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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
四章 積み重ねた日々は星空のように輝いたから、
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一方その頃、蒼灯さん。

 日も暮れてきた頃、キャンプ場に一台のトラックが到着した。

 食料品や日用品を満載した移動販売車だ。店主さんは一般の方。割高にはなるけれど、キャンプでは手に入らない色々なものを売ってくれるらしい。レトルト食品生活にも飽き飽きしていたので、これは正直助かった。

 お弁当を確保してほくほくしていると、蒼灯さんとばったり出くわす。


「あ、白石さん。お疲れ様です」

「おつかれさま」


 私たちはキャンプをしているはずなのに、自然とお仕事っぽい挨拶になる。

 というか、始まりこそただのキャンプだったけれど、今となっては正真正銘お仕事だ。

 キャンプの運営体制が日療主導に変わってから、私たちの活動は正式に仕事になった。日当も出るし、医療行為以外の経費も申請していいらしい。蒼灯さんの方にも、日療から正式に謝礼金が出るんだとか。


「白石さん、どうでした? なんだか大変そうでしたけど」

「あ、うん。こっちは問題なし」

「おや」


 蒼灯さんは、ちょっと意外そうな顔をした。


「読みが外れましたかね、これは」

「えと、何が?」

「ああいえ、気にしないでください。上手くやれているのなら何よりです」


:この女、波乱を求めてやがる……

:あおひーいい性格してんなぁ

:ちなみにちゃんと大変なことにはなってました、部下の人たちが

:とんでもないことになってたね、部下の人たちが

:でもお嬢は問題なしって言ってるよ

:ほな問題なしかぁ


 うちの部下たち、最初はどうなるかと思ったけど、育ててみるとこれが案外悪くない。

 体の基礎はできているし、運動神経も備わっている。素材としては文句なしだ。魔力と戦闘技術さえどうにかすれば、探索者として十分通用するだろう。

 それに何より、彼らにはやる気がある。今日の訓練は終わりと言ったのだけど、あの五人は今でも木刀を振っていた。


「それで、えと。蒼灯さんは……?」


 私としても、蒼灯さんには聞きたいことがある。

 具体的に言うと、彼女の後ろに身を隠している少女について。蒼灯さんの背後には、大きなカバンを持った女の子がぴったりと張り付いていた。


:なんか蒼灯さんの後ろに守護霊いない?

:もしかしてお子さんですか?

:そうだよ

:マジかよあおひー……嘘だと言ってくれ……

:嘘だよ

:うわあああああああああよかったああああああああああああ

:なんでも信じるじゃん

:正直村の住民か?


 今日も楽しそうだな、うちのリスナー。

 まあいいや、リスナーよりも蒼灯さんだ。目を向けると、蒼灯さんは投げやりに笑った。


「こっちは、ちょっと結構問題です」

「も、問題……!? 先輩、何か問題があるんですかっ!?」

「あなたのことですよー」


 少女が声を上げると、蒼灯さんは雑にあしらった。


「この方、探索者協会の方なんですけれど。なんか、こうなりました」

「なんかとは」

「なんかとはなんかです。正直、私が聞きたい」


 蒼灯さん、少し疲れた顔をしていた。

 目を向けると、少女はびくんと体を跳ねさせてから、おずおずと前に出る。その胸には、大きなカバンが盾のように構えられていた。


「あ、あの。探索者協会職員の、双葉です。蒼灯さんの後輩として、精一杯お手伝いさせていただきます!」

「非公認です。後輩として認めた覚えはありません」

「……み、認められるよう、がんばりますっ!」


:どういうことなの……

:後輩に公認とか非公認とかってあるんだ

:いいなー、俺もあおひーの後輩になりたい

:なれるぞ

:なるか?

:もしかして探索者になれって言ってる?


 健気な子だった。思わず応援したくなってしまうくらいに。

 けれど、ツッコミどころが結構あって。


「あの、探索者協会の方、なんですよね」

「は、はいっ……! 双葉は、協会の新人職員ですっ!」

「……なんで、後輩?」

「運命です。もはや双葉には、蒼灯先輩の後輩になるより他に道はないと悟りました!」

「あります。いっぱいあります」


 蒼灯さんの冷静なツッコミも、双葉さんには聞こえていないようだった。


:協会の人って、立場的には上なんだよな……?

:それはそう

:いくら新人とは言えどだよ

:この子大丈夫か……?


 探索者協会は私たち探索者の取りまとめとなる組織だ。探索者を監督する立場だし、場合によっては素行不良な探索者に指導をすることもある。

 そんな組織の職員さんが一般の探索者に付き従っているのは、たしかにちょっと結構問題だった。


「私からも何度も言ったんですけどね。なぜかこうなっちゃいました」

「だ、だって。蒼灯先輩、優しくて頼りがいがあるから……」

「しっかりしてください。私はあなたの先輩ではなく、一介の探索者です」

「で、でもでも……。迷宮の中って、すっごく危ないじゃないですかぁ……。何かあった時、双葉が頼れるのは蒼灯先輩しかいないんです……!」

「……まあ、お招きした以上は、身の安全くらいは保証しますけど」

「じゃあ、今夜、一緒のテントで寝てもいいですか……?」

「それはダメ」

「そんなぁ」


 面白い子だった。

 そんなに心配しなくても、キャンプの中にいる限りは危ないことなんてそうそうない。不安になる気持ちもわからなくはないけれど、それにしたって心配性な子だ。


「……えと。蒼灯さん、その子、大丈夫?」

「大丈夫だと思いますよ、たぶん。性格はご覧の通りですが、仕事ぶりについては文句のつけようがありません。かなり優秀ですよ、この子。おかげで私もだいぶ楽になりました」

「せ、先輩……! それなら、双葉のことを後輩と認めてくれますか……?」

「認めません。それとこれとは話が違う」

「そんな……。わかりました。それなら双葉、認められるようにがんばります……!」

「そうじゃない……」


:草

:また面白い子が来たなー

:珍しくあおひーが押されてる……


 今日一日、彼女のこんな調子に付き合わされ続けたのだろうか。蒼灯さんはお疲れの様子だった。

 ……大丈夫かな、色んな意味で。ちょっと心配だ。


「っと。すみません、白石さん。売り切れる前にお弁当を買いに行かないと」

「あ、うん。またね、蒼灯さん」

「はい、また後で。双葉さん、行きますよー」

「は、はいぃ……」


 雑談もそこそこに、蒼灯さんは移動販売車にお弁当を買いに行く。双葉さんも、その後をぴったりとついていった。

 なんだかんだ仲はいいらしい。寄り添ってお弁当を選ぶ姿は、まるで仲睦まじい姉妹のようだった。


「…………」


 なんか、いいな、ああいうの。

 家族みたいで、羨ましい。


「ふうん……。なんだ、あんな弱っちいのまで面倒見なきゃいけないのか。人間も大変だなぁ……」


 少し離れたところから聞こえてきたつぶやきを、私の耳はしっかり捉えていた。

 声の主は、例の黒尽くめの女の子。テントの裏に隠れているつもりらしいけれど、大きな帽子のつばが見えている。

 実は私。さっきから、ストーカー被害に遭っているのだ。

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― 新着の感想 ―
「リリス!きさま!見ているなッ!」
どういう展開になるのか楽しみです。 あおひー珍しく押され気味だな?
協会は双葉みたいなのを動ける受付嬢にしてキャンプ場をダンジョン内ギルド出張所に拡大する気かな。中堅・上位探索者が帰還の必要を減らしより長くダンジョン生活しやすくすることで魔力への順応を進めより深部を狙…
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