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魔法の森で待っていて  作者: 若隼 士紀
第一章 魔法の世界 底辺の二人
3/4

3.壁の外

大門の前に立っている衛兵に挨拶して、セレストは足早に城壁の外へ出た。

 城壁の外にはたくさんの旅人・商人のキャラバンが町に入るための通行許可証を持って並んでいる。

 

 どこの町でもそうだが、町に入るためには国の発行した通行許可証が必要だ。

 城壁、特に大門の辺りには強力な魔法の結界が張ってあり、魔法を使って勝手に入ることができないようになっている。

 このガレスコの町は東西の国とつながる重要な通商道にあるので、旅人たちで常にとても賑わっている。

 その分、町の出入りには非常に厳重な検査があり、大門の中と外にはいつも長い行列ができている。


 昔はそうでもなかったようだけど、最近は何かと物騒でどこの町でも結界も警護も厳しくなっているらしい。

 得体の知れない化け物を見たとか不気味な獣がいたとか、一見、都市伝説のような噂が流れている。

 しかし噂だけでなく実際に被害に遭った人が複数いるみたいで、この町も最近頓に人の出入りに対して厳しくなっている。


 「よう、セレスト!

 また森に行くのかい?」

 門を出てすぐに声を掛けられ、セレストは振り返った。

 

 町に入るための待機列の中に見知った顔を見つけ、セレストは思わず笑顔になって駆け寄った。

 「あれ、ベルナールさん!

 もう首都から戻ってきたの?」


 ベルナールは『雌牛と麦』亭の常連客の行商人だ。

 この国の中をあちこち行き来して土地の特産物などを仕入れて別の土地に行って売り生計を立てている。

 その時々で一緒に組むキャラバンはいくつかあるが、基本的に家も持たず単独で行動しているようだ。

 暗めの茶髪に白いものが混じるおやじだが、砂漠越えをするので真っ茶色日焼けしていて元の肌色が判らないくらいだ。


 魔法がほぼ使えないという、異端児で孤児で町の嫌われ者のセレストをあまり差別することなく接してくれる数少ない大人である。


 「前にうちに来てくれてから、一か月くらいしか経ってないよね?

 どうしたの?」

 国中をあちこち旅してまわる人だから、この町に来るのはせいぜい年に3~4回だ。

 元気そうに見えるけど、身体でもどこか調子悪いのかな?


 セレストの疑問にベルナールはわははと破顔して帽子を取った。

 「心配してくれたのか、ありがとう。

 俺は至って元気だよ。

 先々月末ここを発って王都に着いて、商いしてたらちょっとした噂を聞いてね」


 そこでセレストに身を寄せ、「あくまで噂だけどな」と少し声を潜めた。

 汗の臭いと混ざった上着の皮の臭いがツンとセレストの鼻をつく。

 「王様が病に伏されてるらしくてな。

 国全体の魔法力が低下し始めてるらしい。

 で、魔法庁の役人や研究者が回復と増幅魔法を施す傍ら冒険者を募って、国中の魔法物質を探しはじめるんだと」


 ベルナールが言葉を切ったとき前に並んでいた大男が突如振り返った。

 驚き(おのの)くセレストとベルナールを見下ろして「それ、俺も聞いた」と、彼としては声を潜めたのだろうがまあまあ結構な声量で言った。

 

 「王太子殿下は首都の魔法を守らないといけないから、第二王子と第四王子が国中を西と東に別れて探索に出る準備で王都はすごい騒ぎだ。

 もう噂の域は出ちゃってる。

 王様の病臥説は本当なんだろう。

 俺もそれに冒険者として参加したかったんだがな。

 嫁さんが心配してどうしても駄目だっつうんだ」


 最後は口惜しそうというか若干しょんぼりと言う大男の顔が可笑しくて、セレストとベルナールは顔を見合わせて笑顔になる。

 ベルナールはセレストに笑顔を向けたまま言った。

 「そう、それで俺もいろんな物資を今までより早く届ける必要が出てきたから、王都の魔法商人団と一緒に魔法を使ってあちこちに行くことにしたんだ」


 ああ、それでこんなに早く戻ってきたわけね。

 セレストは納得してうなずく。

 

 ベルナールの後ろに並んでる旅人が引いている馬の手綱を握りなおして思案顔で言った。

 「あの冒険者って、報酬すごいんだろ?

 俺ももう少し魔法が使えりゃ参加したかったぜ。

 しかし第三王子はやっぱり役立たずかぁ」


 旅人の言葉にベルナールさんと大男も、いやはや、というように首を振った。

 「第三王子は、まあ可哀相っちゃ可哀相だが。

 どこでどうして魔法を持たずに生まれるなんてことになったのか。

 王家の方々は末席に至るまで大層な魔力を持っているというじゃないか」


 えっ?!

 セレストはベルナールの顔をまじまじと見た。

 ベルナールは居心地悪そうに帽子を被りなおして小さくいった。

 「そういう噂なんだよ。

 生まれつき、セレストみたいに魔法がほとんど使えないそうだ、第三王子は」


 そこではっとしたようにセレストを見た。

 「そういやセレスト、お前用事の途中だろ!

 また女将にどやされるぞ」


 セレストもぎょっとして城壁の上に取り付けられた時計を見る。

 やっば!

 「早くいかないと!

 ベルナールさん、またあとでね!

 「ああ、気を付けて行けよ!

 今何かと物騒だからな!」

 

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