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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
五章 たとえ曇り空がぐずぐずと泣き出して、
55/131

番組の途中ですが、ここで一旦CMです。

 #19-EX 【二層キャンプ】白石さんに話しかけられないまま四日が過ぎた女の配信【七瀬杏】


 吾輩は七瀬である。

 名前は杏。売れない探索者だ。


 吾輩はソロである。

 パーティを組まず、一人で迷宮に立ち向かうことを信条としている。

 否、信条などという崇高なものは持ち合わせていないが、とにかく吾輩はソロである。


 吾輩は三層探索者である。

 ソロで三層まで到達した、というのはそこそこ誇れることではあるが、前例なら結構ある。たとえるなら県大会優勝くらいの実績だ。

 そして吾輩は――。


:なあ七瀬、お前いつまでこんなことやってんの

:一人で二層うろついて楽しい?

:人と絡まないならさっさと三層に帰ったらどうなん?


「……うっさい。黙れ死ねカス馬鹿アホ死ね」


:草

:死ねが出るか

:二回も出たぞ二回も

:ひどいよ七瀬……なんでそんなこと言うの……


「あ、ごめん……。ちょっと言い過ぎたかも」


:そこで謝っちゃうかぁ

:ちゃんと最後までプロレスしてくれって

:七瀬ちゃんさぁ、しっかりしてくれないと困るよ

:こっちは七瀬の罵詈雑言を聞きに来てんだから


「うっさいキモいやっぱ死ね――死ねはまずいか。なんか、痛い目見ろ。小指とかぶつけてこい」


:ふふ

:このボキャ貧から繰り出される精一杯のやつがね、これがいいんですよ

:クセになる味してる


 今日もほんっとに気持ち悪いなこいつら……。

 ……失礼。カスどものせいで中断されたが、モノローグを続けよう。

 とかく、吾輩とはそういう生き物である。

 ソロの三層探索者、リスナー数は三百人くらい。吹けば飛ぶような弱小配信者だ。


 そして吾輩――。あー、あ、あ。吾輩吾輩って言うのも面倒だな。もういいや、普通にやろう。

 私は何の変哲もない三層探索者だ。だけど、そんな私にも一つだけ誇れることがある。あるいは、呪いなのかもしれないけれど。

 それは――。


:なあ口悪ぼっち、お前さっさと白石さんに声かけてこいって

:もう四日やぞ

:お前白石さんに話しかけるためにキャンプ来たんちゃうんか

:今んとこソロ探索しかしてないけど

:せっかくイベント参加してんのに、やってることがいつも通りすぎるんよ


 ……失礼。少々、カスどもの相手をしてくる。


「あのね、流れとかそういうのがあるでしょ。急に面識ない相手んとこ行くわけにはいかないんだよ」


:そうやって運命の出会いを待ってるからぼっちなんだろ

:もしかして七瀬って、いつか白馬の王子様が迎えに来てくれると思ってるタイプ?

:機会ってのは自分から作りに行くものなんだよなぁ


「お前らなー! その辺にしとけよなー! いい加減BANするぞ!」


:やっべ、怒った

:にげろにげろ

:冗談ですやんか~w

:俺じゃない、俺じゃないからな

:ごめんね七瀬……。ほら、仲直りのkiss……いくよ?


「消し飛べ!」


 最後のコメントをBANする。罪状はキモすぎ罪だ。

 うちの配信は治安が悪い。流れてくるのはクソみたいなコメントばっかりで、こんな風にリスナーと喧嘩するのもしょっちゅうだった。

 白石さんの配信を清流とするならば、うちの配信はドブ川だ。


「なんでうちのリスナーはこんなんばっかなんだよ……!」


:そりゃまあ、七瀬だし

:ここはインターネッツのスラム街だからね

:白石さんという光に耐えかねた闇の住民が流れ着く先がこの配信なんだよなぁ

:七瀬は俺らと喧嘩してくれるから好きだよ

:諦めろ七瀬、お前は白石さんにはなれない


「ああもう、黙ってろよ。うっさいな本当に」


 私と白石さんは、何かとよく比較される。

 探索者としての実力も、配信に集まるリスナーの質も、どれを取っても白石さんに及ばない点は、はたからすればいい娯楽なのだろう。

 なぜこんなにも比べられるのか。

 その理由は、私の身に降り掛かった祝福、あるいは呪いのせいだった。


:七瀬さぁ、白衣着たらいいんじゃね?

:ヒーラーに与えられるやつね

:あれ着たら白石さんとお揃いだし、話しかけやすくもなるっしょ、知らんけど

:適当言ってんね

:そんな服装一つでモチベが変わる女か……?


「嫌だ、絶対に嫌だ。あれだけは絶対に着ない……!」


 私には才能がある。回復魔法を扱う、類まれな才能が。

 ソロの探索者で、希少な回復魔法の適性持ち。そんな私のパーソナリティを、この上なく端的にあらわす言葉がある。

 私は、白石楓の下位互換だ。


 とんでもない暴言だけど、それは自分でも認めていることだった。

 だけど、気にしていないわけじゃない。白衣を着るのに並々ならぬ抵抗があるのが、その証拠だ。

 だって、あれを着るということは、この呪わしい才能を受け入れるってことだから。


:なあ七瀬、真面目にそろそろ誰かと絡みに行かないか?

:みんなが楽しくキャンプしてる側で、一人さびしく探索してる女を俺らはいつまで見守りゃいいの?

:見てて辛いんよ、お前の配信


 なら見なけりゃいいじゃん……。なんなんだよ、もう。


:もう白石さんじゃなくてもさ、普通に友だち作ってキャンプすりゃいいんじゃない?


「それはダメ」


 そのコメントは即否定する。

 白石さんに話しかけるため。それが、私がこのキャンプに来た理由だ。そこだけは譲れなかった。


:七瀬ってそもそもなんで白石さんにこだわってんの?

:そりゃあれだろ、積年の恨みだろ

:今まで下位互換って散々言われてきたからなぁ

:向こうはキャンプ場の中心人物で、かたやこっちはリスナーと喧嘩する女だけど

:勝負になるんか?


「違うっつの」


 なんで私が白石さんに喧嘩売りに行くことになってんだよ。するか、そんなこと。

 理由なら、前にちゃんと説明したんだけど。こいつらの頭は、大事なことに限って都合よく忘れていくらしい。

 ……しょうがない。もう一回だけ説明してやろう。


「あのね、私は――」


 その時、ポケットに入れていたスマートフォンが小さく震動した。

 探索用のスマホは、よっぽどのことじゃなければ通知が入らないように設定してある。それでも震えたということは、そのよっぽどのことがあったってことだろう。


「……あ」


:ん、どうした?

:男か

:男でしょ

:七瀬はパパ活してるって聞いたけどあれ本当?

:嘘だろ七瀬……信じてたのに……


「ぶっころすぞー?」


 クソみたいなコメントを片手間にあしらいつつ、通知を確認する。

 近隣の探索者に向けて送信される、救助要請の連絡だった。ちょうどこのあたりで、誰かが窮地に陥ったってことらしい。


「救助要請だ、結構近い」


 救助要請には可能な限り対応すべし。探索者なら当たり前の心構えだ。

 だけど、キャンプ場にはあの白石楓がいる。救助対応を専門に活動している彼女なら、数分もしないうちに文字通り飛んでくるだろう。

 私が無理に対応する必要なんて、ないっちゃないんだけど……。


:マジ? 行こうぜ

:いけいけいけいけ

:ちょうどいいじゃん、白石さんと会うチャンスじゃない?

:何ぼさっと突っ立ってんだ七瀬、さっさと動け

:これ逃したらもう次はないぞ


「うるさいな。言われなくても行くっての」


 そういった下心もないわけではないけれど。

 だけどまあ、助けを求められたなら行くだろう。探索者として、人として。

 たとえ私が、白石楓の下位互換じゃなかったとしても、きっと私はそうしたはずだから。

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