第二章 第四話 夜襲の戦い(タワーディフェンス発動)
闇の中から、無数の足音が村へ迫ってきた。
腐肉がこすれる湿った音。
骨が軋む乾いた音。
それらが混ざり、森全体が呻くような気配を放つ。
通路の入口。
狭いくの字の柵の向こう側で、グールの群れが姿を現した。
「く、来る……!」
「落ち着け! 配置を崩すな!」
クロウの怒号が闇に響く。
◆
進化種が前に出てこず、
“雑兵”のグールが先に侵入してくる。
(やっぱり……群れの“盾役”を雑兵にさせてる)
ユウタはぞっとしながらも冷静だった。
これは偶然ではない。
“進化種は知性を持つ”と見ていい。
(まずはこの雑兵を処理して、
迎撃場に流し込む……!)
ユウタは槍を握りしめ、声を張り上げた。
「全員、
——通路の“外側”には絶対出るな!
柵に沿って後退しながら、敵を誘導する!」
「は、はい!!」
防衛班が一斉に応じる。
細い通路に並ぶグールたちは、一列になって進むしかない。
柵に阻まれ、横へは広がれない。
まさに、ユウタが狙った通りだった。
◆
「槍、前へ! 突け!」
「オラァッ!!」
防衛班が通路の狭い口から槍を突き出す。
グールは倒れても動き続け、足を引きずりながら突進してくるが、
“狭い道”に押し込まれているせいで圧力が弱い。
後方のグールが押し寄せてくるが、柵に挟まれ横へ動けず、
全てが一本道に詰まっていく。
「押し返せる……!?」
「昨日までとは全然違うぞ……!」
防衛班の声にわずかに希望が戻る。
(よし……
まずは“一次防衛ライン”突破は防げた)
◆
だが、安心は一瞬だった。
森の奥。
進化種が、ゆっくりと姿を見せた。
その足音は、普通のグールとは違った。
地面が重く震えるような……
まるで巨獣のような踏みしめる音。
赤い瞳が二つ、三つ……いや四つ。
(……まさか、複数体!?)
ユウタの背筋に冷たい汗が流れる。
クロウも気づいて歯を食いしばった。
「数が……増えている……!」
「リュミエラさん!!
女性と老人、子供は“北側の頑丈な倉庫”に避難させてください!!」
「わ、わかった!」
リュミエラが急いで走り去る。
進化種が四体。
雑兵は二十以上。
村にとっては“滅亡級”の戦力差だ。
(でも……
俺が作った“誘導ライン”がある)
ユウタは迎撃場へ走った。
◆
通路を抜けたグールが、次々と迎撃場へ押し込まれていく。
落とし溝に足を取られ、
倒れた瞬間に横から槍が突き刺さる。
「今だッ! 刺せ!!」
「うおおおおっ!!」
グールの動きは鈍く、次のグールが倒れた死体につまずき動きがさらにもたつく。
迎撃場の“点の攻撃”が最大効率で働いていた。
(……いける。この村は……
このシステムが完成すれば、守りきれる!)
ユウタは胸が熱くなる。
◆
しかし——
進化種の動きは別格だった。
通路の入口まで来ると、
その巨体は“通路の狭さ”を理解したかのように動きを止めた。
(……こいつ、考えてる)
普通のグールのように突っ込まず、
通路の左右を嗅ぎ、
柵の強度を確認しているようだった。
「まずい……
柵の弱いところを探している!」
「クロウさん、通路の右側に“強度の弱い柵”は!?」
「……一本ある!!
昨日作ったばかりの、まだ土が固まっていない柵だ!」
ユウタの心臓が跳ねた。
(そこだ……!
狙われたら一撃で破られる……!)
◆
進化種が通路の右側に回り込み、
その巨腕を振り上げた。
木の幹ほどの腕。
風圧で土煙が上がる。
「やばい……!!」
ユウタが叫ぶ。
「クロウさん!!
右側の柵、補強部隊を!!
間に合わなければ——」
クロウが怒号を上げた。
「左に誘導しろォ!!
槍隊、三名! 通路の右端に“囮突き”だ!!」
「おおおおっ!」
槍が突き出された瞬間、
進化種がそちらへ注意を向け、進行方向をわずかにずらした。
(食いついた!!)
だが、進化種の腕のひと振りで槍が折れ、
兵士が吹き飛ばされた。
「ぎゃっ!!」
「おい!!」
「生きてるか!?」
兵士は地面を転がりながらも、
なんとか息はあった。
(まずい……
“囮”を使い続ければ、犠牲が出る……!)
進化種は一歩、二歩と通路へ入ってくる。
狭さが“巨体の武器”に変わる。
一本道で押し込まれたら、まともに迎撃できない。
(進化種は……迎撃場まで絶対に行かせない)
ユウタの頭が高速で回転する。
水。
溝。
火種。
杭。
通路の角度。
進化種の脚の太さ。
体重。
(……やれる)
ユウタは叫んだ。
「防衛班!!
“第二通路”を開いて進化種を迎撃場へ誘導する!!」
「第二……通路!?」
「そうだ!!
通路の左側、柵の隙間を“わざと”開けて、
そこから一気に“誘導柵”へ流す!!」
クロウが叫ぶ。
「おい!!
そんなことしたら雑兵も一気に——」
「雑兵はもう迎撃場で処理できてる!!
進化種だけ“狭い道”に押し込めれば勝てる!!
これは……タワーディフェンスの鉄則だ!!」
「たわー……?」
「説明してる暇はないッ!!」
ユウタの怒号に、クロウが舌打ちしながらも叫ぶ。
「左側!!
柵を外せ!!
すぐにだ!!」
◆
防衛班が急いで左側の小さな柵を外す。
そこに、わずかな“道”が生まれた。
進化種の赤い目が、その隙間に向く。
(……来た)
巨体が方向を変え、
二足歩行ではありえない重心移動で、
“第二通路”へ進み始めた。
その瞬間。
「全員!!
迎撃場へ後退!!!
進化種を“ここへ”引きずり込め!!」
ユウタの声と同時に、村人たちが一斉に走る。
◆
迎撃場の手前。
進化種が通路へ入り——
ズッ……!
巨体が“落とし溝”に前足を突っ込み、体勢を崩した。
「今だああああッ!!!」
「槍隊、突けぇぇぇ!!」
地響き。
咆哮。
木槍が肉に刺さる音。
進化種の動きが止まり、
二体目、三体目が通路に詰まり、倒れ込む。
狭い通路の“詰まり”が、進化種同士の動きを殺した。
ユウタが叫ぶ。
「火種、点火!!
通路を焼け!!!」
「了解ッ!!」
油を染み込ませた藁束に火がつく。
炎が第二通路に燃え広がり、進化種の動きをさらに封じる。
「グォォォオオオ!!!」
巨体がのたうち、
炎に包まれるたび、動きが鈍っていく。
クロウが槍を構え、叫んだ。
「トドメェェェ!!!」
「うおおおおお!!」
槍が何度も突き刺さり——
赤い目が、ひとつ、またひとつと消えていった。
◆
数分後。
迎撃場は熱気と蒸気で満ちていた。
焦げた肉と腐臭。
そして、絶望の中にかすかな勝利の匂い。
進化種四体。
全部、倒した。
ユウタは膝に手をつき、息を荒くしながら呟いた。
「……できた……
ほんとに……倒せた……」
クロウが背中を叩いた。
「お前……本当に……
“戦場を作れる男”だったんだな」
クレアが涙目で笑う。
「怖かったけど……
本当に守れた……!」
リュミエラは、泥だらけの姿のままユウタに駆け寄り——
「ユウタさん!!
本当に……ありがとう……!!」
彼女の瞳は涙で潤んでいた。
その声に、胸が熱くなる。
(俺の手で……
本当に人を救った……?)
会社では、誰もそんなこと言わなかった。
誰の人生も変えなかった。
でも——
この世界では、できた。
ユウタはゆっくりと空を見上げた。
(……次のターンも、絶対に生き残らせる)
それが、この世界での“責任”だ。




