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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
四章 積み重ねた日々は星空のように輝いたから、
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努力 未来 A BEAUTIFUL STAR

 #15 すごかった・・・


 決めた。

 私、ムキムキになる。


:あの、お嬢?

:なんで急に筋トレをはじめたんですか

:まさか昨日のか!? 昨日のあれでか!?


 翌朝。寝起きの頭をはっきりさせた私は、早朝のキャンプ場で筋トレをはじめた。

 今日から一生懸命筋トレして、腹筋を割ろう。私もムキムキボディを手に入れるのだ。


:どういうことなの……

:そんなに筋肉が好きだったのか

:だとしても自分で鍛えようって発想になるかぁ?

:そこはこう、筋肉質な人を好きになったりするものなんじゃないですかね

:お嬢だぞ、他人に何かを求めるなんて思考回路があるわけないだろ

:人を好きになるとか以前の問題だった……?

:大丈夫かこの子


 筋肉はいいものだ。鍛え抜かれた肉体は何物にも代えがたい輝きを放つ。

 大自然と調和しつつも確かな存在感を放つ肉体美は、こと迷宮において至高の芸術品と言っても過言ではない。

 それに筋肉には実用性もある。その真価はリリス戦でも発揮されたじゃないか。この身に宿る魔力が尽きた時、最後に物を言うのは肉体なのだ。

 そう、筋肉はすべてを解決してくれる。みんなも体を鍛えよう!


:鍛えたって、お嬢の場合そんな変わんないと思うぞ

:普段から十分すぎるほど運動してるのに、この細さは体質的に向いてないとしか

:そもそも探索者の身体能力ってほとんどが魔力依存だから、筋肉増やしたってあんまり意味ないし

:むしろお嬢はもうちょっと肉をつけた方がいい、色々な意味で

:蒼灯さんと並ぶと、なんかこう、ね

:微笑ましさがね、ちょっとね


 うるさいうるさい。文句あるか。私は筋肉がほしいんだ。

 どれだけ剣を振り回しても肉一つつかなかったこの細腕だけど、今度こそはムキムキの筋肉をつけてみせる。英雄ヘラクレスやアキレウスのような、ハイパーマッソォを手に入れるのだ。


:丸太担いでスクワットしてる……

:トレーニングとかいうレベルちゃうぞ

:いや絵面よ

:通りすがりの人たち三度見くらいしてますけど

:あの、お嬢ってパワーはそんなにないんじゃなかったですっけ

:(五層探索者の中では)スピードタイプ

:お前のようなスピードキャラがいるか


 最近あんまりやってなかったけど、久々にやると楽しいな、筋トレ。

 ワークアウトを済ませて、続きまして走り込み。

 早朝のよく澄んだ森を軽快に駆け抜けていく。朝もやに包まれた森はしっとりと露に濡れていて、やや肌寒いくらいの空気が心地よい。

 木々の間から差し込む朝日がなんとも神秘的だし、時折命を狙って襲い来る魔物も刺激的だ。

 散歩も好きだけど、こんな風にランニングするのも楽しい。

 あらためて思う。私、やっぱり、迷宮が好きだ。


:ちょっとした障害物みたいなノリで魔物狩るのやめーや

:あの、何度も確認して申し訳ないんですけれど、迷宮って危険な場所なんですよね

:世界屈指の危険地帯やぞ

:迷宮内では複数人行動が基本だし、入る前には念書を書かされるような場所だよ

:本当なら十分に安全確認しながら進まなきゃいけない場所を、遊歩道みたいなノリで走ってやがる……

:もう突っ込むの疲れたよ俺

:まあ、お嬢が楽しそうだしいっか……


「えっほ、えっほ」


 てってこてってことキャンプ場近くの森を走っていると、大きなブナの木が見えてきた。

 一見して何の変哲もない木だけど、この木の枝には鳥小屋が吊り下げられている。

 この鳥小屋、実を言うと日療から提供された支援物資だったりする。三鷹さんにお願いしたアレ、一応届けてくれたのだ。

 昨日の今日で入居者なんていないと思うけれど、ちょっとだけ期待して覗き込んでみた。


「あ」


:あ

:おや

:おるやん

:いい物件に目をつけましたね、君


 設置して早々、鳥小屋には来客がいた。

 緑色の翼を持つ、尾の長いすらっとした小鳥だ。私が覗き込んでも逃げる様子はなく、それどころか興味津々と近寄ってくる。

 かわいい。大変にかわいい。とってもとってもかわいらしい。

 でも、なんとなく、どこかで見た覚えがあるような。


「……この子、私のピラルク、取ってった子じゃない?」


:え、マジ?

:あー、たしかにそうかも

:なんか緑の鳥いたな、そういや

:よく覚えてるなぁ


 間違いない。あの時逃げていった鳥の中に、こんな風に尾の長い鳥がいたような気がする。

 同じ個体かどうかまではわからないけれど、まあ、この子ってことにしちゃおう。


「人のご飯を取った上に、勝手に住み着くなんて。悪い子だ」


:そうだそうだ

:お嬢のピラルクを返せ!

:無銭飲食に不法滞在たぁ、ふてぇ野郎だ

:食費と家賃を払え

:撫でさせろこの野郎


「食べる?」


 ウェストポーチからナッツの小袋を取り出して、いくつか手のひらの上に転がす。

 野鳥はひょこひょこと鳥小屋から顔を出して、私の手からナッツを一粒くわえて持っていった。


:かわいい……

:人に怯えないなぁ

:好奇心旺盛な子だ

:いい子が入りましたね

:なんて鳥なんだろ、この子


「それも、ツケにしとくから。またね」


:草

:極悪取り立て人お嬢

:鳥だろうと無銭飲食は許されぬ……

:人にやさしく鳥に厳しい

:次もまた愛でさせろよ


 ばいばいと手を振って、私はランニングに戻った。

 引き続きてってこてってこ走っていると、今度は向かいから探索者の一団がやってきた。

 男女混合、十人ほどの団体さんだ。最低限の武装はしているけれど、全体的に身軽な姿。この人たちも朝のランニングをしているらしい。


「あ、白石さん。おはようございます」

「お……はよう、です」


 と、突然すぎて、びっくりしたけど。

 よし、なんとか、挨拶はできたぞ。がんばった。


「白石さんもランニングですか?」

「えと……。はい」

「うちらも今、みんなで走ってて。よかったら白石さんも来ませんか? 一人だと危ないし」

「へ、え、え?」


:あっ

:まずい

:これは……どうだ……?

:大丈夫か……?


 先頭を走っていた女の方がそう提案する。それは、私にはあまりにもハードルの高いお誘いだった。

 会ったばかりの人たちと一緒に何かをするなんて、人間業と思えない。(強弁)

 ましてや相手は、ろくに話したこともない相手を気軽に誘えてしまうコミュ強だ。(断定)

 そんな人たちの中に私のような弱小存在が混ざろうものなら、周囲から放たれる存在値の圧力により自我が致命的に欠損し、最悪の場合命に関わる事態になりかねない……!(超早口)

 むりだ。しんじゃう。わたし、まだ、しにたくない……!


「え、え、えと、その。あ、あの……」

「……やめときます?」

「ご、ごめんなさい……!」


:あー……

:ですよねー

:お嬢にはちょっと早かったか

:まあ、その、どんまい


 頼みを断るというのも、それはそれでハードルが高くて。

 頭の中がぐるぐるして、逃げるように走りだしてしまった。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 何処ぞのコマンド○の初登場シーンみたくいきなり丸太を担ぐよりは、某隊長が日本に広めたブートキャンプでまずは筋肉が付く下地を作ってから筋トレしたら、より効果が有りそう。
やってることは冒険者だね! 絵面と程度が違和感というか脳が拒否するだけでw
気持ち程度だけど、いつもよりちゃんと会話出来てるような? いや、そうでも無い? 筋トレは精神修養にもなるらしいから頑張れお嬢。
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