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ゾンビで滅んだ異世界を、シヴィライゼーション知識で再建する  作者: マルコ


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第一章 第四話 生存者の村の現実

村の入口を越えると、荒廃の全貌が一気に視界に流れ込んできた。


 家屋は半分以上が壊れていた。

 壁が崩れた部屋、屋根だけが落ちている建物、炭のように焼け落ちた倉庫。

 まるで戦争の跡だ。

 しかし、リュミエラによれば戦争ではなく——ゾンビの群れによる破壊だという。


 村の中心には井戸があったが、桶と縄は古びて黒カビが生えていた。

 水をくみに来た老婆が、力なく桶を落とす。

 カラカラ……と乾いた音が響く。


(この村……本当に終わりかけだ)


 ユウタは喉がこわばった。

 現実の荒廃は、ゲームのようにアイコンひとつで説明されるものではない。

 疲れきった人々の表情、道に散らばる破片、動かない家畜……

 そのすべてが、静かに“死”の気配をまとっている。



 リュミエラは村長の元へユウタを案内した。

 村長は細い体の老人で、座っているだけでも息が苦しそうだった。


「……王女様。お戻りいただけて、何より……。

 しかし、状況は……芳しくありません」


「やはり、食料が?」


「残り三日分。

 明日以降は狩りに出なければなりませんが、森には……」


 老人の言葉は続かない。

 森に出れば、生存率は低いということだ。


「病人も増えております。

 薬草も底をつきました」


 クレアが唇をかんだ。


「……魔術の使い手も、ほとんど残ってないわ。

 治癒も攻撃も、最低限の力しか使えない。

 本当は、もっと早く王都へ戻って……」


「戻る場所など、もうない」


 クロウが静かに言った。

 その声は低いが、覚悟がにじんでいた。


 リュミエラは村を見渡し、深く息を吐いた。


「……ユウタさん。

 あなたの目には、この村……どう映りますか?」


 唐突な問いだった。

 ユウタは驚きながらも、村全体を改めて見た。


 荒れた畑、壊れた柵、汚れた井戸、物資管理が雑然とした倉庫。

 人口はおそらく百人前後。

 労働力は圧倒的に不足している。


 しかし——


(やりようはある……はずだ)


 Civの序盤のボロ都市を思い出す。

 人口1、食料不足、生産力ゼロ。

 だけど、そこから立て直すことは決して不可能じゃない。


(問題は……この世界がゲームのように“効率的”に動くかどうかだ)


 ユウタはゆっくり言った。


「……まず、水。

 井戸はあるけど、水質が悪い。

 森の奥に川がありましたよね? あれを使えば……」


 リュミエラは驚きの目を向ける。


「そう、川はありますが……森の中は危険すぎます」


「だから水路を作るんです。

 川から村まで、簡単な溝でもいい。

 最初は小規模で……」


 クロウが眉をひそめた。


「素人の考えだろう? そんなことが出来るなら、とっくに誰かが……」


 ユウタは首を振った。


「違います。

 今の村の人員なら、最低でも三十人を三日動かせば、仮設の水路は作れます」


「三十人も……そんな余力が……」


 クロウが言うが、ユウタは続けた。


「逆です。

 水を確保しないと、農業も調理も衛生も全部止まる。

 今こそ、水路を作るべきです」


 リュミエラが息を呑む。


「……あなた、まるで国の技師のような……」


「違います。

 ただの……」


(ただのゲームオタク……)


 そう言いかけたが、声が喉で止まった。

 ユウタは別の言葉を選ぶ。


「……考えるのが仕事だったんです。

 設備や生産ラインを見て、改善案を作る。

 無駄を減らして……効率を良くする」


 リュミエラとクロウが目を見合わせた。


「改善……?」


「効率……?」


「そうです。

 この村は、すべてが手遅れに見えるけど……

 “手順さえ踏めば”復活できます」


 村長が食い入るようにユウタを見た。


「……本当に、そのようなことが?」


「すぐに、というわけではありません。

 でも、やるしかないんです」


 ユウタはゆっくりと村の畑に歩み寄った。


 畑は一本の筋になって細長く伸びている。

 水が溜まった跡があり、土は固く、雑草がそこら中に生えていた。


(これ……完全に“悪手”だ)


「畑を三つに分けましょう。

 区画を交互に使って、土を休ませるんです。

 “輪作”という方法です」


「り、輪作……?」


 クレアの呟きに、ユウタは説明する。


「同じ場所で同じ作物を作り続けると、土地は疲れます。

 違う作物を順番に育てることで、栄養の偏りがなくなる」


 リュミエラが目を丸くする。


「そんな方法が……」


「あります。

 そして、柵を作り直す。

 今ある柵の位置だと逃げ道が多すぎて、防衛にならない」


 クロウの眉が跳ねた。


「……お前は、戦術にも詳しいのか?」


「戦術というほどでも。

 ただ、この手の陣形は……ゲームで慣れてるんです」


(ゾンビを誘導して、迎撃ポイントを作る……

 基本的な“タワーディフェンス”だ)


 ユウタの脳内では、村の地形が“マップ”に変換されていた。


 クロウが静かに言った。


「……お前、本当に何者だ?」


 ユウタは肩をすくめた。


「ただの……戦略ゲーム好きの会社員です」


「ゲーム……?」


 リュミエラは少し首を傾げる。


 ユウタは苦笑した。


「説明すると長いんですけど……

 要するに、世界を管理して発展させる遊びです。

 国の仕組み、人口、食料、建築、研究……

 全部、考える必要がある」


「ま、まるで“国づくり”……」


「そうです」


 リュミエラは息を呑んだ。


「あなた……この村を、救えるのですか?」


 その瞳は震えていた。

 絶望と希望の入り混じった、切実な光。


 ユウタは村を見渡す。

 荒れ果てた現実に、ゲームのような簡易さはない。

 でも——


(……放っておけるわけがないだろ)


「できるかどうかはわかりません。

 でも……やります」


 リュミエラが目を見開き、強く頷く。


「……お願いします。

 あなたに……この村を……」


 初めて知った。

 “頼られる”という感覚を。


 胸に、熱が灯る。

 長い間くすぶっていた心が、ほんの少しだけ明るくなった。


 その時、森の奥から低い咆哮が響いた。


「……っ!」


 クロウが剣を抜く。


「グールだ! また来やがった!」


 リュミエラの表情が一気に険しくなる。


「……ユウタさん。

 もし、本当に再建を始めるのなら……

 時間がありません」


 ユウタはそっと空を見上げた。

 夕日が沈みかけ、赤い光が村を照らしていた。


(……動くなら、今しかない)


「明日から始めましょう。

 水路の整備と、畑の区画整理。

 それと……防衛線の改修」


 リュミエラは深く息を吸い、強く頷いた。


「わかりました……!

 あなたの指示、すべて従います!」


 村長も声を震わせながら言った。


「神が……神が救いを与えたのか……」


(いや、神じゃなくてただの社畜だよ……)


 ユウタは内心で苦笑した。


 しかし同時に、強い実感があった。


(……俺は、この世界でならやれるかもしれない)


 そう思えたのは、生まれて初めてかもしれなかった。

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