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魔法の森で待っていて  作者: 若隼 士紀
第一章 魔法の世界 底辺の二人
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7.第四王子エメリックの魔法

 魔法陣を取り囲んだ魔導士たちは、長官の指導の下に新たな呪文を唱え始める。

 今度は弟王子を送り出すための魔法陣を書くのだろう。

 

 長々しい呪文を唱える魔導士たちの額に汗が浮かぶ。

 魔法陣を書くための精霊を呼び出しているようだ。

 リュシアンも様々な呪文は覚えているが、実際の役に立ったことは一度もない。


 『この役立たずが』

 マチュー王子の言葉が胸に刺さる。

 俺だって役に立ちたい。

 リュシアンは両の拳を握りしめた。


 誰に気にされることもなく、所在なく佇むリュシアンとアルマンの目の前に、唐突に人が現れた。

 「!…っと!」

 その人物は足が床につくや否や、のけぞって「失礼!このポイントに人がいるとは思わなくて…」と謝罪の言葉を口にした。


 「あっ、エメリック!」

 「って、…ああ、なんだ、リュシアン兄上か」

 リュシアンの姿を認めると、第四王子エメリックは途端に尊大な口調になる。

 

 銀に近い金色の髪をかき上げて、王族特有の薄い唇をゆがめて(わら)う。

 「どうなさったんですか、兄上もどちらかにヴェルミナを探しに行かれるのですか?」


 そんなわけはない。

 自ら使える魔力を持たないリュシアンに、魔法物質ヴェルミナを探しに行けるはずがない。

 微量のヴェルミナを感じ取れるのは、魔道具を使える魔導士か王族、最上位クラスの貴族に限られる。

 それでも他の国々の人間に比べて、このエクラロンシエル王国の人間はヴェルミナを感じ取れる人間は多い。


 そうでないことは解りきっているのに、わざとらしく訊いてくる弟王子の意地の悪さにリュシアンは握る拳に力をこめて奥歯を噛みしめる。

 「いや、そなたの見送りに」


 「おお、エメリック様!

 お待ち申し上げておりました」

 「長官殿、お世話になりますね。

 父上と母上にご挨拶申し上げていたら、遅くなってしまいました」

 

 人懐こく笑いながら、エメリック王子は長官に大股に近づいて温かく抱擁を交わす。

 既に魔法陣は新たに描かれ、先ほどとは違って鮮やかな緑色の光の柱が屹立している。

 エメリック王子は風属性の魔法使いだ。

 感覚的に使いこなす魔法は、規格外の強さを見せる。


 リュシアンの背後の扉が開き、風と共にエメリック王子の従者が入ってきた。

 「失礼いたします、エメリック様遅くなりました」

 「ああ、いいよ、ちょうど準備ができたところみたいだし」

 エメリック王子は微笑んで従者を迎える。


 「エメリック様は、透視魔法の能力もおありでしたね」

 アルマンがぽつんと呟き、リュシアンは「そうだったな」と頷いた。


 先程エメリック王子は、突然この部屋の中に現れた。

 この国の魔法に関するあらゆるものが存在している魔法省には、ものすごく強い結界が張ってあるため本来はいきなり部屋に入ることなどできない。

 アルマンやエメリック王子の従者のように、一旦、扉の外へ飛んで、そこで衛兵に誰何され長官の許可を得て初めて扉が開かれる。


 そしてエメリック王子の「このポイントに人がいるとは思わなかった」という言葉。

 恐らく、父王の部屋からここへ直接飛ぶ前に、この部屋の様子を透視魔法で確認してきたのだろう。

 その時にはまだ、リュシアンはここにいなかったものか。

 

 その事実はリュシアンを打ちのめす。

 弟王子の並外れた能力と魔力の強さが羨ましい。

 生まれつき恵まれた才能を持った人間の、明るい笑顔と悪気のないマウントが(ねた)ましい。

 

 「リュシアン様!」

 小さく鋭く、アルマンが言って、リュシアンははっと我に返る。

 「掌を見せてください」

 あまりに強く握りしめていて、いつの間にか掌から血が出ていた。


 「どなたか、リュシアン様の怪我の手当てを」

 アルマンが声を上げると、魔法陣から遠く離れた下っ端の魔導士がこちらへ来ようとする。

 それを片手で制し、エメリック王子が近づいてきた。

 

 「…なんだ、怪我というからどんなものかと思ったら」

 鼻で笑って、口の中で小さく呪文を唱える。

 ほんのり緑色の光を放つ、小さな丸っこい精霊が現れ、リュシアンの掌にすうっと吸い込まれていった。

 と同時に血は止まり皮膚は塞がって、跡形もなく傷は消えていた。


 「あ、ありがとうございます」

 「兄上、私の見送りなんぞ宜しいので、おとなしくお部屋にいらしたらどうですか。

 こんなところに来てくださってもねえ、却って手間ですよ」

 アルマンがお礼を言うのと同時に、エメリック王子は蔑みの色を隠そうともせずに言い放つ。

 

 感心した様子で見ていた長官を振り返り「ではそろそろ行きます、お願いしますね」と爽やかに微笑みかけた。

 長官は「はっ!」と返事をして、緑色の光柱に(いざな)った。

 長官から到着地の詳細を聞いて、エメリック王子はにっこり笑って大きくうなずく。

 

 マチュー王子と同じように、魔導士がかけた守護魔法を纏い、エメリック王子は従者と共に緑色の影となって消えた。

 

 ふうーっと部屋の中は弛緩した空気に包まれる。

 「皆、ご苦労だった。

 この魔法陣を消したら、休憩してくれ」

 長官はほっとしたように、その場にいた魔導士たちをねぎらった。

 

 「では、私たちも王様の居室へ行きましょう」

 小さな声でアルマンが言ったとき、背後から「リュシアン様、陛下がお呼びだそうですので、ここからご案内します」と声がかかった。


 魔法省の副長官のガスパールが床に小さな魔法陣を描いていた。

 「ここにお立ちください」

 言われるままに二人が円陣の真ん中に立つと、一瞬で目の前の景色が消え、魔法省よりももっと重厚などっしりした家具に囲まれた部屋に二人は立っていた。


 「父上、リュシアンが参りました」

 第一王子で王太子のアドリアン兄王子が堂々たる体躯から声を出して父王に報せる。


 部屋の中は薄暗く、大きな天蓋からどっしりとしたカーテンが下がったベッドと思しき場所から、衣擦れの音が聞こえ、その音だけでリュシアンとアルマンの緊張は一気に高まった。

 

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