第二章 第八話 帰還、そして“文明レベルアップ”宣言
三人が村へ戻ったのは、夕日が森の影に沈みかけた頃だった。
リュミエラは広場で待ち続けていたらしく、
ユウタたちの姿が見えると、駆け寄ってきた。
「ユウタさん!!
本当に……本当に無事で……!」
息を切らし、涙をにじませるその表情。
彼女がどれほど心配していたかが伝わる。
「大丈夫です。
ただ……話すことが山ほどあります。」
「っ……!」
リュミエラは表情を引き締め、すぐに言った。
「皆を広場に集めます。
緊急会議を開きましょう。」
◆
広場に村人が全員集まった。
夜襲の後で疲れているにも関わらず、
誰一人として欠けていなかった。
その理由は――
皆が理解していたからだ。
(村は今、“二つの岐路”に立っている)
ユウタは深呼吸し、前に立つ。
「まず結論を言います。」
沈黙が落ちる。
「俺たちが見つけたものは――
森の奥にある“遺構”です。」
ざわ……!!
村人が一斉にざわめいた。
「遺構……!?
この辺りにそんなものが……?」
「魔導文明の遺跡……?」
クロウが補足する。
「石造りの巨大な建造物だ。
古いが……一部は“稼働している”。
内部から脈動があった。」
村人は息を呑んだ。
「稼働……?」
「生きている……のか?」
ユウタははっきりと告げた。
「遺構は……
“何かを生み出している”可能性があります。」
その言葉に、村の空気が凍りついた。
クレアが震える声で言う。
「ま、まさか……
進化種は……その遺構から……?」
「その可能性が高いです。」
ユウタは頷く。
「昨日の進化種の血……“黒い血”は、遺構から漏れていた痕跡と同じ。
遺構が“何らかのエネルギー”か“魔力”か“汚染”か……
そういうものを周囲にばら撒いている。」
「じゃ、じゃあ……
森から湧いたんじゃないんですね……?」
農地班の若者が震える。
「はい。
森が危険なのではなく、遺構が危険 なんです。」
リュミエラは目を閉じ、深く息を吐いた。
「……世界を壊したのは、
外から来た“魔物”ではなく、
“内側に残ったもの”だった……?」
その言葉には絶望と理解が混ざっていた。
◆
ユウタは地面に描いた村の地図を指し示す。
「ここからが本題です。」
「本題……?」
クロウが眉をひそめる。
「はい。
俺たちが今までやってきたのは“村の維持”でした。
水を通し、畑を整え、防衛線を作る。
これはすべて“古代レベルの文明”です。」
村人たちが首を傾げる。
「古代……?」
「ユウタさんの世界には“文明の段階”があるのですか?」
リュミエラが訊ねる。
「あります。
そしてこの村は、
今まさに“古代”から“古典”へ移る時期にあります。」
ユウタの目が鋭くなった。
「理由は二つ。」
◆【1】敵の進化スピードが上がった
「進化種が四体いたのは異常です。
遺構が稼働しているなら、
これからもっと“変異個体”が生まれます。」
「そんな……!」
「村が持たねぇぞ……!」
◆【2】村の規模が、“次の段階”を要求し始めている
「水路と三圃制が整いつつある。
防衛線も改善が進んでいる。
人口が増えれば、今の仕組みでは足りなくなります。」
「つまり……もっと発展しないといけないのですね」
リュミエラが静かに言った。
「はい。」
ユウタは地図の横に、いくつもの項目を書き始める。
⭐【文明レベルアップ計画:古代→古典】
① 新しい見張り塔の増築
・高さ5m級
・二段構造
・投石装置
・警報用の鐘
② 鍛冶場の設立
・鉄器の生産
・武器の質が向上する
・柵も強化できる
③ 小規模の“道”の敷設
・村と畑、防衛線を結ぶ“道路”
・移動効率が30%以上上がる
④ 遺構周辺の監視線構築
・外周を囲う偵察ライン
・遺構から何か出てきた瞬間にわかる
⑤ 専門役職の誕生
・“防衛官”
・“水路管理官”
・“畑の監督官”
村人たちは驚愕していた。
「官……? 役職……?」
「そんな本格的に……?」
クロウはボソッと呟いた。
「ユウタ……これは、村ではなく……
“国家”だぞ」
「はい。
俺たちは国家を作る必要があります。」
村人が息を呑んだ。
「こ、国家……?」
「俺たちが……?」
リュミエラは静かに前へ出た。
「……ユウタさん。
あなたは今、“国家を作りたい”と言いましたね?」
「はい。」
「どうして……?」
ユウタは少しだけ迷ったが、
自分の胸の奥から出た言葉をそのまま言った。
「村を守るためです。
村では……遺構に勝てません。
でも、国家なら勝てます。」
リュミエラの目が揺れた。
「……あなたは……
私が“国の再建を夢見ている”ことを知って……?」
「違います。」
ユウタは首を振る。
「あなたがどう思っていようと、関係ありません。
この村の状況が、自然と“国家”を要求しているんです。」
リュミエラは驚いたあと、
ゆっくりと微笑んだ。
「……ユウタさん。
あなたは……やはり“王の器”なのですね。」
「俺は王じゃない。
ただの……内政オタクです。」
村人から、くすりと笑い声が漏れた。
◆
ユウタは最後に強い声で宣言した。
「次のターンの目標は――
文明のレベルアップ(古典時代入り) です。」
「おおおお……!」
「文明って……俺たちにできるのか……?」
「でも……ユウタさんが言うなら……!」
村人の士気が、昨日とは比較にならないほど高まっていく。
クロウも笑った。
「よし……!
だったら鍛冶場は俺が担当する!
村に鉄器を戻してやる!」
「水路は私が見ます!」
クレアも手を挙げた。
「畑は任せてくれ!
三圃制、覚えたぞ!」
バルドが胸を叩く。
リュミエラはユウタを見つめ、静かに言った。
「ユウタさん。
あなたがいてくれて、本当に良かった。
私たちは……前へ進めます。」
「はい。
ここからが、本当のスタートです。」
◆
会議が終わり、村人たちが散っていく。
ユウタは夜空を見上げた。
(遺構……
あれはまだ“目覚めかけ”だ)
(急がないと……
本当に世界全体が滅ぶ)
その時、
――ドクン。
遠くの森の奥から、
再び“脈動”が響いた。
(急ごう。
次のターンが勝負だ)
ユウタは拳を握りしめた。
文明は――
ここから“古典”へ進む。




