なんかほしがってない?
「白石さん。お気づきかと思いますが、CUREシステムには欠点があります」
「え」
配信を終わって、片付け中のこと。
営業用のスマイルを取り下げた三鷹さんは、そう切り出した。
「救助協力者の質はまちまちです。救助者として登録する前に、ある程度素質を確認し、講習や訓練なども受けてもらってはいますが、それだけで完璧に仕上がるとは言えません」
「え、あ、はい。そう、ですね……?」
「この仕事がただのアルバイトなら、失敗してもなんとかなります。ですが、これは命を預かるお仕事です。些細なミスが取り返しのつかない結果に直結しかねない。そういった事態を避けるために、専門家が救助協力者を監督する必要があります」
そ、そう、なのかな……?
当然お気づきですよね、みたいな感じだったけれど、当然言われてはじめて気がついた。
「その専門家というのが私たちです。なので、あなたには救助協力者たちの指揮権があることをお伝えしておきます」
「え、わ、私が、指揮を、やるんですか……!?」
「ええ、状況によっては。ですが、基本的には真堂さんたちオペレーターが監督にあたりますし、現場指揮が必要な場合は、もうひとりの迷宮救命士さんにお任せしようと思っています。なので、実際にあなたが指揮を執ることは少ないでしょう」
あ、そうなんだ。ならよかった……。
最近、二人目の迷宮救命士が日療に所属したことは、なんとなく噂に聞いていた。私がいない間は、その人が頑張ってくれているんだとか。
まだ顔を合わせたことはないけれど、どんな人なんだろう。現場指揮を任されるなんて、コミュ力がとっても高い人だったりするのかもしれない。
……仲良くできるかなぁ。
「もうひとりの、迷宮救命士って、どんな方、なんですか?」
「とってもいい子ですよ。きっと、あなたともすぐ仲良くなれると思います」
「えと、お名前は?」
「七瀬さんという方です」
七瀬さん……?
最近、どこかでそんな名前を聞いたような……。
もしかしたら、以前関わったことがあるのかもしれない。だけど、私の対人記憶能力は壊滅的だ。すぐには思い出せそうになかった。
「まあ、会えるかどうかは、彼女次第かもしれませんが」
「?」
三鷹さんは、少し含みのある笑みをしていた。
「ともあれ、最近の救助体制はそんな感じです。先ほどの説明で、なにかご不明点はありますか?」
「あ、えと。大丈夫、です。私も、その、クエストボードから、依頼を受けたら、いいんですよね?」
「ああいえ、あなたは違いますよ」
「……へ?」
「あなたには、通常の救助協力者には対応が難しい依頼を優先して受けてもらおうかと思っています。いわゆる、特殊任務ってやつですね」
「と、特殊任務……?」
「難しく考えなくていいですよ。具体的なことは、これまでどおり真堂さんが指示を出します。ちょっと難しめの依頼ばかりになりますが、あなたからすれば普段とそう変わらないでしょう」
特殊任務かぁ……。
よくわからないけれど、私は今まで通り真堂さんに指示をもらうらしい。そう言われると、安心するような、やっぱり緊張するような。
まあ、なんだっていいか。どういう形であれ、人を助けることには変わらない。やれと言われるならやるまでだ。
「三鷹さん。私、早く、復帰したいです」
「やる気十分ですね。早めに退院できるよう調整しているので、もう少しだけお待ちください」
片付けも終わり、そんなことを話しながら廊下を歩いていると。
向かいから、見覚えのある顔がやってきた。
「あ」
「む」
顔を合わせて、思わず立ち止まる。
すらっとした白衣を着込んだ、不機嫌そうな男の人。鋭い目つきからは、惜しげもなく威圧感が放たれている。
「あら、真堂さん。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。こんなところで会うとは奇遇だな」
先んじて、三鷹さんが彼に挨拶する。
彼の名前は真堂司。私のオペレーターを務めてくれている、顔が怖めのお兄さんだ。
「久しぶりだな、白石くん」
「し、真堂、さん。お、お久しぶり、です」
「なぜ緊張する」
「いや、その、だって……」
呪禍との一件以来、真堂さんとこうして話すのは初めてだった。
昏睡中はお見舞いに来てくれていたと聞いたけれど、目を覚ましてからはさっぱりだ。
直接話すことも、何かでやり取りすることもなく、向こうが私を避けてるんじゃないかってくらいに、一切の接触がなかった。
となると、さすがに私も心配になる。
もしかすると、この人を怒らせちゃったんじゃないかって。
「白石くん」
「は、はいっ」
険しい顔のまま、真堂さんが一歩近づく。
やっぱり怒られるのか。びくびくしていると、真堂さんはおもむろに口を開いた。
「聞いたぞ。君、病院を抜け出して、勝手に救助にいったそうだな」
「は、はい……。えと、その、すみません、でした……」
「…………」
真堂さんは軽くため息をついて。
「あまり無茶をするな」
それだけ言って、立ち去っていった。
来たときとまったく同じ足取りで、彼はまっすぐに廊下を歩いていく。その後ろ姿を、私は呆然と見送った。
「え……。え、え、ええ……?」
え、あれ、それだけ……?
お説教は……? お説教はないの……?
「あ、あの、三鷹さん……?」
「はい。どうしました?」
「え、えと、その。真堂さんって、怒ってるん、ですよね……?」
「さあ、どうでしょうね」
混乱する私をよそに、三鷹さんは一人、楽しそうな顔をしていた。




