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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
六章 重たい雨空に行く手を阻まれたとしても、
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「眩むこともある。踊ることもある。大事なのは、そこにどんな意味を見出すかじゃないかな」

 #21 そざいあつめ?


 魔物素材の収集は、つつがなく遂行された。

 九重さんが作った魔物素材のナイフと、ルリリスが刻んだ術式は十全に効力を発揮した。あのナイフを刺した魔物からは面白いように魔力が抜けていき、その状態でトドメを刺すと、消滅することなく綺麗に死体が残る。

 そうして作った魔物の死体をキャンプ場に持ち帰ると、生物学者の生駒さんが目の色を変えて飛びついた。


「し、死体! し、新鮮な、魔物の死体ですよぉ! うへへへ、うへへへへへへへ……」


:危ない人だぁ……

:せめて検体って言ってくれ

:うーん、これはマッドサイエンティスト

:あんなの見ちゃいけませんよ、お嬢


 大丈夫、慣れてる。君たちも同じくらい変な時あるから。

 また、持ち帰った死体を巡って、素材がほしい九重さんと研究したい生駒さんの間で争いが起こった。

 とは言え九重さんはいい人だし、生駒さんは押しが弱い。争いと言うには不器用なものだったけれど、それでも争いは争いだ。

 そんな些細な争奪戦は、通りかかったルリリスの一言であっけなく鎮圧された。 


「もっと取ってくればいんじゃねーの?」


 そんなわけで、私はフル稼働で魔物を狩ることになったのだ。

 と言っても、私一人集められる素材には限度がある。そこで、まずは魔抜きナイフ(仮)の数を増やそうということになった。

 確保した素材で九重さんが新しいナイフを作り、ルリリス(余計な口を挟んだ罰として巻き込まれた)が放出魔法の術式を刻む。

 そうして急ピッチで増産されたナイフは、探索者協会の双葉さんの手に委ねられた。


「え、ええ? 魔物の素材を取る、道具……? あの、魔物を狩る探索者を、斡旋すればいいんですね……?」


 それからの双葉さんの動きは速かった。

 選抜された数組の探索者たちに魔抜きナイフを提供し、魔物素材の収集を依頼。双葉さんに選ばれた栄えある探索者たちは、四方に散らばってたくさんの魔物素材を供給した。


 恐ろしいことにあの少女、探索者の選定・採集依頼の斡旋・集められた資材の管理まで、ほとんど一人でこなしていた。それに加えて、蒼灯さんの不在まできっちりカバーする始末。

 前に蒼灯さんが双葉さんを褒めていたけれど、あの言葉に嘘はなかったらしい。事務机にかじりつく双葉さんは、動きが速すぎて阿修羅像のようになっていた。


「デジタルサイネージ!!」


 突如として、双葉さんはそう叫んだ。

 すると、どこからともなく作業服の人たちがあらわれて、運営キャンプの前に大きな機械を設置していった。

 デジタルサイネージ――タッチパネル付きの電光掲示板だ。


「デジタイゼーション! チケット管理! 見える化! あははははは! IT最高っ!!」


 双葉さんが凄まじい勢いでラップトップのキーを叩きまくると、デジタルサイネージにいくつもの四角い項目が高速で追加されていく。

 試しにその四角を一つタップしてみると、必要な素材・対象の魔物・生息地がコンパクトにまとめられた依頼書が出てくる。

 ここにサインをすれば、依頼を受けたことになるらしい。


:おい、このシステムって手作りじゃないよな?

:いやまさか……さすがに外注のはず……

:でもそんな素振りはなかったような……?

:手作りだったら何がまずいのん?

:あの量の仕事捌きながら、一体いつ作ったんだよって話

:もしかして双葉さん化け物か……?

:あれで新人ってのは末恐ろしすぎる

:あの子、割とガチで弊社にほしいんだけど


 まずは依頼の受注がシステム化され、ほどなくして発注から達成報告までの機能も追加された。

 依頼者はこのシステムに依頼を登録し、探索者がその依頼を選択して受注する仕組みだ。このシステムには、デジタルサイネージからだけではなく、パソコンやスマートフォンからもアクセスできる。

 そうして出来上がったのは、デジタル化されたクエストボード。

 デジタルなだけで、やっていることはなんとなく馴染みがあるような、ないような。


:あの、このクエストボード、俺らもアクセスできるんだけど……

:え、マジ?

:探索者じゃないと受注はできないけど、依頼ならできるっぽいよ

:なんだそれ、俺らでも魔物素材を注文できるってことか?

:……何のために?


 リスナーたちは首をひねっていたけれど、その意図は伝わる人には伝わったらしい。

 ほどなくして、最初の依頼がクエストボードに張り出された。

 依頼者は、迷宮外部の研究機関だ。

 それを皮切りに、次々に依頼書が掲示される。迷宮装備を制作している工房、新素材を求める大企業や、物好きな好事家まで、国内外を問わずあちこちから依頼が舞い込んできた。

 探索者に仕事を出すのは決して安くない。それでも依頼はひっきりなしに追加され続けている。


「さあ、皆さん!」


 ラップトップのエンターキーを高らかに鳴らした双葉さんは、見たことのないほどイキイキとした顔をしていた。


「線路は引きました! 金鉱脈はすぐそこです! ゴールドラッシュが始まりますよ!」


 その言葉で、探索者たちはようやく理解した。

 たくさんの仕事と金がこの掲示板に眠っている。それを思うがままに掘り出すことが、自分たちに与えられた特権なのだと。

 この時を持って、キャンプ場は憩いの地から大金鉱へと姿を変えた。今まさに、ゴールドラッシュが始まろうとしているのだ!

 ……ところで。

 それはそれとして、ですね。


「……えと、呪禍は?」


:うん

:そうですよね

:楽しそうにしてるけど、遊んでる場合じゃないんだよなー

:呪禍対策の次第によっちゃ撤退も全然ありえるんだけど

:まあ、集めた素材が呪禍対策に役立つかもしれないし……


 私のつぶやきは、リスナー以外には届かなかった。

 水を差すようでなんだけど、目下最大の問題は呪禍だ。それを解決するまでは、ゴールドラッシュなんかやってる場合じゃない。

 ……蒼灯さんだったら、こんな状況もコントロールできたのだろうか。

 あの人は今いない。彼女はもふもふを求めて、神鳥ちゅんちゅんを探す旅に出てしまった。

 それも大事なことなんだけど、それでも言わせてほしい。

 お願い蒼灯さん、早く帰ってきて。

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― 新着の感想 ―
一分程度で消えるモンスターから素材を剥ぎ取る専用ナイフ……モンハ◯じゃねーか!w
キャンプ……クエストボード……大型モンスター……うっ、頭が!
キャンプがファンタジー冒険者ギルドに早替り! 協会や双葉は手数料で儲け、探索者からの面倒な要望とかクレームとかはキャンプのまとめ役の蒼灯に投げられるやつだ。もふもふにうつつを抜かし帰って来たら中間管理…
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