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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
八章 今週の白石さんはおやすみです
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白石楓のいない救助対応(いる)

 当然のように救護テントに入り、当然のようにくつろぎはじめた山田の服の袖には、当然のように赤い腕章がくくりつけられていた。

 この腕章は、私や白石さんの白衣の袖にある腕章と同じもの。日療公認の救助者であることを示すものだ。

 つまりはこいつも、私の仕事仲間だったりする。


「? 何見てるんです?」

「いや、つくづく不思議だなって」


 回復魔法が使えないこいつは、本職の迷宮救命士ではない。

 彼女の身分は救助協力者。回復魔法を使わない範囲で、日療の救助活動に協力する、民間の探索者だ。


「なんで山田も救助者になったんだ?」

「え、七瀬さんが迷宮救命士になったからですけど」

「進路先、友だちと同じにしちゃうタイプかお前」

「いやだって、しょーがないじゃないですか」


 山田は靴を脱いで、テントに設置されたソファに寝転がった。

 完全にオフモードだ。おそらく配信も蓋絵にしているんだろう。山田は時々、自分の配信に蓋をして、こんな風に休憩を取る。


「騎士の魔法は、七瀬さんの側じゃないとフルパワーが出せないんです。それなら同じ仕事するしかなくないですか?」


 騎士の魔法。私との間に結んだ誓約を守ることで、様々な恩恵を得られる特殊な魔法だ。

 身体強化、魔力の共有、ダメージの肩代わりなど、恩恵の種類は多岐に渡る。その一方で、代償はとてもシンプル。

 誓約を破ったら、山田は死ぬ。

 すなわち、私が死んだら山田も死ぬ。そんなおっかない魔法のせいで、私と山田は半強制的に一蓮托生になっていた。


「それに、やってみると案外悪くないんですよね、人助け」

「へえ、なんかいいことあった?」

「いやこれ、めちゃくちゃ数字になるんですよ」


 こいつ、真顔で言いやがった……。


「おい山田」

「人助けって名目で自然に人と絡めるし、配信的な見どころも作れるし、恩も売れるし、視聴者ウケもバカいいし。しかも、助けた相手が大手だったりしたら視聴者数倍ドンですよ倍ドン」

「山田。その辺にしとけ」

「クリーンな知名度が荒稼ぎできるんですよねー。そりゃ短期的には探索したほうがお金になりますけど、長期的な目で見ると人助けした方が絶対お得です。ああ、早く次の救助要請来ないかなぁ!」

「お前、言っとくけどうちの配信に音声乗ってるからな」

「…………っていうのはぜーんぶ嘘です! 誰かの笑顔を守るため、山田林檎はがんばります!」

「おせえよ」


:ほんまこいつ……

:悪意のある切り抜きを作るまでもない

:山田ってなんでこんな調子で炎上しないの?

:しょっちゅう燃えてるよ

:実は山田の配信って、かなりの頻度で地獄みたいになっててぇ


 山田の言うクリーンな知名度ってやつが、リアルタイムでゴリゴリと下がっていた。

 別に、救助者は聖人君子でなきゃいけないなんて思わない。見返りのために人を助けたっていいと思う。それで救われる人がいるのなら、きっとそれも一つの正義だ。

 だけど、不用意に人を刺激する必要はない。仕事を円滑に回すには、時には建前ってやつも必要だった。


「ちょっと、七瀬さん……! 休憩中は配信に乗らないようにするって言ってたじゃないですか……!」

「今設定するとこだったんだよ。ちゃんと確認しないお前が悪い」

「や、やばい、どうしよう。もう炎上したくないですよぉ……!」

「諦めろ。それはお前の宿命だ」

「七瀬さぁん……!」


:まあ、山田が燃えるのもいつものことか

:燃えすぎて視聴者からも諦められた女

:正直今さら感はあるよね

:これくらいの燃料だと二日もしないで鎮火するよ

:炎上ソムリエいない?


 しょうがないな、私の配信にも蓋しとくか。

 この救護テントは救助者たちの休憩所にもなっているので、誰かが休んでいる時は配信に蓋をするようにしていた。

 まあ、今回は間に合わなかったわけだけど。


「じゃあお前ら、一旦蓋するわ。山田は裏で絞っとくから、あんま燃やさないであげて。また後で――」


 と、配信用のアプリケーションを操作しようとした時。

 私と山田のスマートフォンに、同時に通知が入った。


「む」

「わ、救助要請ですよ、七瀬さん」


:おや

:おっと

:来たか


 スマホに届いた通知から、新着の救助要請を確認する。情報に手早く目を通して、ある箇所で私は顔をしかめた。

 迷宮四層。救助対象の位置座標だ。


「四層か……」

「どうします? 行きますか?」


 私は三層探索者で、山田は二層探索者だ。

 四層に行ったところでできることは限られる。無理に助けに行こうものなら、私たちが要救助者になりかねない。

 こんな時、白石さんがいれば。そんな考えが頭をよぎる。

 あの人は今ここにはいない。呪禍との死闘から一ヶ月、彼女はまだ病院にいる。頼るわけにはいかない。

 それなら、私は。


「行ってくる。山田はここで待ってて」


 直接救助には行けずとも、遠隔でのサポートならできるかもしれない。そう考えた私は、ジュラルミンケースから自分の義手を引っ張り出した。


「お供しますよ、主様」


 らしくなく、落ち着いた口ぶりで山田は言う。

 主様。その呼び方をする時は、彼女が本気を出す時だ。


「……いいけど、死ぬなよ」

「私が死ぬとしたら、主様を守れなかったその時です」


 騎士の魔法は誓約を厳密に守るほど効果が高まる。相変わらず聞き慣れない口ぶりにも、一応意味があることだった。

 義手をはめ、転移魔法陣を使って四層に移動する。瞬間、乾いた砂の匂いが、ひりひりと鼻の奥を焼いた。

 砂漠迷宮サンドミラージュ。

 果てしなく続く砂漠と、強烈な日差しが敵となる険しい迷宮だ。


「あつっ……」

「山田、無理するなよ。きつかったらすぐ撤退しろ」

「だ、大丈夫、です……!」


:ガチ砂漠じゃん

:ここムズいんだよな、環境きついし魔物も強いし

:足を踏み入れるものを容赦なく殺しに来るタイプの迷宮

:それはすべての迷宮がそうなのでは?

:四層に比べればこれまでの階層なんてかわいいもんよ

:なお五層探索者曰く、五層に比べれば四層なんてピクニックみたいなもんらしい

:迷宮こわ


 気温はゆうに四〇度を越えている。対策なしでは、探索者の身体でも長くは持たない過酷な環境だ。

 手早く終わらせよう。私はインカムのミュートを解除し、救助者用のボイスチャンネルに呼びかけた。


「四層の救助要請、誰か対応できる?」

「今向かってます。七瀬さん、回復魔法の用意をお願いできますか?」

「わかった。気をつけて」


 応答したのは、四層探索者を中心に結成された救助協力者のパーティだ。

 実力も高く、救助実績も豊富にある、エース級のパーティだ。今この状況では、これ以上の戦力は望めないだろう。

 送信されてきた画面共有で状況を見守る。ほどなくして彼らは救助地点に到達し、周囲の魔物を打ち払っていった。


:危なげないな

:さすがに四層探索者にとっては慣れたもんか

:問題なさそうね


 これなら私の出番はなかったかな、などと思っているうちに戦闘は終わる。

 岩場の裏に隠れていた要救助者も、負傷はあるけれど致命傷ってわけではなさそうだ。


「状況終了。これより、転移魔法陣まで要救助者を搬送します」

「お疲れ様。戻って来るまで、支援の用意はしておくから」

「了解です」


 ふう、と一息。何事もなく終わってよかったと、気を緩めたその時に。

 共有された画面が、激しく揺れはじめた。

 食い入るように映像を見る。画面の向こうでは、足元に広がる砂の下から、巨大な何かが大地を突き破るように這い出した。

 赤黒い体表を持ち、空へと挑みかかるようにそびえ立つ、見上げるほどに巨大な――イモムシ。


:うわああああああああああああああああ

:GDWだああああああああああああああああ

:でっっっっっっっっっっっか

:GDW先輩! GDW先輩じゃないか!

:なにそれつよいの?

:砂漠のアイドル、ジャイアントデスワーム先輩だよ

:バカでかくてアホほど強いファッキンうんこ通常モンスター

:通常モンスター!?

:このデカさでボスじゃないマジ?

:個体数そこそこあります

:複数体同時に出現することもあります

:ちなみに生息域は砂漠全域

:おい嘘だろ、こんな化け物がぽんぽん出てくるのかよこの階層

:迷宮こわすぎ


 数多の脅威が渦巻く迷宮四層でも、ジャイアントデスワームはその筆頭格にあたる。

 そんな存在と、救助者たちの接敵。想定する中で最悪のケースだった。


:大丈夫、GDWは目が悪いから

:静かにしてたら、結構簡単にやり過ごせる

:へー、そうなんだ

:巨体の割におっちょこちょいなのがアイドルたるゆえんよ

:ならあの魔物は何で索敵してるんだ?

:音と匂い

:戦闘音と血臭を嗅ぎつけてくるんだってさ

:え、それってやばくね?


「七瀬さん、回復魔法を」


 救助者パーティのリーダーである青年が、ささやくように言う。


「すぐに要救助者の血を止めてください……!」


 そうだ、血だ。ジャイアントデスワームは血の匂いを嗅ぎつける。

 急いで回復魔法のシリンダーに魔力を通す。遠隔発動した魔法陣は、狙い通りに要救助者の足元に展開された。

 今回は一発で上手くいったが、状況は予断を許さない。

 地脈活性・命陣は即効性に欠ける。加えて、遠隔発動だと回復力も限定的だ。すぐに血が止められるわけではない。


「止血まで少しかかる! 三分稼いで!」

「無茶ぶりですけど、了解……っ!」


 救助者のパーティは、覚悟を決めた顔で得物を抜く。

 ジャイアントデスワームは正面から戦うとなると凄まじい強敵だ。時間を稼ぐだけでも厳しいことは承知している。

 最悪の場合、二次被害という可能性だって――。


 魔法の制御に集中しつつ、どうするべきかを考えていた、その時。

 四層入口に設置された転移魔法陣に、誰かが転移してきた。


「はじめます」


 つぶやいて、その誰かは魔法を放った。

 暴風で砂を激しく巻き上げながら、空に舞う小さな影。

 視界を覆う砂煙の中、救助現場の方角へと飛翔していく背中には、風にはためく白衣が見えたような、そんな気がして。


「七瀬、さん……っ! マジきついんすけど、三十秒縮められませんか……!」

「……あ、いや。もう大丈夫っぽい」


 通信に入ってきた切羽詰まった報告に、間の抜けた声で答える。

 あの人が来たなら大丈夫だ。状況はすでに終了していると言っていい。

 もうしばらくは療養だと聞いていたのだけど、ひょっとして病院を抜け出してきたのだろうか。

 相変わらずというか、なんというか。それでこそ、というべきか。


 ほどなくして、彼女が現場に降り立った。

 吹きすさぶ砂塵の中で、彼女は砂漠の暴君に臆することなく相対する。

 たなびく白衣に、真紅の腕章。

 丸い手足と、ふんわりとしたボディ。

 そして、ほどよく手抜きされた顔の――ねこのかぶりもの。


「にゃー」


 ねこだった。

 白衣を着たねこのきぐるみが、にゃーと鳴いていた。

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― 新着の感想 ―
あーうん。40℃ってそれ程でも無いよ? 探索者でもない一般人の鋳物屋の感想でした
白猫石さん何やってるんすか。
 にゃー。可愛いじゃないか(*´-`)(※ただし説教は不可避)
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