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ゾンビで滅んだ異世界を、シヴィライゼーション知識で再建する  作者: マルコ


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第一章 第三話 姫と護衛との初対面

森の奥へ進むにつれ、空気が変わった。

 湿った土の匂い、折れた枝の散らばる音、遠くで何かが這うような低い唸り。


 ユウタの心拍は早い。

 ただ歩くだけなのに、呼吸が荒くなる。


 前を行く少女が振り返った。


「歩けますか? 無理はしないで」


 その瞳は思った以上に真剣で、ひたむきだった。

 顔立ちは整っているが、戦場で生き延びてきた鋭さがある。


「だ、大丈夫……です。でも、その……」


 ユウタはようやく問いを口にした。


「あなたたちは……誰なんですか?」


 少女は歩みを止め、胸に手を添え、静かに自己紹介をした。


「私はリュミエラ。

 かつて〈エルダリア王国〉の王女でした」


「……王女?」


 思わず声が裏返る。


 リュミエラは苦笑を浮かべた。

 どこか達観した笑みだ。


「今となっては“元”ですが。王都は落ちました。

 もう、私が王女である意味もほとんどありません」


 後ろから剣士の男が低い声で補足する。


「俺はクロウ。リュミエラ様の護衛だ。

 お前を疑っているわけじゃないが、ここから先は本当に危険だ。気を引き締めろ」


 クロウは背に大剣を背負い、身体が岩のように頑丈だ。

 だが、その瞳の奥には疲労が滲んでいた。


 その横で薬師の女性が軽く会釈する。


「私はクレア。薬草と治療を少し。

 あなた、崩れ落ちる寸前でした。体に不調はありません?」


「だ、大丈夫…たぶん」


 ユウタが戸惑いながら答えると、リュミエラが言った。


「さっきの“グール”。

 あれに遭遇して、無事だったのは本当に幸運です」


 グール。

 さっきのゾンビのようなものだ。


「…あれは、人間じゃないんですか?」


 問うと、リュミエラの表情が一瞬だけ曇った。


「かつては、人でした。兵士や、旅人や、村の人たち。

 “喰われた者”や“噛まれた者”が、すべてああなるんです」


「……っ」


 背筋が冷たくなる。

 ゲームでは見慣れた言葉だが、現実の声で言われると重みが違う。


「この世界は……どうなってるんですか?」


 ユウタの震える問いに、リュミエラは静かに語りはじめた。


「三年前です。最初の“変異者”が現れたのは。

 死んだはずの兵士が起き上がり、仲間を襲った。

 それは一人、二人ではなく、あっという間に広がって…」


 彼女は唇を噛む。


「王国は防衛線を築きました。

 ですが、あの存在は“死を恐れない”……。

 どれだけ倒しても、数が減らなかった」


 クロウが低く続ける。


「中央城塞が陥ちた時点で、王国は終わった。

 生き残ったのは、せいぜい数千」


 リュミエラは森の奥を見つめる。


「私たちは今、その“最後の生存者”のひとつの集まりです。

 王都から遠く離れた小さな村……そこも安全とは言えませんが」


(……王国が滅んだ? ゾンビで? 数千の生存者?)


 現実離れした言葉が次々と降ってくる。

 しかし、周囲の風景、倒れた木々、焦げた地面、あのグール。

 どれも嘘ではない。


 ユウタの喉が乾く。


「俺は……どうして、あの神殿に?」


「わかりません」

 リュミエラは首を振った。


「あそこは“古の祭殿”と呼ばれ、誰も近づけない禁域です。

 王国の記録には、“異界の門”という伝承もありますが…

 それが本当なのかはわかりません」


(異界……門……)


 ユウタは心の底で嫌な予感がした。


 自分はここに“落ちた”。

 目的も理由もないまま。


 クレアがふと、ユウタの服を指さした。


「その服……見たことのない布地です。

 どこの国のものですか?」


 ユウタは一瞬、言い淀む。

 普通の量販店のジャケットだ。


「どこの……って言われても……」


 リュミエラが優しく言う。


「無理に答えなくていいですよ。

 むしろ、あなたが生きていたことが奇跡です」


 その言葉は嘘ではなく、純粋な安堵の色があった。


(……この世界は、本当に滅びかけてるんだ)


 森を抜けると、視界がひらけた。


 草地の向こうに、丘の斜面に寄り添うように建つ集落があった。

 しかし、村はひどく傷んでいる。


 半壊した家屋。

 焦げた屋根。

 壊された柵。

 畑は荒れ、作物はほとんど枯れていた。


 リュミエラが言った。


「……ここが、私たちの村です」


 村人たちがリュミエラを見ると、安堵と驚きの声が上がる。


「リュミエラ様、お戻りに……!」

「お怪我は……?」

「あの方は……?」


 村人の視線がユウタに向いた。

 その目には警戒と不安が混じっている。


 クロウが前に出て言う。


「神殿で倒れていた者だ。グールに襲われるところを保護した」


 村人のざわつきが広がる。

 神殿に入れる者はいないというのが、共通の常識らしい。


(完全に異世界だ……)


 そう確信した瞬間、ユウタの足元が軽く揺れた。


 めまい。

 疲労。

 異世界の空気が肺に馴染まない。


 リュミエラが肩を支える。


「大丈夫ですか!? すぐに休み場へ!」


 ユウタは思わず言った。


「……俺は何もできませんよ。

 ただの……会社員なんです」


 リュミエラは静かに首を振る。


「あなたが何者であろうと関係ありません。

 この世界では“生きている”だけで価値があります。

 ……どうか、あなたも、生きてください」


 その言葉に、胸が熱くなった。

 今まで誰にも言われたことのない種類の言葉だった。


 村の中から、子どもの泣き声。

 老人の咳。

 遠くで鍬の音。

 生きるための営みが、痛々しいほど弱々しい。


(……この村、本当にギリギリなんだな)


 自分には関係ないはず。

 だが――


 ユウタの目が、荒れ果てた畑と壊れた柵の配置を見た瞬間、

 脳が自動的に“プレイモード”へ切り替わった。


(水源が遠い……

 畑の配置が効率最悪……

 防衛ラインが分断されてる……

 労働力の配分も滅茶苦茶だ……)


 Civ脳が、勝手に地形を読み始めていた。


(これじゃ……三日ももたない)


 そう確信した。


 ユウタは静かに息をついた。


 ここで逃げるか。

 知らないふりをするか。

 それとも――


「ユウタさん?」


 リュミエラの声が背中から聞こえる。


 ユウタは振り向いた。


そして口が勝手に動いた。


「……この村、まずは水路を直したほうがいい。

 あと……畑を三分割して、柵を作り直すべきです」


 次の瞬間――


 リュミエラも、クロウも、クレアも、

 村人たちまでもが、驚愕の目でユウタを見た。


「な……何を……?」


 ユウタは言った。


「いえ……ただの“最初の手順”です。

 俺がやってたゲームなら……

 ここから文明を建て直すんです」


 その言葉には、自分でも驚くほど迷いがなかった。

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