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魔法の森で待っていて  作者: 若隼 士紀
第一章 魔法の世界 底辺の二人
1/4

1.少女セレスト

争いの世界。

 辺りは暗いのに奇妙な明るさがあり、もうもうと煙がたち込めて息ができない。

 敵が迫っているのが判っているのだが身体が動かない。

 魔力はもう、すべて尽きてしまった。


 吾は荒い息をしながら立ち尽くし、投げ放たれた魔炎の熱気で粘膜が爛れるのを感じながらただただ願う。


 相棒!

 早く来て!

 戻ってきて!

 この世界を、吾を、救って!

 相棒!

 ……!





 「いつまで寝てんだい!

 さっさと起きて仕事しな!」

 怒鳴り声とともに何かが音を立てて飛んでくる。

 

 セレストは咄嗟に顔をかばいながらソレを受け止めた。

 …箒。

 せめて当たってもケガしないものにしてくれないかな。


 「お前のしょぼい魔法じゃ、人の倍は時間がかかるんだからさっさと身体動かしな!

 何度言わせるんだ!

 お前みたいな役立たず、食わせてやってるだけでありがたいと思いな!」


 こっちだってこんなとこ出ていきたいわ!

 セレストはのろのろと起き上がって身支度する。

 だけど、おばさんの言うこともあたってるから何も言えない。


 この魔法世界で魔法が使えないあるいは弱い人間は生きていくのが難しい。

 まったく使えないという人には出会ったことがない。

 おそらく赤子のうちに死んでしまうのだろう。


 鎧戸もない、むき出しの質の悪い厚い窓ガラスから鈍い光が差し込んでくる。

 魔法で作られた朝日。

 本物の太陽とやらがある天界とは結界で遮られているため、現在生きている人間は誰も本来の朝を見たことがない。


 「早くしなって言ってるだろ!

 お客さんが起きちまう!」

 …アンタの声がうるさすぎてお客さん起きるわ。

 セレストは口の中で文句言うと、落ちていた箒を拾って屋根裏部屋の小さな扉を屈みながら(くぐ)った。



 少女の名はセレスト。

 誰がつけてくれたのかは知らない。

 物心ついた時にはそう呼ばれていた。


 そもそも、セレストはよちよち歩きの幼児のころに、この町の入り口である大きな門の前に置き去りにされていたそうだ。

 可哀相に思った町の人々が交代で面倒を見てくれていたが、セレストに殆ど魔力がないということが判り、また捨てられそうになったところを拾ってくれたのがこの宿屋の女将のおばさんである。

 宿屋には魔法が使えなくてもギリ、できる仕事があるからと。


 最悪の場合、野垂れ死にか娼館に連れていかれるかだったことを考えれば感謝しなくちゃいけないのだろうけど。

 このおばさん、ありえないほど人遣いが荒いし、待遇が悪すぎる。

 メンタルフィジカルオバケのわたしでなかったらとっくに死んでるか廃人になってるわ。

 セレストは心の中で愚痴り続ける。


 しかも、この女将は結構したたかだ。

 セレストに魔力がほぼないと判明したが、「森」がセレストを受け入れるのを目の前で見たとき。

 驚愕して畏怖する町民が多い中、女将は頭の中で冷静に算盤をはじいていたのだ。

 

 「森」が受け入れた…この子は稼げるようになる。

 

 あーあ。また追い使われるだけの一日が始まる。

 セレストは思わずため息をつき、「ため息なんざ100万年早いわ!この生意気小娘が!」という怒声とともに飛んできたバケツをノールックで受け止める。


 セレストはバケツと箒を持って屋根裏から階下へ続く狭い階段を下りながら、明りとりの窓の外を見た。

 今日は「森」に行けるタイミングがあるだろうか…


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