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ゾンビで滅んだ異世界を、シヴィライゼーション知識で再建する  作者: マルコ


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第四章 第五話 前夜の準備と“第二覚醒”の予兆

 遺構攻略・第二段階。

 その作戦が決まったその日から、前線基地も村も、空気が変わった。


 もはや「様子を見る」段階ではない。

 王女を連れて心臓部へ殴り込む。

 その一点に向けて、全てが動き始めた。


◆リュミエラの装備


「姫様、鎧はこちらで……」


「重すぎます。動けません。」


 前線基地の簡易テントの中。

 リュミエラは兵士たちに囲まれ、装備の選定をしていた。


 ユウタも同席している。


「王女の護衛としては、全身鎧が理想ですが……」

 兵士が困った顔をする。


「制御区画まで歩く前に、体力が尽きます。」

 ユウタが首を振る。

「重装は論外です。」


「じゃあどうする?」

 クロウが腕を組む。


 ユウタは、テーブルに並べられた装備を眺めた。


 革鎧。

 簡易チェイン。

 強化布。

 短剣、護身用の杖。


「リュミエラさん。」

 ユウタは彼女を見る。


「基本は、“後衛の魔導士”扱いにします。

 前に出ることは絶対にありません。」


「ええ、そうして。」

 リュミエラは頷いた。


「なら――」

 ユウタは革鎧と、薄いチェインを手に取る。


「上半身は軽い革鎧の内側に、薄い鎖帷子。

 下は動きやすい布+膝だけ軽装。

 武器は……短剣ではなく“杖”ですね。」


「杖?」

 リュミエラが首をかしげる。


「はい。

 制御区画では、“遺構と魔術式で交信する役割”なので。

 殴り合うより、護符や術式を扱いやすい方がいいです。」


「なるほど……」


 クロウが少し笑った。


「姫様、立派な“後衛参謀”って感じになりますな。」


 リュミエラは微笑みながら、

 革鎧に腕を通した。


「思ってたより……軽いわ。」


「胸と腹だけは守れないと困りますから。」

 ユウタが言う。

「一撃で倒れない装備。その上で動けることを優先します。」


 クレアが布製の袋を持ってきた。


「姫様、この中に予備の護符と傷薬、それから“目を守る布”を入れておきました。」


「目を守る……?」


「制御区画の光は、普通の人には強すぎます。

 ユウタさんもさっき頭を抱えてたでしょう?」


「ええ……まぁ。」

 ユウタは苦笑する。


 リュミエラは袋を受け取り、胸元に下げた。


「ありがとう、クレア。

 これで少し安心ね。」


◆それぞれの前夜


 夕暮れ。

 前線基地に赤い光が差し込む頃。


 クロウは基地の片隅で槍を磨いていた。

 刃を眺めながら、ぽつりと呟く。


「……まさか、王女を連れて遺構の心臓へ行く日が来るとはな。」


 ガロンが隣で弓弦の張りを調整している。


「嫌なら断るか?」


「バカ言え。」

 クロウは鼻で笑う。


「むしろ、やっと“剣の振るい甲斐がある戦い”が来たんだ。

 それに――」


 遠くで、リュミエラとクレアが準備をしている姿が見える。


「あいつは絶対に行く。

 その背中を押すなら……

 俺の剣ぐらい、いくらでもくれてやるさ。」


 ガロンが少し笑う。


「やれやれ。

 あんたも結局、姫様には甘いな。」


「うるせぇ。」


 その頃、

 クレアはリュミエラの髪をまとめていた。


「ふふ、兵士みたいですね。」


「王女らしくないかしら?」

 リュミエラが笑う。


「今は“国の兵”の一人でいいと思います。」

 クレアは真剣な顔で言う。

「姫様が一緒なら、皆きっと強くなれる。」


 リュミエラは少し目を伏せた。


「……怖くないと言えば嘘になるわ。」


「はい。」

 クレアも正直に頷いた。

「私も怖いです。

 遺構も、ゾンビも、人型の兵器も。」


「それでも行く?」


「行きます。

 だって――

 それでも、皆と一緒に生きたいと思ったから。」


 クレアの言葉に、

 リュミエラは微笑んだ。


「……あなた、強いわね。」


「いえ、弱いから、“一緒に”じゃないと行けないだけです。」


 その言葉に、

 リュミエラの不安も少しだけ軽くなった。


◆ユウタの“内政視点”


 一方ユウタは、

 前線基地の端でひとり、

 板に“今後の文明プラン”を書き連ねていた。


 制御区画に行って、

 もし遺構の本起動を遅らせられても――

 それで終わりではない。


(遺構を止めても、この世界そのものは“ゾンビだらけ”だ)


 人口減少。

 農地縮小。

 交易の断絶。

 文明レベルの全体低下。


(俺たちの仕事は、遺構を止めることだけじゃない。

 ここから“文明を再建する”ことが、本当の目的だ)


 板の上に、いくつかの項目が並ぶ。


・水運の整備

・道路網の構築

・教育の拡張

・鍛冶技術の体系化

・魔導研究の“再利用”


(遺構の技術は、敵でありながら宝の山でもある)


 制御核を止められたなら――

 そこに眠る技術を、“人類の道具”に変えられる。


(そのためにも……

 ここで失敗するわけにはいかない)


 ユウタは、

 自分の手を見下ろした。


 元の世界で、

 何かを変えようとしても何も変わらなかった手。


 けれど今は違う。


(この世界では、俺の決断一つで、

 村が、国が、文明が変わる)


 その重さに、

 怖さと同時に、妙な高揚を覚えていた。


「ユウタさん。」


 背後からリュミエラの声がした。


「まだ起きていたのね。」


「はい。

 ちょっと……今後のことを考えていました。」


「遺構を止めた後のこと?」

 彼女は問い、

 ユウタの板を覗き込む。


「水運、道路、学校……

 こんな時に、先のことまで考えてるのね。」


「むしろ、こんな時だからです。」

 ユウタは笑う。


「目の前の危機をどうにかするだけなら、

 誰だって必死になります。

 でも、その先に何もなければ――

 また別の絶望が来るだけですから。」


 リュミエラは、しばらく黙って板を見つめ、

 ふっと微笑んだ。


「やっぱり、あなたは“参謀”なのね。」


「……そうですか?」


「ええ。

 私一人なら、きっと明日のことだけで頭がいっぱいだった。

 でもあなたは、

 “十年後の国の形”をもう考えている。」


 リュミエラは空を見上げた。

 黒い渦がまだ、遠くでうごめいている。


「その未来のために、

 明日、あそこへ行きましょう。」


 ユウタは、

 彼女の横顔を見ながら言った。


「はい。

 一緒に行きましょう。」


◆夜半――異常な鼓動


 夜が更け、

 前線基地の灯りが少しずつ落ちていく。


 見張りだけが持つ灯火が、

 点のように揺れていた。


 ユウタは寝台に横になりながら、

 眠りを拒むように目を閉じる。


(明日、制御区画にもう一度入る。

 リュミエラを連れて)


 考えれば考えるほど、

 胃がきゅっと縮むような緊張が襲ってくる。


「……怖いか。」


 隣の寝台から、クロウの声がした。


「もちろんです。」

 ユウタは苦笑する。

「怖くないわけがない。」


「なら、それでいい。」


「?」


「怖いのに進むからこそ、“覚悟”って言うんだ。」

 クロウは天井を眺めたまま言った。

「ビビってねぇ奴の方が、現場じゃよっぽど危ない。」


「……それは、確かに。」


「明日、怖くて足が震えたら――

 それでいい。

 その足を一歩前に出すために、俺たちがいる。」


 その言葉に、

 ユウタは少しだけ力が抜けた。


「ありがとうございます。」


「礼を言うのは、遺構をぶん殴ってからにしろ。」


 そんなやり取りを交わしながら、

 静かな時間が流れた――その時。


 ドクン……


 地面が揺れた。


「……っ!?」


 ユウタは飛び起きる。

 クロウも、ガロンも、クレアも同時に身を起こした。


「今の……」


「地震……じゃねぇな。」

 クロウが顔をしかめる。


 外から、見張りの叫び声が聞こえた。


「遺構が……!!」


 四人は前線基地から外へ飛び出す。


 森の奥。

 遺構の方向。


 黒い渦が、さらに巨大になっていた。


 空の半分ほどが、

 闇と赤い光で塗り潰されている。


 リュミエラもテントから飛び出してきた。


「これは……」


 ユウタは、

 耳の奥に響く音を聞き取った。


 さっきまでとは違う。

 鼓動の種類が変わっている。


 ドクン、ドクン、ドクン――


 そこに、別の音が混ざっていた。


 カチ……カチ……カチ……


(……覚醒シーケンスの音だ)


 制御核の情報が頭をよぎる。


『覚醒率:第二段階へ移行』

『人型兵装:調整中』


(間違いない。

 第二覚醒の準備段階 に入った)


 ユウタは歯を食いしばる。


「……時間がない。」


「どれくらい……?」

 リュミエラが問う。


「わかりません。」

 ユウタは正直に答えた。

「ただ――

 明日を逃せば、“完全体”が目覚める確率が跳ね上がる

 そう感じます。」


 クロウが槍の柄を強く握りしめる。


「なら、やるしかねぇな。」


 ガロンも頷く。


「明日、決める。」


 クレアが両手を胸の前で組む。


「皆で……絶対に戻ってきましょう。」


 リュミエラは

 巨大な黒い渦を見上げ、


 静かに言った。


「明日、あの心臓を止めるわ。」


 ユウタは、その横顔を見つめる。


(文明と遺構の戦いは――

 明日、本当に“ヤマ場”に入る)


 遺構の鼓動が、

 夜空を震わせていた。


 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……

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