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夜間入出港禁止の壁

「……なるほど、そう来たか」


マカオの宿舎、深夜。俺はスマホの青白い光に照らされた紙の「月次之見ダッシュボード」を見つめて吐息をついた。 梁鎮中リョウ・チンチュウが引き下がった後の港は、一見、則例ルールに従っているように見えた。だが、紙の上の「夜間違反率」の棒グラフが、異常な突出を示していた。


[Image: A bar graph showing a sharp spike in vessel arrivals between 2:00 AM and 4:00 AM]


梁は「物量」で制度をパンクさせに来たのだ。 昼間の検査が厳格なら、全ての船を夜間に集中させる。闇の中、数少ない吏員の目を盗んで荷を降ろすか、あるいは検査の順番待ちを意図的に作り出し、「効率が悪い」と総督府へ泣きつく腹だろう。


「陳、すまないがもう一度、則例を書き換える」 俺の言葉に、隣で居眠りをしていた陳が飛び起きた。 「まだやるのか? 現場の連中はもう限界だぞ」


「ああ、だから『夜は寝かせてやる』んだ」


翌朝、埠頭には新しい高札が掲げられた。 『夜間入出港の全面禁止、および日の出前の接岸制限』。


「馬鹿な! 潮待ちもできんというのか!」 港に集まった船主たちが怒号を上げる。梁の息がかかった商人も、ここぞとばかりに野次を飛ばす。


だが、俺は淡々と、AIが算出した「最適解」を陳の口から語らせた。 「その代わり、日中の検査ラインを三倍に増やす。夜間に警備に割いていた人員を、全て昼の検品に回すんだ。夜を閉じ、昼を開く。これで全体の回転率は落ちない」


石畳を荷車の輪が噛み、ゴトゴトと響く音。 夜の静寂を切り裂いていたその音は、いまや完全に消えた。 代わりに、昼間の港には規則正しい「仕事」の活気が満ちる。


「……夜はあなたの味方だった。これからは規則が味方になる」 俺は、遠くからこちらを睨みつける梁の視線に、心の中でそう告げた。 夜の密輸という「例外」を、物理的な「時間」で封鎖する。 AIは答えを言わない。ただ、俺が引いたこの「禁止」の線が、史実にある「広州の腐敗」を、着実に過去のものへと押し流していくのを、ヒートマップの赤みが消えることで示していた。


帆縄が突風に弾かれ、キンと鳴る。 昼の光の下、則例という透明な壁が、マカオの海を静かに囲い込んでいく。

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