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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
八章 今週の白石さんはおやすみです
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「まあ、金で買えるなら安いもんだよ」

 九重工房、応接室にて。

 九重さんは、テーブル越しに頭を下げていた。


「すみません……。迷宮で見た姿と随分違っていましたから」


 これ、ただの私服なんだけど、そんなに違うかなぁ……。

 リスナーといい、九重さんといい、ただの私服で妙な反応をしてくれる。私が普通の格好してるのが、そんなにおかしいのだろうか。


「白石さんって、普段はそんな感じなんですね……?」

「そんな感じ、とは」

「こうしてみると、まるで普通の女の子みたいだなって」

「……違うの?」

「……すみません、忘れてください」


 どんなイメージがついているのか知らないけれど、私は私だ。どこにでもいるような普通の人だ。そうじゃなければなんだって言うんだ。


「それで、えと。お仕事の、お話、なんだけど」

「あ、はい。本日はどういったご用件でしょう?」

「新しい武器を、作ってほしくて」


 用件を切り出すと、九重さんの表情が仕事人のそれに切り替わった。


「なるほど、武器。どういったものをお求めでしょうか」

「えっと、その……。つよい、やつ」

「具体的には?」

「えっと……。すっごく、つよいやつ……?」

「……こっちから質問してもいいですか?」

「……おねがい、します」


 私に説明させても埒が明かないと思ったらしい。誠に遺憾ながらその通りだ。

 いくらかのヒアリングを受けること、しばらく。


「なるほど。殺傷能力に特化した、大型の武器、と……。メインウェポンを更新したいということですか?」

「ううん。メインで使うのは、今の剣のままに、するつもり」


 私の剣、オジョウカリバー四十二世を捨てるつもりはない。

 性能としてはそこそこだけど、あの武器のことは気に入っている。壊れるまでは大事に使うつもりだ。

 だけど、愛着だけじゃ、為せないこともあるから。


「ほしいのは、リーサルウェポン」


 そのための力を求めて、私はここに来た。


「重くても、いい。使いづらくても、いい。取り回しが、悪くても、いい。六層の魔物を、引き裂けるような、そんな武器がほしい」


 呪禍戦で終始障害となったのは、頑強すぎる装甲だ。

 六層魔物の魔力量で強化された魔力装甲は、並の武器ではほとんどダメージが通らない。今後も六層級を相手するなら、今の武器では力不足だ。


「六層魔物の装甲を貫く強力な武器……。それは、まさしくリーサルウェポンですね」

「えと……。難しい、かな?」

「……少し、ここで待っていてください」


 九重さんは工場の奥へと引っ込んでいく。

 それから少しして、とても大きな黒いケースを、台車に乗せて持ってきた。


「白石さん。これからお見せするものは、技術研究のために製作した特殊な武装です。くれぐれも他言無用でお願いします」


 台車に乗せたまま、九重さんはケースのロックを外す。

 重厚な蓋がゆっくりと開き、黒光りする大鎌が姿をあらわした。

 全長にして二メートルはあるだろうか。すらっとした柄に、大きく反った巨大な刃。

 その刀身から放たれる、物々しい気配には、見覚えがあった。


「九重さん、これって……」

「刀身は呪禍の刃からできています。残存していた鎌を回収し、研ぎ上げて作りました」

「呪禍の、刃……」


 呪禍の刃のことについては聞いていた。

 私が呪禍を討ったあと、体の一部が奇跡的に残っていたらしい。推測をするなら、最後に放った輝く風によって呪禍体内の魔力が消滅し、生命力を使い果たしていなかった一部が素材化したのだろう。

 探索者協会が回収したその鎌は、一応私に所有権があったらしいけれど、魔物素材の研究に使いたいと連絡があったので、「あげます」と返事をしておいた。

 その後、九重さんの手に渡ったってことらしい。


「素の状態でも切れ味は超硬度チタンブレード以上。魔物武器としての性質もあり、魔力を通せば切れ味はさらに跳ね上がります。魔力伝導率も非常に良好です。殺傷能力という点において、この鎌は比類なき力を誇るでしょう。ですが……」


 一瞬、九重さんは言い淀む。


「おそらくこれは、魔剣や妖刀に類するものです。僕自身、こんなものを世に出していいのか迷ってもいる。扱いを間違えれば身を滅ぼす、極めて危険な力であることをご理解ください」


 九重さんの説明は、話半分にしか入ってこなかった。

 滑らかに反った刀身は、夜のように黒く静かだ。しかし、軽く指を触れると、つんざくような叫びが聞こえてくる。

 この刃は飢えていた。腹が減ったと、魔力をよこせと、かきむしるように叫んでいた。

 なるほど。

 たしかに、魔剣妖刀と並べるだけはある。


「あの、白石さん……?」

「あ、うん」


 指を離す。

 節操のないやつだ。ちょっと触れただけなのに、指先から魔力を吸い上げられた。


「この鎌、名前は?」

撫斬首落(なでぎりくびおとし)、と」


 物騒な名前が誇張ではないことは、見ればわかった。

 破滅的な刃だ。扱いを間違えれば、きっと災いを引き起こす。

 それでも私が求めていたのは、こういう力だ。


「もらってく」


 私には力がいる。もっともっと、力がいる。

 飢えているのは、私も同じだ。


「……わかりました。あなたがそう言うのであれば。では……」


 九重さんは、真剣な面持ちで続けた。


「お値段、三十億円になります」

「ちょっとまって」


 さんじゅうおくえん。

 今の話、一旦全部なかったことにしてもいいか。そんな言葉が、思わず口から出そうになった。


「……さすがに、ですか?」

「さすがに、です」

「ですよねぇ」


 探索者基準でも高すぎることは、九重さんでも自覚があったのか。彼はバツの悪そうな顔をしていた。


「なら、退院祝いと呪禍討伐割引をつけて、二十億でどうでしょう」

「そ、それでも、二十億……」

「ちなみにこれ、赤字すれすれの限界価格です」


 ……二十億なら、ギリ、出せなくもない。

 かろうじて現実的なラインだ。趣味で買ったシリンダー――面白い魔法だけど実用性は限りなく低いやつ――を何本か売れば、なんとかギリギリ手は届く。

 探索者として生きてきた中でも、ぶっちぎりで高いお買い物。

 迷ったけれど。散々迷ったけれど、最後には、うなだれるように頷いた。


「…………買い、ます」

「なんか、すみません……」

「謝らないで……」


 これ、さすがに経費じゃ落ちないよなぁ……。

 というか、こんな危ないもの買ったってバレたら、普通に怒られそうだし……。日療の人には黙っておこう……。


「こちら、サービスの鞘になります」


 私がうなだれていると、九重さんは小箱をテーブルに置く。

 その中には、シンプルなデザインのアクセサリが入っていた。


「次元リングです。魔力を通すと次元の隙間が生まれ、内部に物を格納できます。鞘代わりに使ってください」


 サービスとは言うが、これ一つでたぶん一億はする。

 気前の良すぎるサービスに、さすがにちょっと気が引けた。


「えと……。赤字に、ならない?」

「ちょっと赤字ですけど、これくらいのサービスはしますよ。技術研究という目的こそ果たしたものの、簡単に売っていいものでもないですし、どうするか困ってたんですよね。正直、白石さんが買ってくれて助かりました」


 当然だけど、武器を作るのもタダじゃない。魔力加工には大量の魔石を消費するし、その分コストもしっかりかかる。

 そんなものを買い手もなしに作ってしまうあたり、この人もなかなか変な人だった。

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― 新着の感想 ―
呪禍の爪の鎌剣……、必殺「猫爪!」にゃー!!!!
にじゅうおくえんブレード(正式名称忘れるレベル)
(・w・)白猫は殺意の波動を手に入れた!滅殺!!
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