表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
八章 今週の白石さんはおやすみです
85/131

あんなドシリアスを毎回やってたら身が持たないので、どうか休憩回をやらせてほしいという願いが詰まった章の一話目

 #25-EX 【ほぼ待機画面】先に言っとくが撮れ高はない【七瀬杏】


 吾輩は七瀬である。

 名前は杏。売れない探索者だ。


 先月私は、二層探索者キャンプ場にて巻き起こった一連の騒動の渦中にいた。

 人の輪の端っこで、自分にできることを探していた。必死になって意地張って、泥臭くともあがき続けた。

 過去が思い出になるには早すぎるけれど、あの日々のことはよく思い出す。

 あのキャンプ場で、私は多くのものを得た。

 夢を得て、矜持を得た。大切と言うには少々癪だが、友も得た。

 失ったものもあるけれど、それとは比べ物にならないくらいに、本当にたくさんのものを得た。


 たとえばその一つが、職。


 吾輩は七瀬である。

 名前は杏。売れない探索者だ。

 加えて今は、白衣に袖を通して、迷宮救命士をやっている。


 ……のは、いいんだけど。

 迷宮救命士の実態ってやつは、思っていたものとちょっと違った。


「七瀬さん! 要救助者の出血多量! 迷宮一層、所定の座標に回復支援をお願いできますか!」


 インカム越しに、探索者から通信が届く。不定期に届くこの通信が、私の仕事の合図だ。

 転移魔法陣を使って迷宮一層に移動する。

 スマホに送信されてきた位置座標を確認し、おおよそのあたりをつけて、シリンダー――魔術回路を内蔵した、円筒形の魔道具――に魔力を通した。


「回復魔法、展開するよ」


 行使する魔法は、地脈活性・命陣。

 超広範囲を特徴とする、地属性の回復魔法だ。


「展開した。どう?」

「惜しい……! もうちょっと左です!」

「難しいんだよ、これ」

「画面共有送ります!」


 送信されてきた映像には、腹部から出血している要救助者と、それを手当する救助者たち。そして、二メートル横に展開された回復魔法陣が映されていた。

 画面共有を見ながら魔法を微調整。魔法陣の位置を横にずらし、要救助者の足元に展開しなおす。


「止血確認。バイタルサインも安定しました。もう大丈夫です。ありがとうございます、七瀬さん」

「搬送に応援はいる?」

「一層なら私たちだけで十分です!」

「了解。ありがとう、気を付けて」

「はい!」


 以上。

 私の仕事は、これで終わりだ。


:うーんこの

:たしかに手っ取り早いんだけど

:なんかその、なんかね

:七瀬くん、君さぁ……


「なんだよ、何が不満だよ」


 不満そうなリスナーたちをあしらいながら、転移魔法陣を使って二層に戻る。

 迷宮二層、樹海迷宮エバーリーフの入口。

 回線中継用の電波塔の隣に設置された、日本赤療字社の救護テント。ここが私の定位置だ。

 テントに戻って椅子に座り、持ち込んだラップトップで今の救助活動についてのレポートを書く。今やる必要はないんだけど、さっさと済ませちゃう方が好きだった。


:救助活動ってこういうもんだっけ……?

:もっとこう、びゅんびゅん飛び回って、ばったばったと斬り伏せて、じゃんじゃか助ける感じだったような

:それができるのは白石さんだけかも

:でもまあ言いたいことはわかる

:七瀬お前、本当にこれでええんか?


「いいでしょ別に。文句あるか」


 左手一本でキーボードを叩きつつ、片手間にリスナーのコメントに目を通す。

 今日も文句の多い奴らだ。何かとケチをつけるのが、彼らの生きがいなのかもしれない。


:まあ、移動魔法が使えない七瀬に、あちこち走って助けろってのも無理があるけど

:転移魔法陣に陣取って、遠隔で回復魔法だけ飛ばすのはちょっと違くない?

:回復魔法固定砲台がよぉ

:お前の救助にはあたたかみがない


「ほっとけ」


 地脈活性・命陣は効果範囲を武器とする回復魔法だが、射程だってかなり長い。うまく使えば数キロ離れた箇所に遠隔展開することだってできる。

 それなら私は転移魔法陣の近くに待機して、救助要請に応じて各層に移動し、遠隔で回復魔法を飛ばした方が良いのでは。

 そう考えて行き着いたのが、このスタイルだった。


:撮れ高がないんだわ撮れ高が

:劇的な救助とは言わないけどさぁ、もっとこう、スパイスというかなんというか

:画面の変化がなさすぎる

:七瀬お前、効率だけを追い求めて人生楽しいか?


 うっさいなこいつら……。

 別にいいだろ、成果は出てるんだから。何が悪い。


:真面目な話、七瀬はそれでいいの?

:これだとあんまり探索できないでしょ

:さすがに退屈じゃない?


「最近は探索したいって感じじゃないしなぁ。腕もないし」


 右腕を軽く持ち上げて、ドローンカメラに晒す。

 私の白衣の右袖は、中程からぺったりと折れている。この中に本来あるべき腕はない。

 ここに入っていたものは、あのキャンプ場に意地と引き換えに置いてきた。


:義手はどしたの

:探索者用の頑丈なやつ、日療から支給されたんじゃなかったっけ

:義手つけてたら戦えるんでしょ?


「そこにあるけど」


 カメラの画角をちょっとずらす。テントの片隅に、義手が入ったジェラルミンケースが無造作に転がっていた。


「あれ重いし蒸れるんだよね。基本、あんまつけたくない」


:蒸れるから外した……?

:お前ここ迷宮やぞ

:片腕で危険地帯をうろつくな

:こいつやってることが白石さんに似てきたな

:そういうところは憧れなくていいんだわ


「大丈夫大丈夫。そもそも危ないことしないから」


 まとめ終わったレポートを送信して、ラップトップを閉じる。

 救助対応と言ったって、そう頻繁に来るものでもない。忙しい時は忙しいけれど、そうじゃない時間も結構ある。

 ので。今日は、持ち込んだ本を読むことにした。


:おいこいつ本読み出したぞ……

:リスナーほっといて読書するな配信者

:せめて俺らをかまえ七瀬

:なあ七瀬、何の本読んでんの?


「参考書だけど」


:さささささ参考書!?

:お前、まさか勉強してるのか……?

:やめてくれ、俺は参考書を見ると急激に眠くなる体質なんだ

:勉強という突然のリアルにうろたえるリスナーたち

:どうした七瀬、頭でも打ったか?


「いや、救急救命士の資格ほしくてさ」


:めっっっっちゃくちゃちゃんとした理由じゃん

:そこまで真剣なの出されるとこっちとしても茶化せないんだわ

:くそっ……さすがにそれは邪魔できねえ……

:わかった七瀬、今回は俺らの負けでいい


「なんでちょっと悔しそうなんだよ」


 雑談半分に参考書をめくる。

 勉強という体ではあるけど、実はそこまで頑張っているわけではなかった。

 救急救命士の資格試験を受けるには数年の実務経験が必要だ。勉強は必要だけど、それだけで取れる資格ではない。

 とは言え、配信的に口数が少なくなることには違いなく。


「一応配信はつけてるけど、お前らも他枠行っていいんだぞ?」


:いやあ、それはね

:野暮なこと言わせんなよ七瀬

:行ってもいいし行かなくてもいい、それが自由ってやつだから

:我々には七瀬の配信にクソコメを書く権利がある

:俺も配信見ながらレポートやるかぁ……


 とまあ、適当にリスナーの相手をしつつ、参考書のページをめくっていたら。


「ただいま戻りましたー!」


 テントに踊り込んできた一声で、私の勉強時間は強制終了させられた。


「山田林檎、帰投いたしましたよー。七瀬さんはご無事ですかー?」

「はいおかえり。何か問題あった?」

「大丈夫でしたよ。何事もなく、きっちり救助してまいりましたとも」


:でたわね

:またうるさいやつがきたな

:さよなら俺らのチルタイム

:短い勉強時間だったなー


 彼女の名前は山田林檎。

 あのキャンプで出会った、奇妙な知己だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ただ第一層なら初心者の魔力中毒のリスクがあるから詳細把握なしでの遠隔回復は危険だよね
呪禍が死んだなら傷口の回復魔法を吸収することもできないし、もう一度回復魔法かけたら腕生えてこないだろうか。生えてきてほしい。
範囲広すぎぃ!真堂さんの理想的には七瀬の方が適合してるの草
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ