける。

 航空機は地を歩く者が敵対する場合、絶望的なまでの戦力差がある。

 上空を高速で飛びまわり、一方的に大火力を放つ。こちらから攻撃をあてるなど至難の業。それに攻撃をする前に命を失うだろう。人類が行った大破壊の多くは航空機があったからこそ行うことができた。その圧倒的な機動優位性、積載できる優れた攻撃兵器の数々も分かりやすく人類が創造した最強兵器であるということを伝えてくれる。

 そして三機の破壊を象徴する兵器は神に向かって攻撃を放とうとした。

 その時だ。

 三機がコントロールを失い、それぞれが錐揉みしながらてんでばらばらの方向に飛んでいく。翼が甲高い風切音を発し、それは三機が奏でる断末魔のようでもあった。時間にしてほんの数秒、狂ったように空を飛び続けるには無理がある機動を続け、ついには失速。墜落して爆発炎上した。

 神につばすることなど許されない。

 戦闘機のパイロットたちは神と天使に攻撃をしようとした途端に服従因子が作用し、発狂した。神と天使に攻撃の意思を向けるということが引き起こした必然だった。

 神は攻撃してきたものに何ら意思を向けることなく、三つの命を消してしまった。

「僕はああいう兵器が嫌いだよ。実感を伴わない殺しを行うのはゲームと同じさ。命をかけて戦いの中で理解を深めあうからこそ命は輝くというのに」

「ダンク様。これは人間達が私達に花火を見せてくれたと解釈しましょう」

「それにしては美しくない」

 ロウアーの冗談にダンクは軽く笑う。

「ところで今日の食事は?」

「はい。バジャラジカであります」

「ああ、七月席の国の料理だね。僕はあそこの料理は好きだよ。辛くってさ」

 ダンクの満足げな顔にロウアーも満足そうな顔を浮かべる。

「あ~あ、もう他の神なんか来なくていいのにさ!そうすればずっと僕とルウラはずっと二人で愛し合える。なぁ、ロウアー。次の神がいつ来るとかわからないのかい?」

「こればかりは何とも。明日には現れるかもしれないし、もしかすると百年後かもしれません」

「百年後!それは笑えるね。さすがに僕らも寿命だよ。そうなれば本当に素敵だ」

「ええ、本当に」

 ダンクとロウアーはそんな雑談を交わしながら自分達の根城へ帰っていった。


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