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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
四章 積み重ねた日々は星空のように輝いたから、
39/131

ごめん、やっぱ難易度Cくらいあるかも(笑)

 #16 どうしよ


 翌日。

 それらは、濁流のように押し寄せてきた。


「天文学者の天井です。迷宮という場において我々は若輩者です。至らないこともあるかと思いますが、お手柔らかに頼みますよ」


 人の良さそうなおじいちゃん。


「植物学者の植村だ。見渡す限り新発見だらけで、年甲斐もなくわくわくしている。フィールドワークをする際は、是非とも探索者諸兄の胸を借りたい」


 気合十分のおじさま。


「生物学者の、生駒です……。魔力性特殊生物群――俗に言う、魔物を専門に研究しています。つ、つまり、魔物学者、です。ふへへ……。なんだか、ファンタジーみたいですよね……」


 ちょっと怪しいお姉さん。


「鍛冶師の九重。学者ではありませんが、技術研究のために来ました。いくらか設備を持ち込んだので、装具の整備や器具の製作などでお役に立てるかと思います」


 つなぎ姿のお兄さん。


「ま、魔法使いの、ルリリス・ノワールだ。お前らなんか、怖くないんだからな……!」


 なぜか涙目になっている、自称魔法使いの女の子。


「探索者協会から来ました、双葉です……。わ、私、まだ新人なんです。いきなりこんな場所に派遣されるなんて、聞いてないよぉ……」


 大きなカバンを抱きかかえて、ぷるぷると震えている少女。


「日本赤療字社所属ゥ! 迷宮救命士訓練生の、炎山ッ! 及びッ!」

「焔火ィ!」「火城ォ!」「火影ェ!」「火野原ァ!」

「五人揃ってェ!」

『熱血救命戦隊、フレイムファイブッ!』


 …………。

 なんか、その。すごいひとたち。


「あおひさん、あおひさん」

「なんですか白石さん」

「楓はもう、おうちにかえりたくなってきました」

「こらこらこらこら」


 だってだって、だってだよ。目の前で暑苦しくポーズを決めるこの人たちが私の部下なんて、私はちょっと信じたくない。

 助けてほしい、と蒼灯さんを見上げる。結構必死に。むしろ懇願気味に。


「あ、蒼灯さん、あの。あのあの、えと」

「……白石さん」


 蒼灯さんは菩薩のように微笑んだ。


「私、お仕事があるので、また後で」

「えっ」

「がんばってくださいね、白石さん!」

「えぇー……」


 そう言って蒼灯さんは、探索者協会の人を連れてどこかに行ってしまった。

 それを合図に、キャンプ場にやってきた一般の方々はめいめい散らばっていく。あとに残ったのは、私の部下を自称する不審者五人だけ。

 ……私も、自分のテントに帰ろっかな。


:本当に見捨ててったぞあの人

:まあ、蒼灯さんは蒼灯さんで忙しいから……

:泣かないでお嬢、俺らがいるからね

:がんばれお嬢、がんばれがんばれ

:いやあ、これが部下ってのは中々持て余すぞ

:またすごいのが来たなぁ


 わかってくれるのはリスナーだけ。うちのリスナー、今日もあったかいなぁ……。


「大隊長殿ォ!」

「ひっ」


 あったかいコメントによしよしされていると、部下を自称する不審者が突然大きな声を出した。


「あらためて自己紹介いたします! 手前は炎山、本隊の隊長を預かるものであります! 大隊長殿に置かれましては、どうかお見知り置き願います!」

「え、えと、その。大隊長、というのは……?」

「大隊長殿のことであります! 大隊長殿は、本隊に対する上位指揮権を有しております!」


 せ、説明になってないよぉ……。

 勝手に変な役職に就任させないでほしい。それに、指揮権を預けられたって、私には彼らの指揮なんてできない。そういうのは私よりも真堂さんの方が適任だ思うんだけど……。


「本隊は迷宮内での訓練を命じられております! つきましては、大隊長殿のご指示を仰ぎたく!」

「へ、え、え? 指示、というのは……?」

「訓練内容について、ご教示願います!」


 え、それ、私が指示するの……?

 彼らが迷宮で訓練をするとは聞いていたけれど、面倒を見るとは聞いていない。むしろ聞いていたのは、放っておいても大丈夫、みたいな話なんだけど。


「ちょっと、あの。確認します」


 スマートフォンを取り出して、電話をかける。

 電話をかけた先は、困った時の真堂さんだ。


「真堂さん、真堂さん、助けてくださーいー……」

「どうした。またカレーか?」

「えと、その、あの。私に、部下が、ついたみたいで」


 かくかくしかじか。


「なるほど……。そういうことか」


 電話先から返ってきたのは、苦々しい声だった。


「現場指揮が必要なら俺が担うこともできる。だが、指導というのは悪いが専門外だ」

「私だって、専門外です」

「だろうな。それにそもそも、三鷹のやつが君に指導を頼むとは思えない」

「というと……?」

「おそらく、この件は彼らの勘違いだ」


 ああ……。なるほど。そういうことなら納得する。

 彼らは訓練のためにここに派遣されてきて、ここには迷宮救命士としての上司に当たる私がいる。よって、訓練についての指示は私に仰ぐべきだと判断したのかもしれない。

 つまり、これはまったくの誤解。私が彼らの指導をする必要なんてないのでは……?


「だが、君には迷宮救命士として多くのノウハウがある。それを伝えることには大きな意義があるだろう」

「え」

「できれば彼らの訓練につきあってやってくれないか? 何もかも面倒を見る必要はない。時間がある時に、探索者としての基本を教えてやってくれたらそれで十分だ」

「ええー……」


 やれと仰るか。やれと仰るのか、あなたは。


「まあ、無理にとは言わないが……」

「うー……」


 やりたくない。本当にやりたくない。心の底からやりたくない。

 しかし、真堂さんが言う通り、彼らを訓練することに意義があるのも事実だ。


 日療による迷宮内での救助活動は未だ試験段階にある。日療だけですべての救助要請に対応できているわけではないし、救助の大半は今でも一般の探索者たちの手によるものだ。

 それもこれも、迷宮救命士の数がまったく足りていないから。三鷹さんが求人を頑張ってくれているんだけど、ヒーラーの希少性からあまり上手くいっていないらしい。


 だから、迷宮救命士の数が増えれば、私たちはもっと救助活動の手を広げられる。

 もっと多くの人を助けられる。もっと多くの命を救える。

 もっと多くの、明日を守れる。


「やり、ます」


 だったらそれは、私の仕事だ。


「悪いな、白石くん。一つ貸しにしておいてくれ」

「……真堂さん。うまくいったら、褒めてください」

「あ、ああ」


 電話を切る。腹はくくった。仕事は仕事だ、やるしかない。

 あらためて私は、隊長さんに向き合った。


「えと、じゃあ。まず、基本的なことから」

「了ッ! いざ、よろしくお願いしますッ!」

『よろしくお願いしますッ!』

「ひぃん……」


 まず、大きな声を出すの、やめてもらえない……?

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― 新着の感想 ―
日療のやりたいことって辻ヒーラーかと思ってたけどレッドだらけの戦隊ってことは戦闘メインなのかな? 地上勤務経験者に探索の経験を積ませるにしてもソロ強者は参考にならないし、上と現場で目指すゴールを共有し…
まずは大隊長の後ろ頭からでも意図を汲めるレベルまでお嬢検定を上げることが先決だ!つまりリスナーをやるのです。
日療の業務レベルでOJTなら医大も看護学校もいらなくなるだろうにww
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