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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
六章 重たい雨空に行く手を阻まれたとしても、
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「時が満ちれば幕は上がる。後悔があろうと、なかろうと」

 でも、負担なんてのは人それぞれだ。

 私たちにとっての普通は、彼女にとっての普通じゃない。ルリリスはルリリスなりに頑張ってくれたんだし、その頑張りはきちんと評価されるべきだと思う。


「わかった。じゃあ、続きは、また明日でいいから」

「明日も……。明日も、働かなきゃいけないのか……」

「お給料、いらないってなら、いいけど」

「給料かぁ……」


 ルリリスはちょっと微妙な顔をしていた。


「正直、あんまいらねえんだよなぁ。お前らの金なんか貰っても、どこで使えって言うんだよ」

「移動販売車で、好きなもの、買えるよ?」

「あそこにあるものなら、見てたら誰か買ってくれるぜ?」


:こいつ、しっかり餌付けされてやがる……

:探索者たちが珍しがってあれこれ与えすぎた弊害

:狩りの仕方を忘れやがって

:牙を抜かれたペットがよぉ

:やっぱ苦労するって大事なことなんですね


 それはそれでどうかと思うけれど、言いたいことは伝わった。

 彼女にとって、人間社会のお金なんて意味がない。そんなものをモチベーションに頑張れって言うのも無理がある。


 ……となると、どうしようかな。

 私は私でルリリスにお礼をしようと思っていた。九重さんの技術料もそうだし、他にもシリンダーの改良をしてくれたり、呪禍対策に協力してくれたりと、たくさんお世話になったから。

 だけど、お金でってのはよくないのかもしれない。なにか他にルリリスが喜ぶものはないだろうか。

 そう考えた時、思い出したものがあった。


「じゃあ、ルリリス。これ」


 ウェストポーチをごそごそ漁る。

 中から取り出したのは、純黒色の魔石。

 リリスの魔石だ。


「返すよ」

「……はぁ!?」


:え

:お嬢!?

:それ返すの!?

:まてまてまて落ち着けってお嬢


「い、いいのか!? マジで!? マジで返してくれんだな!?」

「うん。ルリリスには、色々お世話になったから」

「いいんだな!? 本当にいいんだな!? 後でナシとか言うなよ!?」

「言わないよ」


 ルリリスは恐る恐る私の手から魔石を取る。

 宝物のようにそれを大事に握りしめて、ほうと一息。


「……さんきゅ」

「ん」


 本当に嬉しそうに、安堵したように、彼女は微笑んだ。

 素敵な笑顔だった。忘れないよう、心のメモリーに刻み込む。


:まぁええか……

:この笑顔に水を差すことは俺にはできない

:いいのかな……いいのかも……

:まあ大丈夫でしょ、ルリリスいい子だし

:心配しなくても、この子は裏切ったりしないよ


 ……さて。

 それはそれとして。


「頼みがあるの」


 ルリリスには、話さなければならないことがある。


「……お前、今言うのはズルじゃねえの?」

「えと……。ダメ、だった?」

「しかも無意識かよ……。わかったわかった、ったく。次は何すりゃいいんだよ」


 文句を言いつつも、ルリリスの口元は隠しようもないほどニヤついていた。

 魔石を返した今、これ以上私たちに付き合う理由なんてないだろうに。それでも、ルリリスは当然のように話を聞いてくれる。

 ……だからこそ。

 これは、そんな彼女にしか、頼めないことだ。


「あのね、ルリリス。私、たぶん、呪禍と戦うんだと思う」

「たぶん? なんだそりゃ」

「予感がするの。きっと、そうなるんだろうって」


 ひどく感覚的なことだから、そうとしか言えなかった。

 今に始まったことじゃない。ずっとだ。呪禍の存在を知った時から、ずっと、そうなるような気がしていた。

 迷宮という空間では、数多の運命が撚り合わさって、一つの大きな流れを形作る。この場所で長い時を過ごした探索者は、その運命の流れを非合理的に知覚することがある。

 それが、探索者の直感。

 その直感が言っている。私と呪禍は、きっと戦うことになるんだろうと。


「だから、ルリリス。もし私が、ダメだったら。その時は、その力で、みんなのこと守ってあげてほしい」

「守るって……。私が、人間どもを?」

「うん。お願い」


:お嬢……

:保険ってこと?

:お嬢、呪禍に負ける可能性も想定してるの?

:想定しない理由がないんだよ、備えなんていくらあったっていいんだから

:でもさぁ……


「……もしもの時の、セカンドプランだから。一応、ね」

「セカンドプランって、なんだよ……」


 ルリリスは、ぎゅっと魔石を握りしめる。


「勝てよ。負けんなよ。あんなヤツ、ぶっ潰しちまえばいいだろ」

「……呪禍は、前よりも強くなってる。絶対に、勝てるなんて、言えないから」

「そんなの関係ねえよ!」


 ルリリスは立ち上がる。その手の中で、魔石が強く輝いた。

 純粋な魔力の粒子となったそれは、瞬き一つの後に彼女の体に吸い込まれる。

 黒い閃光と共に、凄まじい魔力が解き放たれた。


「つまんねえこと言うな! お前は、この私に勝ったんだろうが!」


 頭から爪先まで、髪の毛の一本一本に至るまで、濃密な魔力が行き渡る。

 その一瞬で、彼女のあり様は一変した。キャンプ場のマスコットとしての姿はどこにもなく、そこに顕現したのは迷宮深層の暴威だ。

 忘れられた魔女・リリス。

 彼女の手には、いつしか古びた箒が握られている。その箒の先端を、ルリリスは私に突きつけた。

 と、そんな時。


「あ」

「は?」


 白衣のポケットで、私のスマートフォンがぴるぴると鳴りはじめた。


「……その音。電話、ってやつだったか?」

「う、うん。えと、ど、どうしよう……?」

「出ればいいんじゃねえの……?」

「ごめん……」

「あ、いや、気にすんな。うん」


 友だちと喧嘩するなんて初めてだったから、どうしたらいいかわかんなくなってしまう。

 ルリリスは大きなため息をついて、その場に座りなおす。彼女のことも気になるけれど、とにかく私は電話に出た。


「白石さん。聞こえますか」


 どうせ真堂さんだろうと思っていただけに、少し意外だった。

 電話の主は蒼灯さんだ。電話口からは風の音が聞こえる。

 高いところにいるのだろうか。蒼灯さんの声音は、緊迫感に満ちていた。


「どうしたの?」

「神鳥の巣に、到着しました」

「う、うん」


 神鳥の巣は世界樹の一番上にある。迷宮二層で、一番空に近い場所だ。

 そこにたどり着いたのなら、ちゅんちゅんにも出会えたはずだ。あの大きくて、賢くて、ふわふわした魔物に。

 蒼灯さんにとっては念願だったはずだ。

 しかし、彼女の声音は張り詰めている。


「えと、蒼灯さん……?」

「死んでます」


 蒼灯さんは。

 感情を排して、務めて簡潔に、情報を述べた。


「やられました。神鳥ちゅんちゅん、すでに死んでいます。死体があります。外傷があります。食痕があります。魔力がありません」


 悪寒が走る。

 不吉が香る。悪意が滲む。恐怖が這い寄る。

 その痕跡で、思いつく答えなんて一つしかない。


「呪禍です。呪禍は、ちゅんちゅんを喰らいました」

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― 新着の感想 ―
まじで!?えっ共闘楽しみにしてたのに!!ちゅんちゅーん(泣)
 ちゅ、ちゅんちゅんーッ!?(´;ω;`)
階層主逝ったァ!?
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