第三章 第三話 遺構内部へ初潜入
外周監視線がほぼ一周した翌朝。
ユウタは、朝霧を割くように歩きながら、森の入り口へ向かった。
今日は――
遺構初潜入の日 だ。
「集まっているな。」
クロウが腕を組み、ガロンと共に立っていた。
二人とも通常より軽装だ。
重い鎧では“音”が出るため、軽い革装備に統一した。
そして、もう一人。
「……遺構調査隊、医療担当のクレアです。
ユウタさんが必要と判断したので……ついてきました。」
クレアは肩をすくめていたが、瞳は恐怖と覚悟の両方で揺れていた。
ユウタは言った。
「医療担当は絶対に必要です。
汚染の可能性があるので、怪我の即応処置も大事です。」
クレアが小さく笑う。
「……医療っていっても、私は薬草の知識しかないけどね。」
「十分です。むしろ薬草の方が使える世界です。」
クロウが確認するように言った。
「今回の潜入は“前半確認”だ。
奥には行かない。
内部の構造と危険度の把握――
それだけが目的だ。」
「はい。」
ユウタは頷く。
(本格的な攻略の前に、一度“地形把握”が必要だ)
◆森の奥――静まり返る遺構
四人が森へ足を踏み入れると、
昨日よりも空気が重くなっていることに気付いた。
「……霧が濃いな。」
ガロンが矢をつがえたまま呟く。
「音が……全くしない。」
クレアが震える声で言う。
鳥もいない。
虫もいない。
風の音すら消えている。
遺構が近づくと、
地面が“黒く”なっていく。
「昨日より……黒い範囲が広がってる。」
ユウタが呟いた。
クロウは歯を食いしばる。
「……村へ霧が来たのも、これが原因か。」
遺構の前に立つと、
四人は自然と息を呑んだ。
(昨日より……“生きてる”)
壁に走るひびの隙間から、
黒い靄がゆっくり漏れ出している。
そして――
耳の奥で、低い鼓動音が響いていた。
ドクン。
ドクン。
ユウタは振り返る。
「行きます。」
三人が頷いた。
◆亀裂から内部へ
「俺が先に入る。」
クロウが剣を抜く。
「いえ、クロウさんは防衛担当。
先頭は俺が行きます。」
「何……?」
「狭い空間では、剣より“視界分析”が重要です。
罠や構造物を確認しながら進むのは俺が適任です。」
クロウは少しの沈黙の後、低く頷いた。
「……頼む。」
ユウタは狭い亀裂へ身体を滑り込ませた。
中は暗い。
だが、完全な闇ではない。
薄く青白い光が、壁際から漏れている。
(この光……
自然光じゃない。
魔導文明の“光源装置”の残骸?)
ユウタはほんの少し感動したが、すぐに気持ちを切り替えた。
「段差あります。足元注意。」
三人が続く。
内部の空気は、外より冷たかった。
同時に、鉄と魔力と……ほんのわずかな血の匂いが混ざっていた。
(これは……“生物”の匂いじゃない)
ユウタは違和感を覚えた。
◆遺構内部の“構造”
亀裂を抜けると、そこは大きな広間だった。
「……広い……」
クレアが息を呑む。
天井は高く、柱がいくつも立っている。
だが、その柱は朽ちていない。
逆に、壁の方が崩れかけている。
「柱が健在……?」
ユウタは柱を触った。
冷たい。
石だが密度が異常に高い。
(この柱……“重力支持”ではない。
魔力の流れを制御する“管”だ。)
「クロウさん……壁を見てください。」
「……ああ。
文字が刻まれているな。」
壁には、古代魔導言語と思しき文字列が続いていた。
なんらかの制御装置か。
「読めるか?」
クロウが訊ねる。
「……知らない言語です。
でも、構造から推測できます。」
ユウタは現実世界の“工場設備”を思い出しながら言った。
「これは……“制御系統”です。
施設の魔力や力を、どこかへ流すための。)
ガロンが警戒するように 歩き回った。
「中心……広場みたいになっているぞ。」
「え?」
ユウタは中央に歩く。
(何かある……)
薄い青の光がゆらゆらと揺れる。
そして――
視界に“ひとつの装置”が浮かび上がった。
◆中央装置
「……これ、は……」
円形の台座。
直径は2メートルほど。
中心に、黒い球体のようなものが埋め込まれている。
その球体が――
鼓動していた。
ドクン。
ドクン。
リズムは遅いが、確かに“生き物”のように脈打っている。
クレアが唇を震わせる。
「……魔導文明って……
こんな“生き物みたいな機械”を作っていたの……?」
ガロンが後退する。
今にも矢を放ちそうだ。
「近づきすぎるな……!
なんだこれ……!」
クロウがユウタを制止しようとする。
「危険だ、やめろユウタ!」
だがユウタは、台座から目を離せなかった。
(これ……
施設の中枢じゃない。)
(“起動装置”だ。)
ユウタの中で、文明知識が結びつく。
遺構は死んでいない。
休眠していた機械が、外界の文明発展に反応して目覚め始めている。
そして――
球体に触れずとも、
“情報”が流れ込んできた。
黒い靄。
変異種。
進化反応。
汚染。
魔力系統。
そして――
“封印解除まで○○%”
(……プロセスバー……!?)
ユウタは息を呑んだ。
(これ……
何かを作ってる……!
いや、“生み出してる”!?)
脳がシミュレーションを始める。
変異種が村に現れ始めたのは最近。
遺構の霧も最近拡大。
脈動が強まったのも最近。
全部“連動”している。
「クロウさん……
これは……“何かの孵化装置”かもしれません。」
「な……何を生み出すってんだ……!?」
クロウが叫ぶ。
その時だった。
球体の表面が――
ひび割れた。
クレアが悲鳴を上げる。
「きゃっ!!」
ガロンが矢をつがえる。
「来るぞッ……!」
ユウタは叫んだ。
「退いて!!
ここは危険!! 一旦出口へ!!」
三人を後ろへ押しやりながら、ユウタは最後尾へ下がる。
球体のひびから、
黒い液体がじわりと漏れ出した。
ポタ……ポタ……
滴った黒い液は、石床を“溶かした”。
「やっぱり……!
これが汚染の源だ……!」
クロウが叫ぶ。
「逃げろ!!
今は戦う時じゃない!!」
三人は亀裂へと走る。
最後にユウタが振り返ると――
球体の内部から、
四つの光る“赤い点”
が、ゆっくりと浮かび上がっていた。
それはまるで――
目 のようだった。
◆外へ脱出
全員が亀裂を抜け、森へ飛び出す。
「はぁ……はぁ……!」
クレアが膝をつく。
クロウも額から汗を流していた。
ガロンは震える声で言った。
「やべぇ……
本当に……“生きてる施設”だった……!」
ユウタは黙ったまま、遺構の方を見つめた。
鼓動は――
先ほどよりわずかに強くなっている。
(遺構は……
文明発展に反応して“覚醒を加速”している)
(村が国として動き始めたそのタイミングで、
遺構も“次の段階”を踏み始めた……)
リュミエラに伝えなければならない。
いや、村中に。
(次は……
本格的な防衛線が必要になる)
(そして――
遺構内部の“核心”に触れる必要がある)
ユウタは拳を握った。
「……帰ろう。
“準備する”。
ここから先は、本当に世界の命運がかかる。」
三人は黙って頷いた。
(始まる……
文明と遺構の、本当の競争が)
森の奥から、
鼓動が夜気を震わせた。
ドクン。
ドクン。
遺構は――目覚め始めている。




