表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビで滅んだ異世界を、シヴィライゼーション知識で再建する  作者: マルコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/28

第一章 第一話 現代

ユウタは、会社の自席に座っていた。

 座っているのに、いないみたいな席だった。


 朝の始業と同時にメールを開き、作業指示を確認して、言われた通りに資料を整える。

 間違いがないように、淡々と。

 誰かに誉められることはない。けなされることもない。

 ただ仕事が流れて、ユウタの一日が薄く塗りつぶされていく。


 ――窓際。

 自分でもそう思う。


 部署の中で新しい案件が立ち上がっても、声はかからない。

 ベテランにも若手にも、必要以上には近づかれない。

 「やってくれるなら助かるよ」って言われる雑務が、ユウタの担当範囲だった。


 別に怒ってはいない。

 怒れるほど熱量が残っていない。


 自分の手で何かを作り、改善し、世界が少し良くなる――

 そういうのが好きで、工学部に入って、生産技術の仕事を選んだ。

 現場の段取り、設備の配置、工数の削減。

 目に見える形で“無駄が消える瞬間”がたまらなく快感だった。


 でも、会社ってのは不思議だ。

 正しいことを積み上げても評価されるとは限らないし、成果を出しても人間関係の空気で簡単に薄まる。

 気づけばユウタは、誰にも嫌われない代わりに、誰にも期待されない人間になっていた。


 昼休み。

 机に突っ伏して目を閉じると、頭の奥で軽い眩暈がした。


 最近、こういう瞬間が増えた。

 ストレスなのか、老いなのか、ただの睡眠不足なのか。

 わからない。

 わかろうとする気力も、あんまりない。


 ユウタのスマホには、ゲームの通知だけがいくつも並んでいる。

 帰宅して、夕飯を適当に済ませて、パソコンを開く。

 そこでようやく、ユウタの表情が動く。


 文明を築くゲームが好きだった。

 小さな食料生産から始めて、都市を増やして、研究を進めて、戦争と外交と経済を回していく。

 やればやるほど、世界は論理的に反応してくれる。


 “こうすれば良くなる”が、ちゃんと結果になる。

 それが現実と決定的に違った。


 現実は、複雑で面倒で、理不尽で、

 何より「頑張ったら報われる」というルールが存在しない。


 だからユウタは、ゲームの中でだけは王だった。

 「よし、ここは灌漑。次に鉄器。研究終わったら都市国家と同盟…」

 考えるたびに世界が整っていくのが、気持ちよかった。


 ――もし人生も、同じだったら。


 詰んだ局面でも、別の選択肢を探して、じわじわと取り返していく。

 負けても学びが残り、次のプレイに活かせる。

 努力が意味になる場所。


 ユウタはふっと笑って、画面を閉じた。

 「……馬鹿だな」


 現実はゲームじゃない。

 セーブもロードもない。

 やり直しなんて、滅多にない。


 だから今日も明日も、同じような一日が続く。

 それがわかっていても、動けない自分がいる。


 その夜、帰りの電車を降りて、冷えた空気に肩をすくめた。

 駅前の街灯が、雨上がりのアスファルトをぼんやり照らしている。


 家までの道。

 歩き慣れたはずの道なのに、ふと景色の輪郭が歪んだ。


 視界の端が黒く欠ける。

 耳の奥が遠くなる。


 ――あれ?


 足元が、急に軽くなる。


 ユウタは次の瞬間、地面に膝をついた。

 息が吸えない。

 喉の奥が熱い。


 周囲の声が聞こえた気がするが、意味は拾えなかった。

 空が回る。

 街灯の光が滲んで、星みたいに割れていく。


 最後に浮かんだのは、ゲームの開始時の画面だった。


 “あなたの文明は、ここから始まる。”


 そんな、ありえないフレーズ。


 ユウタは薄く笑って、

 そして視界が、静かに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ