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ゾンビで滅んだ異世界を、シヴィライゼーション知識で再建する  作者: マルコ


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第二章 第五章 後処理と“異常な血痕”

夜明け前。

 戦いが終わった村には、疲労と安堵が入り混じった静寂があった。


 迎撃場では、防衛班や村人たちが後処理を始めていた。

 グールの死体を柵の外へ運び出し、焼却の準備をする。

 折れた槍の補修。

 崩れた柵の応急修理。


 まだ薄暗い空の下で、皆が無言で働いていた。

 生き残れたことへの喜びと、昨夜の死闘の恐怖と――

 その両方を抱えたまま。


 ユウタは迎撃場の中央でしゃがみこみ、地面を見つめていた。


(この落とし溝、もう少し角度をつけた方がいいな……

 次に来る個体が、同じ動きをするとは限らない)


 彼の頭の中は、すでに“次のターン”へ切り替わっていた。


「ユウタさん」


 背後から静かな声がした。


 振り向くと、リュミエラがそこにいた。

 髪は乱れ、目は赤く腫れている。

 それでも、気品と強さを纏っていた。


「昨夜は……本当にありがとう。

 あなたがいなければ……この村は……」


「皆が戦ったからです。

 俺ひとりじゃ、何もできません」


 そう言いながらも、胸の奥が熱くなる。

 生まれて初めて、本当の意味で“誰かの役に立った”という実感があった。



 クロウが進化種の死体のひとつを前に、険しい表情で立っていた。


「ユウタ、来てくれ」


「どうしたんです?」


「……これを見ろ」


 クロウの指差す先には、進化種の身体。

 焼け焦げ、肉が崩れ落ちている。

 だが異様なのは――


 血の色 だった。


「……黒い?」


「グールの血は、通常は腐った赤褐色だ。

 だがこれは……黒に近い。

 しかも粘り気が異常に強い」


 クロウは木の枝で血を少しすくい上げた。

 糸を引くようにねばつき、地面へ落ちても形が崩れない。


 ユウタの脳に電流が走る。


(これは……

 ゲームの“変異イベント”の血じゃないか……?)


 ゾンビが“環境”や“魔力”に適応し、

 毒・耐久・再生特化など、別系統へ進化する時に見られる特徴。


 クレアが震える声で言った。


「進化種って……ただの強いグールじゃなかったの……?」


 ユウタは地面の血をじっと観察した。


(匂い……金属っぽい。

 粘度……高すぎる。

 就労者の安全衛生研修で見た“重金属汚染のスラッジ”に似ている)


「クロウさん。

 この近くの森……“何か”が落ちてませんでしたか?

 巨大な魔物とか、瘴気の泉とか……

 あるいは……“隕石”とか」


 クロウは目を見開いた。


「……王都陥落の半年ほど前、

 この地方に“黒い光の柱”が落ちたという噂があった。

 だが詳細を知る者はいない」


「黒い光……」


(ゲームなら、それは“イベントトリガー”だ)


 ユウタの背筋に冷気が走る。


(つまり、この世界のゾンビ化現象は自然発生じゃなく、

 “何かの原因”によって強制進化が起きている可能性がある)


「……これ、普通のゾンビじゃありません。

 “進化の先”があります」


 村人たちの顔色が一気に青ざめた。


「もっと……強いのが出るってことか……?」

「昨夜ので限界じゃないのか……!?」


 リュミエラが唇を噛む。


「ユウタさん……

 私たちは、本当に勝てるのですか……?」


 彼女の瞳は恐怖に揺れていた。

 だが、逃げるような目ではない。

 “現実を知ろう”とする強い意志がそこにあった。


 ユウタはゆっくりと言った。


「勝てます。

 ただし、“村を文明レベルごと上げる”必要があります」


「文明……?」


「はい。

 今の防衛線は“古代レベル”。

 相手が進化するなら、

 こちらも 古代 → 古典 → 中世 と段階を進める必要があるんです」


 クロウが眉をひそめる。


「段階……?」


「塔を増やす。

 火攻めの技術を上げる。

 武器を改良する。

 地形をいじる。

 農業を底上げして人口を増やし、労働力を増やす。

 そして……“森の探索”を行う」


 一同が息を呑む。


「森へ……!?

 あの化け物がいる森にか……?」


「はい。

 この黒い血の原因が何なのか、

 “元凶”を探らないといけません」


 ユウタの声は震えていなかった。

 自分が言っていることにも、驚くほど落ち着いていた。


(原因を突き止めれば、“敵の成長ライン”を止められる。

 これはもう、ゲームじゃない。

 本物の戦争だ)


 リュミエラが彼を見つめた。


「その……探索、ユウタさんも行くのですか?」


 ユウタはうなずいた。


「行く必要があります。

 俺の“地形判定”と“ルート設計”が役に立つので」


 クロウが鼻で笑った。


「お前……昨日まで“戦場未経験”だった男とは思えんな」


「昨日の俺じゃないので」


 ユウタは小さく笑った。


「進化するのは、敵だけじゃない」


 リュミエラが胸に手を当て、息を整えて言った。


「わかりました……

 探索は私も行きます。

 王族として……この現象を放置できません」


「ダメです」

 ユウタは即答した。


「え……?」


「王族が前線に立つのは最終段階です。

 今のフェイズは“内政と準備”。

 あなたには村全体の指揮を任せます」


 リュミエラはしばし驚いた表情を見せたあと、

 少しだけ頬を赤らめた。


「……あなたに、そう言ってもらえるとは思いませんでした」


 村人たちも頷いた。


「姫様は村の中心だ」

「行かせるわけにはいかん」



 ユウタはもう一度、進化種の黒い血を見た。


(絶対に調べないといけない。

 この血は……“この世界の答え”に繋がってる)


 そして強く思った。


(この村を……生かす)


 会社でも、家でも、

 この世界に来る前の自分にはできなかったこと。


 でも、今ならできる。


 ユウタは拳を握りしめた。


「……次の一手は“森の偵察”。

 今日の午後、外周探索班を編成します」


 その瞬間、村の空気が緊張で引き締まった。


 グールとの戦いの“次のフェーズ”が始まる。


 そして――

 森の奥深くに眠る“本当の絶望”が、

 この村へ静かに牙を向き始めていた。

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