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魔法の森で待っていて  作者: 若隼 士紀
第一章 魔法の世界 底辺の二人
8/8

8.父王の命令

大きなベッドの天蓋から下がる重厚なカーテンの陰に隠れて、父王の顔は見えない。

 アドリアン王子がベッドの脇に立って、こちらを睥睨している。


 リュシアンは緊張で震える足を励まし、一歩、前に出てベッドと兄に向って礼をした。

 からからになってしまった喉に何とか唾液を飲み下し、口を開く。

 「父上におかれましては、ご機嫌麗しく存じます。

 私をお呼びと伺いまして、罷り越しました」


 後ろに控えたアルマンは震えるリュシアンの背中を見つめ、わが主君とはいえ同情を禁じ得なかった。

 ご誕生の時に魔法がほぼ使えない王子と判り、前代未聞の椿事に城中が驚愕して大騒ぎになった。

 王家の恥だ、国民が知る前に殺してしまえという意見もあり、生まれてからしばらくは乳母である私の母は夜に眠ることさえもできなかったという。


 実際に命を狙われたこともあるというから、その精神的負担たるや相当なものだったろう。

 母と若い侍女たちが噂話を装って城の誰彼や市井の庶民にまで暗殺未遂の話を広め、第三王子の存在が国民に認知されるようになってようやく落ち着いたらしい。

 

 いずれにせよ魔法を使えない王子は人畜無害の役立たずなんだし、わざわざ殺すこともないでしょう、という世論もあって、王族も貴族も国民も第三王子に興味を抱くものはいなかった。

 まるでこの世に存在しない人のような、いてもいなくても同じと周りから認識されている王子。


 王妃様からも疎まれ周りの使用人からも蔑まれ、そんな環境で育ったリュシアン様は、極端に自己肯定感が低いものの真面目で賢く鍛錬も怠らない。

 国内随一の美女とうたわれた王妃様に面差しがよく似ていて、ごっついアドリアン第一王子やハリガネみたいなマチュー第二王子やチビのエメリック第四王子と比べて抜群にイケメンだ。

 

 王様の居室であるこの部屋には、リュシアン様が5~6歳のころに一度、訪れたきりだ。

 あの時は…そうだ、外国から偉い魔導士が来朝した折に内密で王様に呼ばれ、魔力が成長もしくは増強できるかを見てもらったのだった。

 あの頃は王様もお元気で…結局何をしてもリュシアン様の魔力は増えないと判ったとき、大変な落胆とお怒りだった。

 リュシアン様のその後の落ち込みぶりも酷くて、何も食べず起き上がれなくなって、死んでしまうのではないかと本気で心配した。

 

 今回は…なんだろうか。


 リュシアンのたどたどしい挨拶に、ベッドの方からゲホゲホと咳込む音が聞こえ、やがて衣擦れの音と共に(しわが)れてはいるが、重々しく威圧感のある声が響いてきた。


 「リュシアン…

 今の国内の現状は知っておるな」

 「は、はい!

 存じております」


 王は言葉を継ごうとしたようだが、酷い咳で続けられず、代わって兄王子がふんぞり返って話をはじめた。

 「マチューは西へ。エメリックは東へ。

 王族の者と上位貴族、そして高位の魔導士しか感じられぬ魔法物質ヴェルミナを探しに旅に出た。

 リュシアン、そなたにも王族としての役割を担う責任がある」


 えっ?

 (こうべ)を垂れてアドリアン王子の言葉を聞いていたリュシアンは、思わぬ言葉に顔をあげて兄王子を見る。

 

 「父上と魔法省の長官が同じ夢をご覧になった。

 この王都から南へ下ったガレスコという小さな城塞都市の近くに、灰の森と呼ばれる場所があるそうだ。

 その森は人を寄せ付けない荒れた森らしいのだが、魔力を持たない者のみが入れるということだ。

 そこに何があるのかは夢の中にもはっきりとは現れなかったらしいが、父上は石碑のようなもの、長官は濃い霧が結晶のようになって漂っているのを見たそうだ。

 それがヴェルミナかは判らないが、賭けてみる価値はあるとの結論になった」


 え、まさか…

 リュシアンは真っ青になり、身体は先ほどとは違う恐怖で震えはじめる。

 

 「ヴェルミナが年々枯渇してきておる…

 天界との境の封鎖が(ほど)けてきているが、ヴェルミナが足りないために修復できず、天界の神の手先が少しずつ地上に悪さをし始めている。

 朕の命がまだあるうちに、…なんとかせねば」

 王の苦しげな言葉が続き、また咳き込んではあはあと荒い呼吸の中から、命令が下った。


 「リュシアン、魔力を持たぬそなたなら…あるいは。

 灰の森に赴き、森の中の探索をせよ。

 そして何かしらの成果を持ち帰れ」



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