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配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信  作者: 佐藤悪糖
三章 突き抜けるような夏空の下で、
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ゆ◯キャン3 ~白の覚醒、蒼の再臨~

 迷宮。

 それは突如として地底に出現した、地続きの異空間。

 世界最新のフロンティアとも称されるこの空間には、日夜探索者たちが足を踏み入れ、探索活動に精を出しています。

 そんな迷宮で一夜を過ごした一人の少女、白石楓。本日は、彼女の朝に密着して参りましょう。

 ナレーターはこの私。どうぞ、よしなにお願いします。


:なんかはじまった

:ドキュメンタリー番組か何か?

:ナレーターさんいい声してますね

:あれ、ここお嬢の配信だよな?

:朝っぱらから配信ジャックされてる……


 時刻は朝方六時。白石さんのテントから、ごそごそと物音がしはじめました。

 どうやら目を覚ましたようですね。これは彼女にとっては、いつも通りの起床時間。迷宮内であれど、生活習慣を崩すことのない様は流石と言えるでしょう。


:なんでいつもの起床時間を知ってるんですかねぇ

:おう匂わせか?

:まあ、配信外では仲いいらしいから……

:謎に満ちたお嬢の生態がまた一つ解き明かされた


 しばらくして、テントから白石さんが出てきました。

 まだまだ眠そうなお顔をしていらっしゃいますね。軽く挨拶してみましょうか。

 おはようございます、白石さん。


「……ぁぃ」


:完全に寝ぼけてる……

:まだ寝てるんちゃうかこれ

:またラフな格好で出てきたけど

:これ新衣装ってことでいいか?

:ただのルームウェアなんだよなぁ


 白石さんは眠たげな目をこすりながら、靴を履いてぺたぺたと歩いていきました。

 キャミソールにショートパンツ、それらの上から一枚羽織っただけの姿ですが、愛剣だけは忘れずに携えております。これはもう探索者としての習性みたいなものですね。

 向かった先は、キャンプ地近くの川原。どうやら、顔を洗いに来たみたいです。


:部屋着に剣だけ持って迷宮うろついてる……

:あの、一応確認なんですけど、迷宮って危険地帯なんですよね

:さすがに無防備すぎない?

:寝起きでうろついていい場所ちゃうぞ

:ナレーターさん、探索者ってああいうものなんですか


 いや、あれは白石さんだけですね。よっぽどの命知らずでもない限り、あんなことしませんよ。


:草

:それはそう

:ばっさりいったな

:冷静なツッコミ助かる


 キャンプ地は俗に言うボス部屋というやつですが、川原の方は通常の迷宮です。無防備にうろついていると、魔物と遭遇してしまうかもしれません。

 そう言っている側から、向かいから魔物がやってまいりました。

 あれは、鹿型の魔物でしょうか。

 普段の白石さんなら相手にもなりませんが、今の白石さんはご覧の様子です。これは少々危険かもしれませんね。

 僭越ながら、私の方で退治させていただきましょうか。いざ。


「なー……」


 あ。

 白石さん、ご自分で処理なされましたね。相変わらずいい腕です。


:寝ぼけたまま斬りやがった……

:寝てても勝てる(ガチ)

:あの、寝ぼけながら剣振り回さないでください

:もしかしてこの子普段からこんな感じなんですか


 まあ、さすがにあれは殺気に反応しただけだと思いますよ。たぶん。きっと。そういうことにしておきましょう。

 さて、敵もいなくなったところで、白石さんは川辺に近づいていきます。そして、おもむろに服の袖に手をかけて――。

 おっと。


:あれ?

:急に画面が

:何も見えなくなったけど

:どした?


 白石さん、どうやら顔を洗いに来たのではなく、水浴びをされに来たようですね。

 彼女は服を脱いで、川の水で身を清めていらっしゃいます。つまりはその、一糸まとわぬ姿ってやつなわけで。

 ということで。ここからは、音声のみでお楽しみください。


:一番いいとこじゃねーか!!!!!

:見せてくれよおおおおおおおおおおおおお

:あの、ナレさん、無理を承知でお願いするのですが


 ダメです。


:我々にはお嬢の生態を観測する義務と権利があってですね

:ほんのちょっとだけ! ほんのちょっとだけでも見せてください!

:靴でもなんでも舐めますから……どうか……どうか少しだけでも……


 ダメですよー。


:やましい気持ちはありません、あくまでも学術的好奇心です!

:卒業論文にどうしても必要なんです!

:病気の妹もこれを見たら手術を受けられると思うんです! お願いします!


 …………。

 お兄ちゃんの、えっち。

 って言うと思いますよ、その妹さん。


:ナレさん??????

:いい声でなんてことおっしゃるんですか

:お茶吹いた

:俺の中の内なるお兄ちゃんが目覚めちまうよ

:朝からありがとうございます、大変助かりました

:たった一言でリスナーをなだめやがった……

:相変わらず配信うめーわこの人

:勝てる気がしない


 さて、そうこうしているうちに水浴びが終わったようですね。

 白石さん、何か体を拭くものを探しているご様子。と言っても、ここにあるのは剣と服だけです。ご自分のタオルはキャンプ地に忘れてきちゃったみたいですね。

 これは、今度こそ私の出番でしょう。

 どうぞ、白石さん。タオルですよ。


「……ぁぃ、ぁと」


 そろそろ目が覚めてきましたか?


「んぅ……」


 あらら。まだダメみたいです。お寝坊さんですね。

 白石さんも服を着直したので、そろそろ画面を元に戻しましょうか。

 それではどうぞ、ご覧ください。水浴びをして綺麗になった白石さんです。


:やったー! 水浴びをして綺麗になった白石さんだー!

:ちょうど水浴びして綺麗になったところが見たいと思ってたんだよね

:眠そうな顔してんね

:まだちょっとおねむか

:風邪引く前に髪乾かすんだぞお嬢

:お嬢は今日もかわいいな


 さて、キャンプ地に戻りましょうか。

 白石さん、手をつなぎましょう。迷子になったら大変ですからね。


「ぅー……」


 ……にへへへ。

 普段、あんなに強い白石さんが、こんな風に従順になってるのを見ると……。

 なんていうか……。ちょっとだけ、イケナイ気持ちになってきますね……。


:ナレさん?????

:従順って言い方やめて?

:あの! 野生動物に手を触れるのはいけないと思うんですけど!

:お嬢は野生動物だった……?

:天然記念物ではある


 白石さんを連れて、キャンプ地にまで戻ってきました。

 戻るやいなや、白石さんはテントの中に引っ込んでいきましたね。あの子にも朝のお支度があるのでしょう。

 さて、その間に私の方も準備をしておきましょうか。

 取り出しましたるはホットサンドメーカー。パンを敷いて具材を挟んで、バーナーで炙るだけで簡単にホットサンドが作れる、キャンパーなら一度は憧れるアレです。実際、手軽にそれっぽいのが作れるので重宝します。


 まずはハムとチーズを重ねて作る、オーソドックスなハムチーズサンド。続いて、じゃがいもがごろっと入ったポテトサラダを挟んだポテトサンド。それともう一つ、千切りキャベツとツナマヨに黒胡椒をぴりりと効かせたツナマヨサンド。

 具材の下ごしらえは家で済ませてきたので、ここでは挟んで焼くだけです。焼き上がったら食べやすく半分にカットしておきましょうか。お飲み物には、オレンジジュースが用意してあります。


:さらっと作るじゃん

:めちゃめちゃ手際いい

:これが女子力か

:どっかのピラルク丸焼き女も見習ってほしい

:あれはあれで生命力に溢れてたから……

:俺、一緒にキャンプするならナレさんがいい


 準備もできたところで、白石さんを呼びましょう。

 それではみなさん、ご唱和ください。せーのっ。

 白石さーん!


:白石さーん!

:お嬢ー!

:楓ちゃーん!

:撲殺天使ー!

:ピラルク丸焼き女ー!


「ん……」


 あ、出てきましたね。いい子です。

 テントから出てきたのは、いつもの白石さんです。オーバーサイズのシャツに健康的なショートパンツ。トレードマークの白衣もしっかり羽織っています。髪がちょっとぼさぼさなので、後で整えてあげましょう。

 白石さん。朝ごはん、できましたけど。食べますかー?


「……たべる」


 ぽてぽてと寄ってきた白石さんを椅子に座らせます。三種のホットサンドを盛ったお皿を差し出すと、むぐむぐ食べ始めました。

 私も向かいに自分の椅子を持ってきて、朝食をいただきます。

 ……うん、よし。人様にお出しできる程度の味なのではないでしょうか。


「……あれ」


 リスのようにホットサンドを頬張っていた白石さん。彼女の瞳の焦点が、徐々に合ってきました。

 その目が向けられているのは、私。どうやらこの寝坊助さんも、ようやく頭がはっきりしてきたようですね。


「あおひさん。なんで、いるの?」


 はい、おはようございます。

 申し遅れましたが、私、ナレーターの蒼灯すずと申します。

 ……知ってましたか?

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― 新着の感想 ―
 仲いい美少女たちの戯れ…(*´-`)
仲のよさそうな探索者なんてこの人しかいないだろと思って気づきました 皆さん気づくの早い……
・定点にテント張ってるから居場所は解る ・配信は基本なので、カメラは睡眠中も稼働 あおひさんは、過去にカメラ掴んで配信のナレーターして、許可貰ってたから、その要領で遊びに来た、と。 ……そういえば…
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