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短編集

 あたしとクリスマスプレゼント(受け取り拒否はダメですか?)

作者:

 十六歳のクリスマスイブにあたしの母 鳴子が娘の前に差し出したのは前々から欲しかったハードカバーのミステリーでもコートでもなくて・・・・・。


 「エリ!!ほら!みてみてみて!カッコイイでしょ~~~~!」


 酒でもはいっているのかと疑いたくなるようなハイテンションで母はクリスマスプレゼントをあたしに見せ付けるように押し出してくる。

 

 でも、ちょっと待って欲しい。


 第一にその「クリスマスプレゼント」には包装の類いは一切ない。リボンもカラフルな包装紙もされておらずむき出しだ。

 第二にその「クリスマスプレゼント」は大きかった。あたしよりも母よりも大きい。百九十近いんではないか。

 第三その「クリスマスプレゼント」は生き物だった。金色の毛と青い瞳を持っている。そして彼は生きて動く。

 しかも母の説明如何じゃ容赦なく法律違反になりそうなほど厳重に法の中にいる生き物だ。

 母よ。あなたが差し出しているクリスマスプレゼントってどう見ても・・・・。


 人間、じゃないですか?


 そう、母があたしに「クリスマスプレゼント~~!」といって帰宅するなり差し出したのは金髪青瞳のかなり顔の整った外人のお兄さん、だった。


 あんぐりと言葉すら出てこないあたしに母が怪訝そうに首を傾げる。


 「あら~~~?エリ~~?ど~~~したの~~~?」


 のほほんとしたその口調にあたしの中の何かがブチリと音を立てて千切れた。


 「お母さん!どこで拾ってきたの!元の場所に返してきなさい!」


 咄嗟に出たのはそんな言葉だった。

 というか飼えない動物を拾ってきた子供をしかりつけるようなセリフをなぜ実の親に言わなければいけないのよ!

 しかも対象が動物じゃなくて人間だし!

 しかし話を全く聞かない類いの人間である母、鳴子はそんな娘に臆することなくにこにこと笑うばかりで埒が明かない。


 「お母さん!」


 「・・・・・・エリちゃん?怒ってる?」


 「あたりま・・・・」


 当たり前だと怒鳴りつけかけたあたしだが母の上目遣いの涙目にぐっと言葉を飲み込まされてしまった。


 「くっくぅぅぅぅぅぅ!!」


 「エリちゃん・・・・」


 うるうると小動物のような目で見上げてくる四十うん歳 。

 見た目は小動物系の実年齢不明でふわふわな砂糖菓子のような母にそんな眼で見られるとあたしはまったくもって強く出られない。


 「・・・・怒ったの・・・?」


 「~~~~~~~~~~~っ!」


 「・・・・ぐすっ・・・きらわれた・・・・」


 見る見る目に涙を溜める母さんをクリスマスプレゼントの青年が心配そうに覗き込む。

 あれ?なにこの図。あたし、悪者?


 「エリちゃんに・・・きらわれた・・・・・・ぐす・・・ううっ・・・・」


 相手は女優。信じたらこっちが馬鹿を見ると幼い頃から何十回と繰り返した言葉を再び心の中で繰り返すが側で聞こえてくる泣き声と見上げてくる涙目に心は早くもぐらぐら揺れていた。


 (あれは演技あれは演技あれは演技っ!)


 爪が肉に食い込むんじゃないかというぐらい拳を握り込んで必死に耐えるがどう考えてもこちらの分が悪い。しかも今回は母だけではなくクリスマスプレゼントのお兄さんの無垢な視線まで混じってますますあたしの分が悪くなっていく。


 「ふぇぇぇ・・・えぐえぐ・・・・・」(←しくしくとなく)


 「・・・・・・・・・・・」(←とっても心配そうな目)


 「~~~~~~~~~~~~~っ!!」(←血の涙を流さんばかりに苦悩中)


 あれは、演技。だけど・・・このクリスマスプレゼントのお兄さんのは演技じゃない分、抗えない。


 「わ、わかった・・・・」


 あたしは肩をがくりと落とし、それだけを搾り出すように喋った。全面降伏だった。


 「ほんと!エリちゃん大好き!」


 ぱっと顔を上げた母が(ちゃんと目元に涙が残っているのはさすがというかなんというか)輝く笑顔で抱きついてくるのをはいはいと抱きとめる。

 小柄な母の身体は女子高生にしては高いあたしの腕の中にすっぽりと納まってしまう。


 「はいはい。ありがとう。あたしも母さんのこと大好きですよ~~~」


 「え~~~なんか投げやり!もっと愛情込めて!」


 ぴー歳がなに可愛い子ぶってんだと言いたいが我が母ながら外見はとても一児の母と思えない若々しさと可愛さを保つ人間にそんなことはさすがに言えない。


 「大好きです。それよりもこのクリスマスプレゼントの彼はどこのどちらさまでどんな経緯であたしへのクリスマスプレゼントになられたのよ」


 ぶーぶーと唇を尖らす母を軽くあしらいながら後ろの方でぽへらと立ち尽くしているクリスマスプレゼントの彼に目やると彼はこちらの視線に気付くなりぱっと嬉しそうに笑った。それはもう主人をみつけた犬のような笑顔で腕を広げてこちらにやってきて・・・・って!


 「ぎゃぁ!」


 「きゃ!」


 とても女らしくない悲鳴ととても女らしい悲鳴が同時に上がる。

 というかこの人、なんでいきなりあたし達を抱きしめてんの?

 問いかけるように見上げても返ってくるのは嬉しそうな笑顔だけ、むしろこの人あたしと目が合うたびにすごく嬉しそうに笑うんだけどどうして?


 「エリ、ダイスキ!」


 「へ?」


 そんな言葉と共にクリスマスプレゼントの顔がぐぐっと近くなる。

 フワリと彼の前髪があたしの顔に触れ、そして小さな音と共にあたしの頬に柔らかな感触が押し付けられた。


 「へ?」


 間抜け面にもほどがあると自分でも思うけど口を開けてただクリスマスプレゼントであるお兄さんを見上げるしかできない。

 そんなあたしに優しい笑顔を浮かべたお兄さんが耳元でそっと囁いた。


 「メリークリスマス。これからよろしくおねがいします」


 「え?え?え~~~~~~~~~~~!」


 頬を押さえて真っ赤になるあたし。そんなあたしに訳が分からないという風情で首を傾げるクリスマスプレゼント。そしてそんなあたしたちに挟まれてころころと鈴を転がしたような笑い声をあげる母さん。

 こうしてあたしはクリスマスプレゼントである外人を相手の事情もよくわからないまま受け取る破目になったのであった。

 これって・・・・受け取り拒否は許されないのかなぁ?

 なし崩し的というか母の思惑通りことは進んでいき、クリスマスプレゼント・・・・・・アレンと名乗ったので以後それで呼称・・・・とあたしは共同生活をすることになった。


   

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