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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
八章 今週の白石さんはおやすみです
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そんなわけで書籍発売記念の水着回やります(宣伝)

 蒼灯さん、おっぺえでっけえな……。


「……白石さん?」

「えと、なに?」

「どうかしました?」

「あ、いや、えと……」


 いやー……。

 蒼灯さん、まじでおっぺえでっけえな……。(二回目)


「あの、視線を感じるんですけど……」

「えと……。蒼灯、さん」

「はい、なんですか?」

「蒼灯さんって、おっぱい、おっきいね」

「!?」


:お嬢???????

:直球にもほどがある

:面と向かって言うやつがいるかバカ!!! よく言った!!!!!

:唐突にライン越えてくるじゃん

:お前のトークスキルにはゼロか百しかないんか?

:蒼灯さんが素で驚くレアなシーンを見てしまった……

:やっぱお嬢ってすげえわ、いつだって俺たちの想像を超えてくれる


「し、白石さん?」

「え、あ、うん」

「思っても、言わない。それが慎みというものです」

「う、うん。ごめん……」

「わかればよろしい」


 隣を歩くおっぺえ……じゃなくて、蒼灯さんが気になりすぎて、考えてたことをそのまま言ったら、普通に怒られた。ダメだったらしい。

 引き続き、迷宮三層にある白波のビーチ。イベント会場の周辺を、私と蒼灯さんは二人で歩いていた。

 イベントが始まる前に、近くの魔物を減らしておくのが今のお仕事。蒼灯さんはその付き添いだ。


「蒼灯さんは、イベント参加者、なんだよね?」

「ええ、ゲスト参加です。ビーチバレーとか出るらしいですよ?」

「そっか、応援するね」


 顔が広くて華がある蒼灯さんは、こういうイベントにはよく呼ばれるらしい。イベント会場を歩いているだけでも、時々他の参加者に話しかけられていた。


「白石さんは何か競技には出ないんですか?」

「私は、救護スタッフだから」

「なら、暇な時にこっそり海入っちゃいましょうよ。ちょっとなら大丈夫ですって」

「…………むり」

「あら、残念」


:くそっ……! あおひーでもダメか!

:なんだっていい! 誰かお嬢を海に突き落とせ!

:お嬢を海に入れたい勢力はなんなんだ?

:そらお前、お嬢を海に入れたいんだよ

:なんで……?

:だって、濡れたらシャツが透けるだろ

:ただの下心じゃねーか!

:うるさい黙れ! 今日が千載一遇の好機なんだ!

:隣にとんでもないおっぺえがいるのに、一切ブレないお前らはすげえよ

:どっちかじゃない、全部見たい。リスナーってのは欲張りなんだ

:あんまそういうこと言うとまた岩場に逃げるぞ


 今日のコメント欄、なんかやだなぁ……。

 最初に比べれば落ち着いた方だけど、結構な頻度でこういう流れになる。防御力高めの私ですらこうなんだから、蒼灯さんの配信なんて一体どうなってしまっているんだろう。

 とは言え、かくいう私もさっき蒼灯さんに余計なことを言ったばかりだ。悪いのは全部、この水着ってやつなのかもしれない。


「む」

「おや」


 そんなことを話しつつ、浜辺を歩いていると。

 砂浜をのそのそと歩く魔物が一匹。甲殻と巻き貝の鎧を纏うそれを見て、蒼灯さんは顔をひきつらせた。


「ヤドカリですか……」


 白波のビーチに生息するヤドカリは、蒼灯さんにとっては因縁の相手だ。

 数ヶ月前、あの魔物に襲われた蒼灯さんは大怪我を負った。もしもあの時私が通りかかっていなかったら、きっと取り返しのつかないことになっていただろう。


「待ってて。すぐ、片付ける」

「いえ。白石さん、ここは任せてもらっていいですか」


 蒼灯さんは、腰に差したロングソードをすらりと抜いた。

 臆することなく彼女は前に出る。ヤドカリのハサミを弾き返し、続けざまに一閃。優美な刃は関節を断ち切り、ハサミを一本切り落とした。

 そのまま戦闘は危なげなく進む。次の攻防でもう片方のハサミも切り落とされて、ヤドカリは大きくよろめいた。


「凍れ」


 アイスブルーのシリンダーに魔力が通る。

 あのシリンダーは氷結城。氷塊を生成するというシンプルな性能ながら、攻めにも守りにも使える便利な魔法だ。

 瞬間的に生成された氷に閉じ込められて、ヤドカリは動きを静止する。ほぼ決着はついたようなものだが、蒼灯さんは手を緩めなかった。


「もいっちょ!」


 続いて彼女は、氷結城で自分の剣に氷をまとう。ロングソードをコーティングした氷は、ハンマーの形状をしていた。

 透き通る氷晶のハンマー。それを両手で操って、氷に封じられたヤドカリに豪快に叩きつける。


「わっせーい!」


 どんがらがっしゃん。

 氷が砕け、ヤドカリも砕ける。熱く焼けた砂浜に、冷ややかな氷の欠片が砕け散る。

 戦闘終了。氷晶のハンマーをくるくる回し、蒼灯さんは得意げにポーズを取った。


「どや」


 配信映えする、魅せる戦い。蒼灯すずの戦闘スタイルだ。


:なかなかやるわね

:GGEZ

:あの、今の氷結城なくても勝ってたと思うんですが

:使ったほうがかっこいいだろ!

:見栄えって大事だから

:配信者だからね、映えるに越したことはないんだよね

:慎めお前ら、お嬢の御前だぞ

:あっ

:違うんです! 今のはお嬢に言ったわけじゃないんです!

:僕は見栄えゼロで撲殺したっていいと思います!


 ……うるさいな。私だって、好きで撲殺してるわけじゃないんだよ。


「ま、こんなとこですかね。借りは返したってことで」


 魔法を解除し、蒼灯さんは剣を鞘に戻す。


「白石さん。私、そろそろ四層に上がれそうなんですよ」

「え、ほんと?」

「キャンプ場での実績が評価されて、昇格試験を受けることになりました。そこで合格すれば、晴れて四層探索者です」


:マジ?

:蒼灯さんついに四層か

:マジかよおめでとう

:ほぼソロで四層到達はヤバない?

:ちゃんとつえーんだよな、蒼灯さん


「純粋な戦闘力よりも、指揮やリーダーシップが評価されてのことですが、それでも四層は四層です。誰かとパーティを組めば、さらに上を目指せるかもしれません」


:え、パーティ?

:蒼灯さん、ソロやめるの?

:散々あちこちのパーティに誘われても断り続けた蒼灯さんが!?

:事務所からの勧誘も頑なに固辞してソロを貫いた、あのあおひーが……!?


「蒼灯さん。誰かと、組むの?」

「実は、あなたが復帰したら、その話をしようと思ってたんですよね」


 その時の蒼灯さんは、大事なことを打ち明けるような顔をしていて。

 思わず私も、ちょっとだけ緊張してしまった。


「白石さん。もしよければ、私とルリリスの三人で――」

「……あ」


 その時視界に入ったのは、ヤドカリの群れ。

 六体くらいの甲殻類が、わさわさとハサミを振り回しながら押し寄せてきていた。

 せっかく蒼灯さんが大事な話をしているのに、空気の読めない奴らだ。


「えと、ごめん。ちょっと、待ってて」


 返事も待たず、風走りを纏って飛翔する。

 今は水を差されたくない。速攻で終わらせよう。

 瞬間的な加速。剣に鋭い風を纏い、すれ違いざまに風刃を叩き込む。

 解き放った風の刃は、一撃で六体のヤドカリを薙ぎ払った。


:わぁ

:え、今の何?

:だから一瞬すぎてカメラが追いつかないんよ

:なんか倒したなってのはわかるけど

:お嬢また速くなってない……?

:だからあの、見栄えとかって

:お嬢にそんなもの求めるな

:諦めろ。これがお嬢だ、享受しろ


 以前はこのヤドカリを狩るのにも時間がかかっていたけれど、そんなものは昔の話だ。

 体内に魔力核を宿した今、私の魔力量は急増した。今の私なら、魔法の出力をちょっと上げれば、わざわざ関節なんて狙わなくても正面から切り裂ける。


「おまたせ」


 六体のヤドカリにきっちりトドメを刺し、蒼灯さんの下に戻る。

 合計戦闘時間四秒フラット。悪くないタイムだ。


「それで、話の、続きって」

「いやー……」


 蒼灯さんは、なぜだか乾いた笑みを浮かべていた。


「これはちょっと、四層探索者になったくらいじゃ、お荷物にしかならないかもですね……」

「え、と?」

「こっちの話です」


 遠い目をしていた蒼灯さんは、深く息を吐く。それから、覚悟を決めた顔をした。


「私、もっと強くなりますから。話の続きは、その時に」


:キャンセル入っちゃった

:マジかぁ、いいとこだったのに……

:やっぱヤドカリってカスだわ

:悪いの本当にヤドカリかなぁ

:お嬢は悪くないよ

:お嬢は強すぎただけだから……

:ほな誰が悪いんや?

:俺ら

:ごめんなお嬢、俺らが不甲斐ないばっかりに……

:そうかな……そうかも……


 ええー……。

 よくわかんないけど、私、悪いことしたのかなぁ……。

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― 新着の感想 ―
こういう潔癖症にならないために、男も女もとっとと初体験済ませとけ、って事なんだろうなぁ…
揺れることちちの如し
>やっぱヤドカリってカス 為為為 <ショボーン
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