第三章 第五話 遺構の正体と“禁忌兵器”の片鱗
遺構初潜入から一夜。
村は早朝から活気に満ちていた――
だが、それは昨日までとは違う熱だった。
“何かが村へ迫っている”
その恐怖と、
“遺構へ挑む”という覚悟が混ざりあった
静かな、しかし強い緊張の熱。
ユウタは鍛冶場の前で腰を下ろし、
手元の板へ遺構内部の構造を描いていた。
(情報をまとめよう。
あの球体の存在。
溶解液。
脈動。
赤い点――“目”。
そして、施設全体の魔力の流れ)
クロウの槍の鍛造音が、カンカンと響く。
ガロンは短弓を手入れし、
クレアは薬草を煮詰めている。
(遺構を“止める”ためには、
まず理解しないといけない)
ユウタは深い息を吐き、
板に三つの文字を書く。
【禁忌兵器】
リュミエラが後ろに立ち、板を覗き込んだ。
「……禁忌兵器?」
「はい。
遺構内部の構造を見た限り、
あれは“生活施設”ではありません。」
「じゃあ……何なのです?」
「“生成する装置”です。」
リュミエラの瞳が揺れる。
「……生成……?」
「はい。
物質、あるいは生命……
もしくは生命に近い何かを。」
あの球体のひび割れ、溶解液の漏出、
そして内部から覗く赤い点の“光”。
(あれは完全に、生物の目だ)
ユウタは続ける。
「魔導文明は、
“魔力を使い生命に近い存在を作る技術”を
研究していたはずです。」
「文献に……ありました。」
リュミエラがか細い声で言う。
「千年前、魔導文明は繁栄しました。
しかし終盤には“神域級の実験”が行われ、
“禁忌”として封じられた……」
(それだ)
「リュミエラさん、その文献……
『どんな禁忌』と書いてありました?」
「生命の……模倣です。
“魂なき器”に、魔力を流し込んで動かし……
戦争に使った、と。」
ユウタの背筋が冷たくなる。
(まさか……
ゾンビ化現象と繋がっている……?)
◆ゾンビ――それは失敗作の“残骸”か?
ユウタの脳が高速で回り始める。
・ゾンビは魔力に反応する
・進化種は霧の濃い場所で現れる
・遺構の“脈動”と進化種の出現タイミングが一致
・汚染は生命を“腐らせ”、別の形に変える
(もしあの遺構が……
本来は“魔力生体兵器”を作る施設だったとしたら?)
「リュミエラさん。」
「はい……?」
「ゾンビは“魔導文明の生体実験の残滓”かもしれません。」
「……!!」
リュミエラが息を呑む。
クロウ、ガロン、クレアまでもが手を止め、こちらを見た。
「つまり……
ゾンビは外部から来た魔物ではなく、
千年前の文明が生み出した“兵器の失敗作” です。」
衝撃が村全体を揺らした。
「じゃ……じゃあ……!」
クレアが震える声で言う。
「進化種は……“成功作”なの……?」
「……その可能性があります。」
(進化種の動き、判断力、強靭さは
自然のゾンビとはかけ離れていた)
ガロンが舌打ちした。
「最悪じゃねぇか……
千年前の化け物工場が、
今また“動いてる”ってことだろ?」
「はい。」
ユウタは頷いた。
「そして――
遺構は、文明の再発展に反応して覚醒している。
これは偶然じゃありません。」
「どうして文明で反応するの……?」
リュミエラが問う。
「簡単です。」
ユウタは板に書く。
【魔導文明は“文明の兆候”を感知し、
自動的に兵器を起動する仕組みを持っていた。】
「……!」
クロウの顔が歪む。
「つまり……
昔の戦争の“残り物”が、
今の文明発展を“敵の復活”と誤認してるわけか……?」
「はい。
自律兵器の典型的な暴走例です。」
(戦争/復旧/戦争/復旧……
そのループの中で魔導文明は壊れたのかもしれない)
◆禁忌兵器を止める唯一の方法
「遺構を止めるには、どうすれば?」
リュミエラが真剣な目で問う。
ユウタはゆっくり言った。
「内部の“制御層”に到達するしかありません。」
「……制御層……?」
「昨日入ったのは“外殻層”。
あれはただの支部です。
遺構はもっと深い。」
クロウが腕を組む。
「じゃあ、次の潜入で中層へ……?」
「はい。
そこに、遺構を止めるための“鍵”があるはず。」
ユウタは地面に遺構の断面図を描く。
地上 ──【外殻層】(昨日潜入)
↓
【中層:制御区画】
↓
【中枢:起動核】
「俺たちは次に、“制御区画”を目指します。」
ガロンが頷いた。
「了解した。
中層の警備は厳重だろうな……」
「はい。
恐らく外殻より“動いてるもの”が多い。」
クレアが顔を青くする。
「……動いてるって……?」
「昨日見た“赤い目”。
あれはたぶん監視個体です。」
「か……監視……!?
じゃあ遺構は、私たちを“見てた”の……?」
「はい。」
広場は凍りつく。
◆そして“恐ろしい可能性”
ユウタは喉を鳴らし、
言うべきか迷う。
(でも……伝えなければいけない)
「……ひとつ、最悪の可能性があります。」
リュミエラが息を呑む。
「な、何……ですか……?」
ユウタは小さく呟く。
「遺構は――
外界文明の“文明レベル”を観測して進化する
可能性があります。」
「文明……レベル……?」
「観測……?」
村人たちは理解が追いついていない。
だがユウタは続ける。
「つまり、
俺たちが文明を上げれば上げるほど、
遺構も“自分を強化する”ということです。」
広場の空気が完全に止まった。
「な……なにそれ……」
「そんなの、勝てるのか……?」
「文明を上げるほど敵が強くなるなんて……!」
恐怖と絶望を帯びた声が飛び交う。
しかしユウタは強く言う。
「勝てます。」
沈黙が落ちる。
(ここで“折れる気配”を見せてはならない)
ユウタは核心を告げた。
「文明を上げると敵も強化される……
でもこれは“文明が敵を加速させる”んじゃない。」
「……じゃあ?」
リュミエラが尋ねる。
「文明を上げないと、
遺構の強化にまったく追いつけないというだけです。」
その瞬間、村人たちの表情が変わった。
「……つまり……」
「文明を止めれば“遺構の一方的な拡大”になる……?」
「だったら……進むしかねぇじゃないか……」
クロウが前に出た。
「そういうことだ。
ユウタの言った通り、
止まっても滅ぶだけなら――」
拳を握り、
「進みながら戦うしかない。
中世だろうが近世だろうが、登りきって止める。」
緊張の中で、
村人たちの目に勇気が戻っていく。
◆文明を上げる:次の“内政ターン”
ユウタは深呼吸し、皆へ宣言した。
「これより――
文明レベル・中世前期へ向けての準備 に入ります。」
「お、おおお……!」
「本当に国になるんだ……!」
村人がざわつく。
「具体的には――」
【中世前期へのステップ】
●武器:短剣・槍・軽盾の量産
●防衛:二段式見張り塔の増築
●探索:前線基地の設営
●生産:鍛冶場の拡張
●農耕:汚染地の封鎖と土壌浄化
●教育:文字・数学の基礎教育(制御装置理解のため)
「これらを三日で行います。」
「さん、三日で!?」
村人が驚愕する。
「無茶じゃねぇか……」
「でも……今やらなきゃ……!」
リュミエラが前に出た。
「私も手伝います。
この国を……ユウタさんと皆で守るために。」
村人たちの士気が大きく揺れ動き、
やがて一斉に立ち上がった。
「やるぞ!!」
「国を作るんだ!!」
「遺構には絶対負けねぇ!!」
その声は、
村ではなく、国の始まりの声 だった。
◆そして、遺構は“次の段階”に入る
その夜。
ユウタが寝床へ向かおうとした瞬間――
森の奥から、
低く重い音が響いた。
ドオォン……!!
「……っ!!」
ユウタは飛び起きる。
外へ走り出ると、村人たちも空を見上げていた。
遺構上空に――
黒い霧が渦を巻く巨大な“円” が現れていた。
渦の中心に、真紅の光点が輝く。
「な、なんだあれ……!?」
「空が……裂けてる……!?」
ユウタは震える唇で言った。
「……遺構の“第二段階起動”……」
(急がなきゃ間に合わない……
本当に、“何かが孵化する”)
胸の奥に熱い決意が灯る。
「――三日後、遺構中層へ潜る。」
文明と遺構の戦いは、
いよいよ“本戦”へ突入する。




