表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビで滅んだ異世界を、シヴィライゼーション知識で再建する  作者: マルコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/28

第一章 第六章 初の指示と改善案

 森の奥から響く咆哮を背に、ユウタは即座に指示を飛ばした。


「クロウさん、まずは“見張り塔”の材料を集めてください!

 樹齢の若い木を二十本。それを丸太にして、今ある柵の基部に組み込みます!」


「……すぐ動く!」


 クロウが木こりたちを集めて森の外縁へ走る。

 彼の顔にはまだ疑念が残っていたが、それ以上に“希望にすがる”必死さがあった。


「クレアさんは、村の病人のリストを作ってください。

 どの家に何人いて、誰が働けて、誰が働けないのか。

 “労働力表”を作るのが最優先です」


「り、労働力……?

 わ、わかった! すぐに人を集める!」


 クレアは走り去り、村の女性たちを呼び集め始めた。


 ユウタは深呼吸をする。


(こんな大人数に指示を出したの……生まれて初めてだ)


 だが不思議と、言葉は淀まなかった。

 Civの中では、何万人の都市でも一人で管理してきた。

 ここは規模こそ違うが、本質は同じだ。



「リュミエラさん、

 あなたは“村の中心になる人たち”を三つの班に分けてください」


「三つ……?」


「はい。“水路班”、“農地班”、“防衛班”。

 まずは、水路班が最優先です」


 リュミエラが首を傾げる。


「ですが……森の川は遠くて危険で……

 村人たちも怖がって……」


「川まで行く必要はありません」


「……え?」


「“支流”を使います。

 昨日、神殿の近くで小さな分岐の跡があったはずです」


 リュミエラは息を呑む。


「あなた……あんな短時間で……」


「視界に入ったものは、全部マップとして記憶しています。

 地形は……俺の得意分野なんで」


 リュミエラは尊敬の眼差しを向けた。


「わかりました……!

 水路班の選抜、すぐに行います!」


 彼女は村人を数名ずつ呼び寄せ、名前を確認しながら班を作っていく。

 その姿を見て、ユウタは心の中で呟いた。


(この世界……統治システムが弱すぎる。

 これなら、基本管理だけで大きく改善できる)



 クロウたち木こりの班が戻ってきた。

 丸太を数十本も肩に担ぎ、汗を流しながらも、顔には緊張と期待が混ざっていた。


「持ってきたぞ、ユウタ!」


「ありがとうございます!

 じゃあ、まずは“入口の南側”に見張り塔を作りましょう」


「南側……? あっちか?」


「はい。

 グールの足跡が一番深かったのが南側なので……

 奴らの通り道になっているはずです」


 クロウが驚いた表情を見せる。


「なぜわかる?」


「足跡の向きと、地面の掘れ方です。

 あれは一方向から来ている足跡じゃありません。

 “通り道”になってます」


 クロウは絶句した。


「……本物の軍師か、お前は」


「軍師じゃないですよ。

 ただのゲーム脳です」


「ゲーム……?」


 クロウは首をひねったが、ユウタの言葉は真剣だった。



 水路班が出発する。

 ユウタは先頭に立ち、森へ向かう道を慎重に進んだ。


 森の入り口で、ユウタは土に触れた。


(ここ……少し湿ってる。

 ということは——)


「ここを通すと、水の流れが速くなりすぎます。

 だから、もう少し低い位置……

 ここです」


 ユウタは指で地面を示しながら言う。


「このラインに沿って、幅20センチ、深さ10センチの溝を掘ってください。

 最初の50メートルだけでいいです。

 支流が近いはずなので、そこに繋げれば……

 水は勝手に流れます」


 水路班の一人が驚きの声を上げた。


「そ、そんな細い溝で……?」


「大丈夫です。

 “最初の一滴”さえ作れば、あとは自然が助けてくれます」


 村人たちは半信半疑だった。

 しかし、ユウタが示した場所は、確かに地形の傾斜がゆるやかで、遠くに小さな水音が聞こえる気がした。


「では……掘ります!」


 男たちが鍬を振るう。

 森の静寂に、土を掘る音が響いた。



 別動隊の農地班は、畑の中央で区画整理を始めていた。


「三分割に……って、こうか?」


 リュミエラが棒で線を引きながら叫ぶ。


「違う! その線だと水はけが悪いままになります!」

「わ、わかった!」


 ユウタは畑に戻ると、即座に指摘した。


「ここは“等高線に沿って”区切るんです。

 傾斜に逆らうと水が溜まって土が死にます」


「な、なるほど……!」


 リュミエラは本当に理解し、指示を出し始めた。


「皆さん! ユウタさんの言った通りに、区画をこう分けてください!」


 村人は嬉しそうでもあり、戸惑ってもいた。

 だがその表情には確かな変化があった。


(……この世界の人間は素直で、理解も早い)


 驚きがあった。



 一方、クロウ率いる防衛班が、丸太を地面に打ち込んでいた。


「ここに見張り台を立てる!

 ユウタ、これでいいか!」


「はい! その位置が最善です!」


「お前……本当に“見通し”がいいな」


「ゲームだと斜線は命なので」


「ゲームってなんなんだ……」


 クロウは困惑しながらも、完全にユウタを信頼していた。


 丸太を組み、縄で縛り、簡易の見張り台が形になっていく。


 これで南側の警戒が格段に強化される。



 三つの班が同時に動き、村が“生き返る音”を立て始めた。


 土を掘る音。

 丸太を運ぶ音。

 畑に線を引く足音。

 人々の声。


 昨日まで、死にかけていた村が……

 今は“文明のはじまり”を告げるように騒がしかった。


(……こんな感覚、初めてだ)


 ユウタは胸が熱くなるのを感じた。

 会社では味わったことのない“自分の指示で世界が動く”感覚。


 リュミエラが近づいてきた。


「ユウタさん……皆、あなたに驚いています。

 これほど“合理的な指示”を出せる人は……王都にもいませんでした」


 ユウタは笑う。


「合理的というより……“効率中毒”です」


「効率……?」


「はい。

 俺は、効率を上げることしかできないんです。

 でも……この村には、それが足りてなかった」


 リュミエラの金の瞳が、優しく揺れた。


「あなたが来てくれて……本当に良かった」


 その言葉は、どんな評価より嬉しかった。



 夕刻。

 村中が作業を終え、家に戻り始めた頃。


 水路班の若者が、走って戻ってきた。


「ユ、ユウタさんッ!!

 み、水が……!!」


「……流れたのか?」


「はい! 溝に……水が……!」


 歓声が村に響いた。


 ユウタとリュミエラ、クロウ、クレアも現場へ走る。


 そこには——


 小さな溝に、透明な水がチョロチョロと流れていた。


「……これが、水路だ」


 あまりに小さな流れ。

 だが、その意味は村人全員が理解していた。


「……すごい……!」

「川の水が……!」

「これで……水が手に入るのか……!」


 リュミエラが涙を浮かべて言う。


「ユウタさん……

 あなたは……奇跡を起こしました」


「奇跡じゃないですよ。

 ただの、地形利用です」


 だが、村人にとっては奇跡そのものだった。


 沈んでいた心が、わずかに明るくなる。


 その夜、村には久しぶりに“希望の灯”がともった。


 しかし——


 その希望の裏側で、森の奥では別の“異変”が起きていた。


 蠢く影。

 通常よりも速い動き。

 赤い光を灯す瞳。


 明らかに、昨日とは違う“何か”が目を覚ましていた。


(……ターン制限、厳しいぞ)


 ユウタは、自室の寝床でそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ