表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
七章 どんな空だって、澄み渡る青空に変えていけるよ。
84/131

「おめでとう、君は合格だ」

 #?? ゆめ


 夢を見ていた。

 きっとこれは、夢を見ていた。

 真っ白な空間に私はいた。上下の別はなく、ただ白いだけの空間がどこまでも広がっていた。

 そこに、純黒の石があった。

 石がどくりと脈動すると、白い空間に黒が滲む。その度に、心臓のあたりがずきずきと痛んだ。


 あれは、ルリリスの――。

 違う。

 私の、魔力核だ。


 どれほど抑えようとしても石は脈動をやめない。そのたびに黒は溶け出して、白い空間を侵食する。

 私という生き物が作り変わる。幼虫からサナギへ。サナギから蝶へと羽化するように。

 それは、とてつもない苦痛をともなっていて。

 とめどない激痛が体を焼く。私はそれを、うずくまって耐えていた。


「やあ、こんにちは」


 気づけばそこに、少年がいた。

 不思議な少年だった。髪は白く、目が赤い。それくらいしかわからない。

 ピントがボケたように、彼の姿はうっすらとしか認識できなかった。


「力を求めるのは人の性だ。それなら、身に余る力を求めるのは人の業だね」


 少年は言う。

 穏やかに、微笑みながら。しかしその赤い瞳の奥底には、底しれぬ深淵を感じさせた。


「それでも君は力を求めた。そういった渇望は、僕たちにとって最も慣れ親しんだものだ」


 曖昧な夢の中、少年の言葉だけが明瞭に響く。

 苦痛に身を焼かれながらも、彼の言葉は不思議なくらいに頭にすっと入ってきた。


「僕たちは誰だって、譲れない何かのために、身を滅ぼすほどの力に手を伸ばさずにはいられなかった。そしてどうやら、君はそんな僕らの同類らしい」


 悪友を慰めるような、同情混じりの言葉。

 口調は優しい。その言葉が意味するところとは反対に。


「この先君が、何を望み、何を求め、何を得るかは君の自由だ。だけどもし、君がさらなる力を求めるのなら、その時は微力ながら手を貸そう。こんな風にね」


 少年は手をかざし、すっと、空を掴むような仕草をする。

 その瞬間、力の奔流が収束する。空間に滲み出した黒が、逆再生のように魔力核へと戻っていく。

 魔力核は脈動をやめる。苦痛が消え、荒い息を吐きながら、私はゆっくり立ち上がった。

 彼は……。この少年は、一体、誰なのだろう。


「君のファンだよ」


 口にした覚えはない。しかし彼は、思考を読んだように答えた。


「と言っても、それじゃ不足か……。そうだね。なら、こうしよう」


 少年は楽しげに、口元を緩ませる。


「それじゃあ、見せてもらおうか。君には期待しているよ」


 どこかで。

 どこかで、その言葉を、聞いた覚えがあるような気がした。


「名称としては不足だね。僕なら“迷宮喰らい”と名付けるかな」

「呪い禍つ外なる獣。あれは迷宮の天敵だ」

「僕もおすすめしないかな。今の君が挑んだって、勝つのは難しいだろう」

「焦ることはない。君たちが魔力に出会って、まだほんの十五年しか経っていないんだから」

「その力は特異なものだ。君が思っている以上にね」


 どこで聞いたのかはわからない。

 だけどその声は、ずっと聞こえていた。


「話せることを話そうか。少しでも後悔しないために」

「考えたところで結果は変わらない。遅かれ早かれ、君は決断を下すだろう」

「爪牙は念入りに研ぐといいよ。すぐに必要になるからね」

「眩むこともある。踊ることもある。大事なのは、そこにどんな意味を見出すかじゃないかな」


 リスナーたちのコメントか。あるいはキャンプ場の雑踏か。

 どことも知れない場所で、私はその言葉を無意識の内に聞いていた。


「人の営みは愛おしい。中には理解に苦しむものもあるけれど」

「時が満ちれば幕は上がる。後悔があろうと、なかろうと」

「わかっていただろう。賽はとっくに投げられたんだ」

「君が選んだのは茨の道だ。僕としてもおすすめしない。歓迎はするけどね」


 楽しそうに。


「おめでとう、君は合格だ」


 彼は言う。


「君は資格を示した。迷宮の果てまで来るといい。もしも君が望むなら、僕らは君を迎えよう」


 気づけばここに、たくさんの人がいた。

 男がいた。女がいた。老人がいて、子どもがいた。

 そのほとんどは少年と同じように、姿形がよくわからなかったけれど、誰もが恐ろしいほどの力を持っていた。


「僕たちは“英雄”。願いのために身を焼いた、大馬鹿者の集まりさ」


 英雄という言葉には、特別な意味がある。

 それは華やかで、きらびやかで、燦然と輝いていて。そして、固く封じられた禁忌でもあって。


「白石楓。君は、英雄になるだろう」


 少年は告げる。

 祝福か、あるいは呪いか。

 その言葉が意味するものを、私はまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こいつ……話題を全て回収していったぞ……。作者本人? いやな訳……
日本赤療字社の偉い人(怪物?)が、「白石くんには英雄の素質がある」みたいな事を言っていましたが、そこら辺のきれいに回収しててとりはだでした。
あのサブタイトルは神鳥ちゅんちゅんが言ってたのかと思ったら!?誰なのぉ!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ