プロローグ
コウは世界の変容をフィルター越しに眺めた。
テレビに映っているは異形の怪物。
何が一番近い動物かと問われればゴリラだが、テレビの怪物は両腕部が異常なまでに盛り上がっており、体のシルエットはゴリラに酷似しているものの、頭はグロテスクな蟲の形をしている。二足歩行が可能らしく、全身が体毛に覆われたその化け物と相対すれば人生をあきらめさせるには十分すぎるほどの巨躯と凶暴性をもっている。
「もうあのビジターがニュースに出てんのか。ブン屋もがんばるねぇ」
コウの父、暁タダトが朝ごはんを片付けつつ、コウが見ていたニュースに写っている化け物の総称を口にする。
「おい、親父。ピーマン残ってんぞ」
コウはタダトが自然に下げようとした皿に残っているピーマンを指して下げることを止める。言葉にはありありと非難の色が内包されている。
「……これ、喰い物だったか?」
父の言葉を受けコウの顔はますます歪んだ。
「俺が作った飯が食えないって?」
二人暮らしのこの家で家事はコウが一手に引き受けている。
学生であるコウにとって時間はタダトよりも自由であるという理由でコウが自らかって出たのだが、自分の父の偏食にはほとほと困っていた。
二人の間に火花が散る。
いつもならここで父が負けることが常だ。
そして今回も全く恒例通りに父が折れた。
「相変わらず厳しいな息子よ」
「うるせえ!いつもこうなるんだから初めっから喰えよ!時間の無駄だろうが!……っと、いけねぇ」
コウは父への説教を中断すると玄関へと歩き出す。
「どうした?学校までまだ時間はあるだろう?」
「今日はクラス委員長に呼ばれてんだよ」
「お、告白イベントか?」
「やかましい!」
茶化す父にお決まりの言葉で返し、コウは自宅ぼろアパートを飛び出した。
父に付き合っていると本当に遅刻確定だ。
青年は自身の日常を信じ切っている。
友人、家族、恋人。全てが不変なものであると無意識に思いこんでいる。
すでに日常は浸食されつつあるというのに青年はそれに気づかない。
これは青年が、全てを失う物語。
初めて小説を書いてみました。
誰か楽しんでいただけたら幸いです。