第三章 第七話 三日間の内政ターン、そして“中層へ”
新型ゾンビを撃退した翌朝。
村は、いや――
国は、まるで戦争前夜の都市のように動き始めた。
誰もが知っている。
次に来るのは“試験個体”ではなく本番だ。
なら、三日で文明を一段引き上げるしかない。
ユウタは夜明け前、広場に主要班を集めた。
「三日間、全部やります。
今日を“ターン1”、明日“ターン2”、明後日“ターン3”。
ターン3の夜明けで、遺構中層へ出発。」
村人たちは息を吐き、頷いた。
「ターンとか、相変わらず意味わかんねぇが……」
クロウが笑う。
「要は“三日で仕上げる”ってことだな?」
「そうです。」
リュミエラが国の旗印として前に立つ。
「皆。
これは村の作業ではありません。
国家の戦争準備です。
生き残るために、私たちは“文明を進める”。」
その声が、全員の背を押した。
◆ターン1:武装・生産・防衛の“基礎上げ”
鍛冶場は朝から火の海だった。
「短剣、まず十本!」
「槍頭は二十!」
「軽盾の木枠、俺が削る!」
クロウが炉の前で汗を飛ばす。
鉄は貴重だ。
しかし村には“遺構由来の鉄屑”が転がっている場所がある。
ユウタが以前見つけておいた、焼けた金属片の山だ。
(あれは魔導文明の廃材。
今は“資源”として使う)
「ユウタ、これ……
驚くほど質がいいぞ。折れにくい」
「魔導文明の合金の可能性があります。
マス生産向きです。」
(文明ブースト、入ったな)
同時に、防衛班は二段塔の増築へ。
東の主塔の横に、小型の副塔を立てる。
上段は弓、下段は投石。
さらに塔同士を縄橋で繋ぎ、移動効率を上げる。
(視界・火力・機動の三つを同時に上げる。
都市防衛の鉄則)
夜までに、二段塔が三基立った。
見張りの射線が村全体に重なり、
外周監視線は“線”から“網”へ変わった。
◆ターン2:前線基地と“兵站の確立”
二日目。
森へ向かう中道の途中、遺構から300m手前。
そこに“前線基地”が作られていく。
丸太の囲い。
簡易見張り台。
物資庫。
焚火台。
負傷者用の寝床。
そして――退避用の裏道。
「退避ルートはここ!」
ユウタが地面に矢印を引く。
「遺構から追われた時、絶対に“一本道で逃げない”。
枝道を二本、合流点を一つ、伏せ道を一本。」
ガロンが頷く。
「了解。
森を知る俺が道を切る。」
みるみるうちに、
森の中に“文明の痕跡”が刻まれていく。
(文明は、前線にこそ必要だ)
前線基地が完成した夕暮れ、
ユウタはそこで立ち止まり、森の奥を見た。
遺構の黒い渦はまだ空に残っている。
昨日より赤い。
鼓動が、速い。
ドクン……ドクン……ドクン……
(もう時間がない)
◆ターン3:教育と組織化――“国家の形が固まる”
三日目。
ユウタが求めたのは、武器でも壁でもない。
“知識の底上げ” だった。
遺構を止めるには、
中層の制御装置を読めなければならない。
だから――
「子どもと若者を集めてください。
短時間でいい、文字と数の基礎を教えます。」
「え、今そんなことを?」
村人が戸惑う。
「今やるんです。」
ユウタは木板に記号を並べた。
「これは“数”。
これは“単位”。
遺構に刻まれている制御文字は、
たぶん“数学の型”で動いてます。
俺一人で読むのは限界がある。
皆で“読み解く国家”にします。」
リュミエラが強く頷いた。
「国は、武力だけでなく知で守る。
ユウタさんのやり方は正しいわ。」
クレアが笑って言う。
「私も薬草の“分量”を教える。
数字は医療にも必要だもの。」
若者たちの目が変わっていく。
(この世界で“学ぶこと”は、生きる武器だ)
夕方までに、
簡単な数字の読み書きができる者が十数人に増えた。
村は――
国は、
確実に“中世前期の土台”へ足をかけた。
◆出発前夜――装備確認
前線基地。
遺構中層潜入隊は四人。
前衛:クロウ
近衛:ガロン
医療:クレア
指揮・地形解析:ユウタ
新しい短剣、槍、軽盾。
火矢、油壺、縄、石灰、薬草。
そして、簡易の“汚染防護布”。
(準備は……整った)
ユウタが最後に確認しようとした時、
リュミエラが前線基地まで来ていた。
「来てくださったんですか。」
「当然よ。
あなたたちを送り出すのは、王女の役目。」
彼女はユウタに小さな布袋を渡す。
「これは……?」
「私の母が使っていた護符。
魔導文明の文字が刻まれている。
もしかしたら、遺構内部で役に立つかもしれないわ。」
ユウタは少し驚いた。
「大事なものじゃ……」
「国の未来の方が大事よ。」
まっすぐな瞳。
ユウタは深く頭を下げた。
「必ず戻ります。
……遺構を止める手掛かりを持って。」
「お願いね。
あなたが“文明を導く参謀”でいてくれる限り、
私はこの国を信じられる。」
その言葉が、ユウタの胸にまっすぐ刺さった。
(背負ってるな。
でも、背負う価値がある)
◆そして――第一覚醒の“音”
夜が深まり、前線基地が静まり返った頃。
森の奥で、
ありえない音がした。
ゴ……ゴゴゴゴ……
地鳴りのような低い轟き。
しかし地震ではない。
音が“縦に響いている”。
まるで巨大な塔が、内部からせり上がるような。
ユウタ、クロウ、ガロン、クレアが同時に外へ飛び出した。
遺構の方向。
黒い渦が、空を押し広げる。
中心の赤い光が、
ゆっくりと“裂け目”のように伸びていく。
次の瞬間。
ドォン――ッ!!
鼓動が爆発的に増幅した。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!
まるで――
遺構が“心臓の拍動を取り戻した”みたいに。
クロウが歯を食いしばる。
「……来やがったな。“第一覚醒”だ……!」
ガロンが矢を握りしめる。
「もう……待ってくれねぇってことか。」
クレアが震えた声で祈る。
「お願い……誰も死なないで……」
ユウタは、遺構の方角を睨んだ。
(覚醒が進んだ。
第二段階じゃない、第一覚醒の完了)
(つまり……
“起動核”が本格稼働に入った)
時間は、もう無い。
ユウタは四人に言った。
「明日の夜明け、出発します。
中層へ。制御区画へ。
“覚醒の理由”を掴んで止める。」
クロウが頷く。
「やるぞ。
遺構がどんな禁忌兵器だろうが、
文明の力で叩き潰す。」
ガロンも、クレアも頷いた。
ユウタは深く息を吸い、
胸の中で“次のターン”を切った。
(第4話へ続く――
遺構中層攻略戦、開始)
黒い渦の下で、
遺構は確かに“目覚めきった”音を響かせていた。




