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その日の放課後。
俺は図書室に向かった。
別に、蛍を確かめに行くわけじゃない。ただ、本を借りに行くだけだ。
そう自分に言い聞かせながら、図書室のドアを開ける。
中には、蛍がいた。
図書委員として、カウンターに座っている。
相変わらず眠そうな顔をしながら、本を整理している。
「……あ」
蛍が、俺に気づいた。
「……相沢くん」
「あ、ああ。本、借りに来た」
「……どうぞ」
蛍は小さく頷いて、また本の整理に戻った。
俺は適当に本棚を眺めながら、チラチラと蛍の方を見る。
白い手。細い指。
机の上に置かれた、あの猫耳イヤホン。
——やっぱり、同じだ。
でも、それだけじゃ確証にはならない。
俺は、思い切って声をかけた。
「なあ、柊」
「……ん?」
「お前、配信とか見たりする?」
蛍の手が、ピタリと止まった。
「……なんで?」
「いや、なんとなく。お前、いつも眠そうだから、夜更かししてるのかなって」
「……別に」
蛍は、少しだけ視線を逸らした。
「……ただ、寝るのが下手なだけ」
「そうか」
俺は、それ以上追及しなかった。
でも、蛍の反応が、少しだけ不自然だった気がした。
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その夜。
俺は、またルナの配信を見ていた。
「はい、今日も始まりました。月ノ音ルナです」
いつもの声。いつもの暗い部屋。
でも、今日は少しだけ違う。
俺は、画面を見ながら、確かめるようにコメントを打った。
『今日、学校で同じイヤホン使ってる人見たわ』
すると、ルナの手が、一瞬止まった。
「……そうなんですか」
少しだけ、声のトーンが変わった。
「でも、このイヤホン、結構人気あるんですよね。だから、珍しくないと思いますよ」
『そうかもな』
「……そうですよ」
ルナの声が、少しだけ硬い。
——やっぱり。
俺は、確信した。
月ノ音ルナは、柊蛍だ。
---
次の日。
俺は、朝から蛍の様子を観察していた。
いつもと変わらず、机に突っ伏している蛍。
でも、今日は少しだけ、耳が赤い気がした。
「……なに?」
蛍が、顔を上げずに言った。
「いや、別に」
「……じろじろ見ないで」
「見てねえよ」
「……見てる」
蛍は、少しだけ顔を上げて、俺を睨んだ。
眠そうな目だけど、少しだけ鋭い。
「……気づいたんでしょ」
「……は?」
「……私のこと」
蛍は、小さく息を吐いた。
「……昨日のコメント。透明人間さんでしょ」
俺は、言葉を失った。
「……なんで」
「……声。なんとなく、わかった」
蛍は、また机に顔を伏せた。
「……バレたくなかったのに」
「……悪い」
「……別に、謝らなくていい」
しばらく、沈黙が続いた。
俺は、どう言葉をかければいいのかわからなかった。
「……ねえ、相沢くん」
蛍が、小さく言った。
「……配信、見るのやめる?」
「……なんで?」
「……だって、正体バレたし」
「……それとこれとは、関係ないだろ」
俺は、正直に答えた。
「……俺は、ルナの配信が好きで見てる。それが、お前だったとしても、変わらない」
蛍は、顔を上げた。
少しだけ、驚いたような顔をしている。
「……ほんと?」
「ああ」
「……じゃあ、これからも見に来てくれる?」
「当たり前だろ」
蛍は、小さく笑った。
いつもの眠そうな顔が、少しだけ柔らかくなった気がした。
「……ありがと」
その声は、配信の時とは違う、素の声だった。
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