第四章 第四話 帰還と“王女の決意”
制御区画を後にしてからの帰路は、
来た時よりも静かだった。
だが、その静けさは
“平穏”ではなく“監視されている沈黙”だった。
(Watcher-βが消えた後、
遺構全体の注視が増した気がする……)
ユウタは背中に刺さる視線のような違和感を振り払い、
前線基地へ通じる出口へ急いだ。
◆前線基地――仲間の顔
外殻層の亀裂を抜けた瞬間、
息が一気に軽くなった。
空気の“重さ”がまるで別世界だ。
「ユウタさん!!」
基地で待っていた兵士たちが駆け寄り、
続けて――
「戻ったのね!」
リュミエラの声が響いた。
彼女は、誰よりも早く走り寄り、
四人の姿を確かめるように目を見開いた。
「ああ……よかった……
皆……無事なのね……!」
クレアは胸に抱きつかれ、
少し涙ぐみながら笑う。
「姫様……大げさです……
でも嬉しいです……ほんとに。」
クロウが苦笑しながら頭を掻いた。
「まぁ、なんとか帰ってきた。」
ガロンも軽く手を振った。
「あの中は、さすがに地獄だったぜ。」
リュミエラの視線が、
最後にユウタで止まる。
安堵、心配、不安。
色んな色が混じっていた。
「……無事でいてくれて、本当に良かった。」
ユウタはゆっくり頷く。
「ただいま戻りました。
……報告があります。」
その声の硬さに、
リュミエラの表情が引き締まる。
「皆、少し離れて。」
彼女は周囲へ短く指示すると、
ユウタへ静かに言った。
「詳しく聞かせて。」
◆遺構の“真実”を語る
前線基地の奥にある簡易指揮所。
ユウタは、制御区画の記録、
拘束体の存在、
Watcher-βの監視、
そして遺構が持つ“文明殺戮の目的”を
一つずつ、丁寧に説明した。
語るほどに、
リュミエラの表情は蒼白になり、
そして次第に震え始める。
「……そんな……
魔導文明が……
そんな兵器を……?」
「はい。」
ユウタは淡々と言う。
「遺構は、外界文明を“敵”と判断すると
生体兵器を造り、
文明ごと破壊するためのシステムです。」
リュミエラは口元を押さえた。
「私たちは……
そんなものの上で……生きていたの……?」
「ええ。」
そして、核心に触れる。
「遺構の制御核には
本来、“王家の血”が必要です。」
リュミエラが大きく目を見開く。
「……王家……?」
「はい。
魔導文明の“統治権限”は
王族と同じ遺伝系統の者が持つよう
造られています。」
「それって……
まさか……」
「あなたです、リュミエラさん。」
沈黙が落ちた。
リュミエラは胸の前で両手を握り、
かすれた声で言う。
「……私が、
あの遺構を止められる……?」
「可能性があります。」
ユウタは真剣な目で言う。
「ただし――
あなたが制御区画へ行けば、
遺構は“最高警戒状態”になります。」
ガロンが渋い顔で言った。
「つまり危険は――桁違いってことだ。」
「はい。」
ユウタも頷く。
「制御区画には“完全体の前段階”が並んでいます。
一体起動しただけであれほどの強さ……
王女が入った瞬間、
遺構は“最終段階”を起動させる可能性があります。」
クロウが腕を組み、低く言う。
「……行かせられねぇよ、普通に考えれば。」
クレアも唇を震わせる。
「姫様の身が危険すぎます……!」
しかし――
リュミエラは迷わなかった。
ほんの一瞬だけ、
目を閉じて息を整え――
そして顔を上げた。
◆王女の決意
「行くわ。」
その声に、
指揮所の空気が凍った。
「姫様……!?」
クレアが震える。
「無茶だ!!」
クロウが叫ぶ。
だがリュミエラは穏やかに微笑んだ。
「あなたたちが命をかけて
ここまで道を切り開いてくれた。
国を守るために……
自分より大きなもののために……」
ゆっくり、
ユウタの方へ歩み寄る。
「なら、私も同じ場所に立つわ。」
その目は強かった。
恐怖を抱えながらも、
その先にあるものをまっすぐ見る、
王族の目だった。
「私にしかできないことがあるなら、
私は……その役目から逃げない。」
ユウタは息を飲んだ。
(この人は……
本物の“王”だ)
言葉が出ず、
ただ拳を握りしめる。
クロウが悔しそうに頭を掻く。
「……姫様……
あんた、本気なんだな……」
「ええ。」
リュミエラは迷いなく頷く。
「王家の血を持つ者として、
私が行くべき場所でしょう?」
ガロンがため息をつき、
肩を落とした。
「……わかったよ。
なら俺たちが全力で守る。」
クレアは泣きそうな顔で言った。
「絶対……無事で戻ってきてください……!」
リュミエラは優しく彼女の頭を撫でた。
「ありがとう、クレア。
でも大丈夫よ。
だって――」
視線がユウタへ向く。
「ユウタさんが、私を導いてくれるんでしょう?」
その言葉に、
ユウタの胸が熱くなる。
「……はい。
必ず……
制御核までお送りします。」
リュミエラは小さく頷いた。
「信じてるわ、ユウタさん。」
(……この国は
本当に、この人と一緒に未来へ進める)
その確信が、
静かに胸に灯る。
◆遺構攻略“第二段階”の準備へ
ユウタは深呼吸し、
指揮所の中央にある簡易地図台を叩く。
「作戦を立てます。
リュミエラさんを制御区画まで連れていき、
正式な“管理者権限”で遺構を停止する。」
クロウ、ガロン、クレアが姿勢を正す。
「これが――
遺構攻略・第二段階(フェーズ2) です。」
リュミエラが言う。
「必ず成功させましょう。」
その言葉を合図に、
前線基地の空気が一変した。
緊張でも恐怖でもなく――
“覚悟”の色。
(行くぞ……
遺構の心臓部へ)
(これが、この国の未来を決める戦いだ)




